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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
第2章 -圭介-
25/63

15話

 台風が近づいている。

 生暖かい強い風が車に横殴りで吹き付ける。

 雨は降ってないが、開けた窓からタバコの煙が逆流してくる。

 オレは窓を締めてタバコを吸うのを諦めた。

 曇った空はそれなりに明るくなってきた。

 

 玲に何も言わずに来たけど、大丈夫かな。

 メールでもしておこうか、なんて考えをすぐ打ち消した。

 話をしてしまったら元の木阿弥だ。


 人気のない街を通り過ぎ、オレは海に向って走った。

 1時間ほど走っただけで太平洋岸に出られる。

 オレはいつも通り、海岸線に隣接した臨海公園の駐車場に車を止めた。

 玲が帰ってくるまではオレは毎週末ここに来ていた。

 倒した後部席にはサーフボードが無造作に置いてある。

 サーフィンはこの街に来てから始めたので、今だに上手いとは言い難い。

 だが、一人で海の中にいる孤独感と開放感がオレは好きだった。

 つまり波に乗ってる時間より、浮いてる時間の方が長いのだけど。

 これがオレの日焼けの原因で、日本人に見えない所以だ。


 海はかなり荒れていた。

 真っ黒な波がどんどん生まれては飛沫を上げ消えていく。

 オレは何も考えず、ボードを担いで海に入った。

 たちまち波はオレの胸の高さまで来た。

 確かにいつもと全然違う強さだ。

 オレはボードにつかまりパドリングで沖の方へ向う。

 突然、ボードが向きを変えた。

 有り得ない方向に向って引っ張られていく。

 初めての経験だった。

 白い飛沫が海の中央に向って集まっていく。

 オレは海岸に立ててあった看板を思い出した。


『渦潮注意!遊泳禁止!』


 遊泳できるとこでサーフィンできるかと、今まで気にしてなかったあの看板。

 なるほど、これがそうか。

 感心している間もなくオレは大波を頭から被り、海中に飲み込まれた。

 ヤバイ!

 完全に溺れている。

 何とか顔を出して息をする間もなく、次の波が頭から襲い掛かる。

 自分では岸に向って泳いでいるつもりなのだが、体は渦の中央に向ってどんどん引き寄せられている。

 巻き込まれたら終わりだ。

 オレはボードを捨て、垂直に海底に向って泳いだ。


 どうやって辿り着いたか全く分からない。

 半分意識を失ったようにオレは泳いでいた。

 浮いたまま流されて来たというべきか。

 足の裏に砂を感じ、オレはやっと立ち上がった。

 ヨロヨロと砂浜まで上がって、そこでオレは仰向けに倒れた。

 満身創痍とはこのことだ。

 海水の飲みすぎで口の中が塩分でヒリヒリする。

 オレを待っていたかのように大粒の雨が降り出した。

 痛いくらいの大粒の雨が素肌に降り注ぐ。


 オレ、何やってんだろ?


 死にかけてやっと我に返った気がした。

 早く動かないと潮が満ちてくる。

 分かってるのに、体が動かない。

 冷たい雨にさらされている体はだんだん体温が下がっている。

 眠気を感じて目を閉じかけた時、雨が突然遮られた。

 目を開けると、傘を差した人の顔があった。


「大丈夫?溺れたの?」


 女の人の声だ。

 さっきの見られたかな。

 かっこわる・・・。


 オレはボンヤリ考えながらまた目を閉じた。

 途端、オレの頬にビンタが飛んできた。

 一瞬、眠気が飛んでオレは目を見開いた。


「寝ちゃダメよ。ホントに死ぬよ。ホラ、立って!」


 優しい声の持ち主は信じられない力でオレを抱き上げた。

 オレの腕を自分の肩に掛けると引きずるように歩き出す。


「私の家に行くよ。あなたも歩きなさい!」


 オレは言われるままに両足を交互に動かした。

 

 女の人なのに逞しいなあ。


 場違いなことを考えつつ、オレは自分を支えるこの強い肩に今は全面的に頼るしかなかった。



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