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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
ラビリンスの終焉 第1章 -玲-
15/63

5話

9月の夜7時はまだ薄明るい。

この時間になってもねっとりした熱気が街を覆っている。

今年は記録的猛暑だったせいかまだまだ秋の兆しは見られない。

あたしは膝丈スリムジーンズにサンダル、黒のキャミにボレロを羽織ってイベントホールBLUE MOONの前に立った。

レンガの壁に蔦が良い感じに這っていてアンティークな雰囲気の小さな店だ。

映画に出てくる中世の酒場って感じ。

圭介はこんなオシャレな店来るんだ。

この街の住人でないあたしはこんな店に来たのは当然初めてだった。

そもそもフリーの仕事柄、交友関係もあまりないあたしが人が集まる所に行くのは稀だった。

行くのは仕事の仲間とミーティングする時くらいか。

ドアの横においてある木の樽の上に看板が載っている。


『高田玲様 BIRTHDAY PARTY pm7:00~ 本日貸切』


 自分の名前が店頭に置いてあるのを見てあたしは少々気恥ずかしくなった。

 少し緊張してあたしは重い扉を開けた。


「誕生日おめでとうございます!!!」


 パパパーンとクラッカーの鳴る音と複数の人の大声にあたしは驚いて目を瞑った。


「玲さん、お待ちしてました」

「こっちですよ~」

 

 両脇に若い女の子が二人ついてあたしを誘導する。

 顔を見ても誰なのか全く覚えがない。

 あたしの不審そうな顔に気付いたのか一人が笑って言った。


 「あ、ご心配なく~。あたしたち高田主任の部下で~す」

「いつもお世話になってま~す」


 今時の若い女の子という感じの茶髪にパーマをかけた二人は軽いノリで言って、あたしをホールの中央のテーブルに座らせる。

 テーブルの周りには20人程の若い男女がにこやかに拍手している。


「大丈夫です。みんな高田さんの会社関係者です。」

「どれでも好きなの連れてっていいですよ。みんな高田主任よりイケメンですから。」


 どう見てもイケてない四角い体型で角刈りの男性が言ったので、みんなどっと笑った。

 テーブルの真ん中には巨大なバースデイケーキが置いてあり、ご丁寧に30本の蝋燭が針山の如く刺さっている。

 これじゃ、会社関係者にあたしが30歳になることが分かっちゃう。

 いまいちデリカシーに欠けている圭介がやりそうなことで、あたしは苦笑した。


 突然、店の照明が消されて真っ暗になったステージにスポットライトが照らされた。

 ヒューヒューと囃し立てる声と口笛が周りから飛び出した。

 光の中に圭介が立っている。

 出勤前と同じ開襟シャツにネクタイ姿、肩からエレキギターを提げている。

 圭介はマイクに向かうとまっすぐあたしを見て言った。


「玲、誕生日おめでとう。先週、誕生日間違えたこと会社の連中に話したらリベンジするべきだって、皆がこの会を企画してくれました。今日は記念日になるように楽しませるから」


 そこで一息ついてホールを見回す。


「みんな、妹の為に協力してくれてありがとう。ついでだからお前らも楽しませてやるぜ!!今日は無礼講だが妹に手え出すんじゃねえぞ!!」


 ウオオオオと歓声があがり、みんな一斉に拳を突き上げた。

 それを幕切りに圭介の高速ギターが会場に響き渡った。。

 いつの間にスタンバイしてたのかドラムとベースが脇を固め、大音響に加勢する。

 昔の映画で、過去にタイムスリップした少年がダンスパーティーで弾いた有名なロックナンバーだ。

 周りは熱狂し拳を振りながらジャンプし続けている。

 ノリの良すぎる社員達にあたしはこの会社の行く末が少し心配になる。


「高田シュニ~ン!!」

「かっこいいっす!」


 野次が飛ぶ中、圭介は歌い出した。

 初めて聞く圭介の歌声。

 ハスキーな高音で、普段喋る時の低い声とは別人みたいだ。

 英語の発音は完璧で、さすがは商社の元海外駐在員。

 悔しいけどかっこいい。

 あたしは誇らしくて、この男に愛されてるんだって皆に言いたかった。


 圭介のギターに合わせて突然ピアノのソロが入った。

 軽快なタッチで、圭介のギターに全く引けを取らない。

 ギターに合わせると言うより、張り合うような目立つ弾き方だ。

 ウオオオーとまた野次が飛ぶ。


「岡崎く~ん!!」

「いいぞ!主任に負けるな!!」


 岡崎君と呼ばれたピアノ奏者はチラリとあたしを見た。

 え、男の人?

 ピアノを弾くのは女性だと単純に思い込んでいたあたしは、その人を見てぎょっとした。

 あたしと目が合い、慌てて鍵盤に視線を落とし演奏に集中する。

 会社帰りらしい開襟シャツにネクタイ姿でピアノを弾くその人は紛れもなく男性だった。



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