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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
ラビリンスの終焉 第1章 -玲-
21/63

11話

 至近距離で見ると、岡崎君は確かにかっこいい。

 育ちの良さが分かるというか、気品のある整った顔立ち。

 背筋が伸びてシャキっとした姿勢が、堂々とした雰囲気を見せる。

 長い手足を持て余すように、足を組んだり頬杖をついたり、どちらかといえばダランとした雰囲気の圭介とは別の種族の人みたいだ。

 圭介が大型ネコ科動物なら、彼はさしずめ軍用犬か。


 自信満々で誘ってきたと思いきや、あたしが来たのが心底意外だったようだ。

 嬉々としてにさっきのウェイターを呼んだ。


「玲さん、何でも注文言って下さいね。この店ぼくの行きつけですから」

「じゃあ、パーティーの段取りしてくれたの岡崎君?」


 彼ははっと顔を上げる。


「ぼくの名前覚えててくれたんですね?」

「あ、だってメールに書いてあったし」

「でも、感激です。本名は岡崎悠樹です。悠樹って呼んで下さっても結構です」

「あ、はあ・・・。じゃあ、飲み物はカシスソーダお願いします」


 あたしはさらりと受け流した。

 苦笑しているウェイターに岡崎君は臆することなく注文する。


「じゃ、カシスソーダとウーロン茶、適当につまみも持ってきて。あ、玲さん。この人ぼくの友達ですから何でも文句言って下さいね」

「時々、ピアノの生演奏をやってもらってるんですよ。悪い人じゃないことは保障します」


 援護射撃したつもりだろうか、ウェイターは意味深に笑って言った。


 ウェイターが消えると、岡崎君は語り始めた。


「先週は失礼なことして申し訳なかったです。まず、お詫びしたかった。いや、その前に一度でいいからお話したかったんです」

「あ、失礼なんて・・・。楽しかったし、皆も盛り上がったから気にしてないよ」

「でも、あれは真剣に言いました。主任が了解してくれたらぼくは玲さんとお付き合いしたい。誰か特定の人がいらっしゃいますか?」


 聞く順番が違うでしょ・・・。

 あたしは確信した。

 女に慣れてない。

 この人は自信に溢れているのではなく、多分経験の乏しさ故、思ったことを何でも言ってしまうのだ。


「付き合ってる訳じゃないけど、ずっと好きな人はいるの。だから、付き合うのはちょっと無理。」


 あたしは申し訳なさそうに首をすくめた。

 岡崎君は一瞬硬直したが、すぐ気を取り直した。


「付き合ってないなら、まだチャンスありますよね。ぼくに乗り換えてもらえるように頑張りますよ」

「圭介が許さないと思うよ」

「ぼくが命がけで説得します。きっと分かってくれます。主任は器の大きな男です」


 家族以外の人間の口から圭介の話をされると、何だかヘンな感じだ。

 あたし達との関係を知らない岡崎君は更に続ける。


「ぼくは自分が能力的に主任に劣っているとは思ってません。でも、主任にどうしても勝てない理由があるとしたら人間の器の大きさです。主任は自分を犠牲にしても人を助ける人です。自分の利益を省みず人を助ける。トラブルの尻拭いも全部自分が負ってしまう。それが結果的に出世に繋がったのだと思います。」

「はあ・・・」


 誰の話だ?

 ベッドでゴロゴロしている圭介が実はそんなにスゴイ人だったとは。

 あたしはイマイチ納得できずに気の抜けた返事をする。


「36歳で主任になるってウチの会社じゃありえません。高田主任はぼくの目標で、恩人です」

「恩人?」


 岡崎君は照れたように少し笑った。

 あ、やっぱりかわいい。


「ぼくは、高田主任が日本に帰ってくるまで会社で完全に浮いた存在だったんですよ。何を喋っても生意気だって言われるし。でも、高田主任は、てめえ生意気なんだよって言いながら面倒見てくれました」


 なんかその絵が頭に浮かんだ。

 圭介は昔から面倒見が良いのだ。

 あたしが中学生の時にせがんだ初めてのキスも、面倒見の良さの延長線上だったのだと思う。

 

 そのうちに先ほどのウェイターが戻ってきて、料理をテーブルに並べ始めた。

 色とりどりの野菜サラダが載っているオシャレなお皿。

 一口サイズの揚げ物とソーセージにはマスタードが添えられている。

 この辺は女の子の好みを把握している。

 圭介だったら枝豆とビールがジョッキでくるだろう。


「では玲さんの美しさと、二人の再会に乾杯!」


 岡崎君はウーロン茶のグラスを上げた。

 あたしは苦笑いしてカシスソーダに口を付けた。




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