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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
ラビリンスの終焉 第1章 -玲-
14/63

4話

 この先2ヶ月は仕事の予定がないあたしは昼間はのんびり本を読んだりショッピングをしてりして過ごす。

 そんなに暇ならメシ作ってくれよ、と圭介はボヤくがあたしは作るのが嫌いだ。

 生活費を出す代わりに圭介が帰宅するまでに弁当を二人分買っておくのが精一杯。

 

 あの夜から圭介は帰るのが遅くなった。

 仕事が忙しくなったらしいが、あの夜から何となく気まずい空気が漂っていて、顔を合わせずに済むのはありがたかった。

 今までも何度もこんなイザコザは起きているが、この辺が兄妹の良い所で時間が経つとお互い忘れたように元に戻る。

 どんなにこじれようと血が繋がっている以上、完全に別れるという不安がない。

 いつかは戻るという根拠のない自信がある。

 親子が喧嘩してもすぐに仲直りしてしまうのと同じだ。

 だからあたしは圭介が遅く帰ってきても寝たフリをし、朝出かける時も寝たフリして時間が経って仲直りできるのを待った。


 圭介があたしに声を掛けたのはあの夜から1週間後のことだった。

 朝、コーヒーを入れる音がしてあたしは目を覚ました。

 

 あ、もうすぐ出勤か。


 もう気にも留めないあたしが二度寝に入ろうとした時、布団の上に重力がかかった。


「玲、起きてるんだろ?いい加減に顔見せろよ」


 頭の上から声がしてあたしは布団から顔を出した。

 あたしを布団で簀巻きにしたその上に圭介が馬乗りになっている。


「・・・・寝てたんですけど」

「じゃ、起きろ」

「・・・やだ」


 あたしは蓑虫みたいに布団に潜り込む。

 圭介はいきなり布団を力任せに引っ張った。

 簀巻きになってた布団からあたしは転がり落ちる。

 出勤前の開襟シャツにネクタイ姿で仁王立ちになってる圭介がそこにいた。


「何すんのよ、お兄ちゃん」

「こんな時だけ妹ヅラするな。まだ怒ってんのか?」

「・・・別に」


 圭介に真っ直ぐ見つめられてあたしは言葉を濁した。

 別に怒ってる訳じゃない。

 圭介のせいじゃないし。


「分かってるよ。お前の言いたい事。でもオレには何もできないからごめん」

「謝らないで。あたしこそ困らせてごめん」

 

 小さな声であたしは言った。

 圭介はやっと笑顔になって胸ポケットから名刺サイズのカードを取り出す。



『イベントホール BLUE MOON

各種パーティー受け付けます

住所 xxx町xxxx電話 xx-xxxx』


「何これ?」

「ビュッフェ式で食事もできてライブもできるんだって」

「だから?」

「玲の誕生日パーティー、ここで今夜7時からだからな。メシ食わずに来いよ」


 圭介はウィンクしてみせる。


 あ、あたしの誕生日。

 あの日から1週間経った?


「今日だった?」

「今度は間違いない。オレがお母さんに電話で確認した」


 呆然とするあたしを抱きしめ彼は耳元で囁いた。


「今度こそ誕生日おめでとう」




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