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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
ラビリンスの終焉 第1章 -玲-
20/63

10話

 そのメールが来たのは、あのパーティーの夜からちょうど一週間後のことだった。


 交友関係も少ないあたしのメールアドレスを知っているのは圭介と実家の母くらいだ。

 よって滅多に来ないメールが届くとびっくりしてしまう。

 登録してないアドレスだった。

 あたしはドキドキして携帯のボタンを押す。



件名 突然のメールすいません。

本文 先週のパーティーでお会いした岡崎です。

   一週間、高田主任を説得して玲さんのアドレス教えてもらいました。

   お時間ありましたら食事でもどうですか?

   パーティーの会場だった店で今夜7:00にお待ちしてます。



 お時間ありましたらと聞いている割には、既にスケジュールが決めてある。

 文面からそう読み取れた。

 つまり、あたしが断らないと思っている。

 相当な自信があるらしい。

 草食系なる無性欲男子が増えてる中、珍しいタイプだ。


「面白いじゃない。」


 あたしはニヤリとしてこの挑戦を受けることに決めた。


 多分圭介は今日のことは知らないだろう。

 知らせて圭介の気を悪くさせるのも面倒だ。

 あたしは黙って行くことに決めた。

 ご飯だけ食べて、適当にあしらって帰ってくればいいや。

 きっとかっこいいからどんな女も誘えば付いて来ると思ってる。

 あたしがそんなに簡単じゃないってことを思い知らせてやんなきゃ。


 化粧をしながらあたしはそんなことを考えていた。

 不思議なことにあたしの頭の中ではもう彼のピアノが響いている。

 眼鏡の奥のまっすぐな瞳が脳裏に浮かんだ。


「確かにピアノはかっこよかったな。」


 あたしは思わず口から出た自分の声にギョっとする。


 あれ?

 あたし逢いたいと思った?


 早くなる鼓動にあたしは気付かないふりをした。



『ちょっと出かけてきます。外で食べてくるので、適当にやってて。玲』


 それだけメモに殴り書きしてあたしはマンションを出た。



 9月も終わりに近づき、夜は少しだけ秋の涼しい風を感じるようになっていた。

 車を持ってないあたしはバスで中心街まで出る。

 オフの時だけ滞在するこの街をあたしはそれなりに気に入っていた。

 薄暗くなった街に色とりどりの光が灯り始める。

 今年の流行のカントリー風ロングワンピにブーツサンダルと、服装に拘らないあたしなりに若作りしてみた。

 そういえば圭介と出かける時に服の事なんか考えたことあったっけ?

 確かにあたし達は男女の関係なんだけど、それ以前から家族であったためにこういう初期のデートなるものはしたことがなかった。

 言うなれば馴れ合った夫婦のような。

 これがあたしの老化の原因に違いない。

 考えているうちに、蔦が絡まるレンガ造りのBLUE MOONが見えてきた。

 貸切のイベントがない時はただのバーらしい。

 あたしは一週間前と同じように重い扉を開いた。


 薄暗い店内には2,3組の客が食事を楽しんでいる。

 静かなジャズが流れていい雰囲気だ。

 白いシャツを着たウェイターが待ちわびたように歩み寄ってきた。


「いらっしゃいませ。岡崎様はあちらの席でお待ちです。」


 店の隅の更に薄暗い席で、会社帰りらしい男性が手を上げるのが見えた。

 開襟シャツにネクタイ。

 そして銀縁眼鏡。

 一週間前と全く同じ格好で岡崎君は立ち上がった。


「来てくれるなんて思っていませんでした。突然メールしてすみません。でも、ありがとうございます」

「あ、でも食事だけですけど・・・」


 想定外に感極まっている彼を見て、少しあたしは怖気づく。

 その気もないのに期待させちゃったかな。

 岡崎君は椅子を引いてあたしに勧めながら朗らかに言った。


「それだけで構いません。美人と食事できればそれで満足ですから」





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