8話
何だかんだでパーティーは盛り上がり、あたし達が帰宅した時には12時を回っていた。
締め切った部屋にやっと冷房が効き始める。
あたしは窓でタバコを吸ってる圭介を横目にさっさと服を脱ぐと、バスルームに直行した。
湯が張られたバスタブに体を沈める。
熱い湯が酔いの冷め始めた体に心地よい。
あたしは湯気の中、さっきまでの出来事を思い出していた。
岡崎君の告白に少しトキめいてしまったのは否定できない。
何故なら、あれがあたしの人生で初めてされた告白だったからだ。
圭介との付き合いが長かったせいで普通の男性ときちんと付き合ったことが、実はこの歳になるまでななかった。
彼氏いない歴30年。
あたしはこの現実に愕然とした。
「お兄さん、妹さんとお付き合いさせて下さい!」
頭の中にさっきのシーンが蘇る。
岡崎君の渾身の告白だった。
だが。
「させるか、バーカ!」
圭介は中指を立てて岡崎君の鼻先に突き出した。
どちらともなく二人は胸倉をつかみ合って取っ組み合いを始め、周囲は突然の乱闘に大いに沸き、大騒ぎの内に告白はうやむやになった。
もしかすると、ウケ狙いの冗談だったのかも。
もしくは過剰なリップサービス。
ひょっとすると、圭介と打ち合わせ済みのコントだったりして。
だとしても、あたしは不思議と悪い気がしなかった。
約束どおり、圭介はあたしの30歳の誕生日を記念日にしてくれた。
「玲、入るよ」
風呂場のドアが開いてから圭介の声がした。
いつも一緒に入ってしまうのだが、今日は咄嗟に小さな胸を抱きしめ慌ててお湯に身を沈める。
「やだ、入って来ないで!」
「は?」
まさかの拒否に圭介は裸のままで立ち尽くす。
「なんで?」
「見られたくないの。後から入ってよ」
「オレがお湯入れた風呂ですけど?」
「あたしが先に入ってるでしょ!」
「で、なんでオレが後なんだよ?」
「も~いいから出てってよ!」
萎んだ貧乳を見られたくないなんて死んでも言いたくない。
圭介はデリカシーが足りないんだから。
さすがに頭にきたのか、圭介は出て行くどころかズカズカ風呂場に入ってきた。
「何?その言い方?大体オレが入れた風呂に何でおまえが先入ってるんだよ?」
「タバコ吸ってる人が悪い。あ、やだっ!何すんの!」
圭介は湯船に手を突っ込み、あたしの腕を掴んで引っ張り出す。
素っ裸のままあたしは圭介に腕を掴まれ、バスルームの壁に押し付けられた。
冷たい濡れた壁の感触が、押し付けられた背中に伝わる。
磔にされたあたしの体を圭介は遠慮なく見つめた。
恥ずかしくて、あたしは横を向いて彼の視線から逃れる。
「何で急に見られたくないんだよ?」
圭介の少し困った声がした。
「・・・だって・・・あたし・・。」
もう若くないし・・・と言いかけ口を閉じた。