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ラビリンスで待ってて  作者: 南 晶
ラビリンスの終焉 第1章 -玲-
11/63

1話

「ラビリンスで待ってて」の続編です。


「玲、誕生日おめでとう」


 バターンと音を立てて玄関のドアが開いた途端、大きな花束が目に飛び込んできた。

 ジャージ姿でソファに寝転がってたあたしは、花束を抱えて入ってきた長身の男を唖然として見つめた。

 天然の茶髪に日焼けした褐色の肌。

 スラリとした長い手足。

 そして、あたしの大好きな色素の薄い琥珀色の瞳。

 日本人離れしたエキゾチックな風貌と言えば聞こえはいいが、最近日に焼けすぎて東南アジアの露天商みたいだ。

 その男、高田圭介はその美しい瞳を細めてにっこり笑った。

 呆然とするあたしに近づき、いきなり抱きしめソファに押し倒す。

 柑橘系のコロンの香りと、微かなタバコの匂いがあたしの胸を締め付けた。


「玲、30歳の誕生日は記念日にしたいって言ってただろ?オレ何でもするから欲しいもの言って」

 

 いつものようにあたしの耳元で低く囁く。

 熱い息が首筋にかかって、ゾクっとする。

 あたしがその声に感じるのをもう知ってるんだ。

 何だか必死な彼が微笑ましく思えて笑った。

 バカな圭介。

 あたしの欲しいモノは、圭介からはもらえないって分かってるくせに。

 でも嬉しかったからあたしは、彼の体を抱きしめ返す。


「じゃあね、まずあたしを愛してくれる?」

 

 あたしの囁きに彼は無言で応えた。

 ソファに押し倒したあたしの上に馬乗りになって見下ろす。

 歳の割りに童顔な顔が少し真面目になって近づき、ゆっくりと唇をあたしの唇に押し当てて舌で濡らしていく。

 やがて彼の舌はあたしの中に侵入し、あたしの舌を絡める。

 昔から変らない、あたしの大好きなキス。

 その間にも彼の大きな手はあたしのシャツの中で蠢いている。

 彼の手があたしの胸の敏感な部分を優しく掴んで弄び始め、あたしは思わず彼の背中に爪を立てて堪えた。

 圭介は少し痛みに顔を歪ませたが、開放してくれない。

 彼の手は容赦なくジャージの中に侵入する。

 もうこれだけで、あたしはどろどろに溶けてしまう。


「・・や、け、圭介・・・」

 

 あたしは息を荒くして切ない声で彼の名を呼ぶ。

 圭介はそんなあたしの顔を愛しそうに見つめ少し笑みを浮かべた。

 あたしが彼のものになっていることに満足してるみたいに。


「玲。何して欲しい?」

「あ・・・圭介・・・。あたし、あたし・・・」

 

 激しくなった彼の指の動きに合わせてあたしの下半身は痙攣を繰り返す。


「あ、あ、あああ・・・」

 

 快感でコントロールが効かないあたしの体を圭介は強く抱きしめ押さえ込む。

 大声を出して暴れそうなあたしにまたキスで口を塞いだ。

 あたしは堪らず彼の背中にしがみついた。

 快楽の波に流されていかないように。


 達してしまったあたしから体を離すと、圭介は着ていた黒いTシャツを乱暴に脱ぎ捨てた。

 褐色の滑らかな肌に筋肉のついたしなやかな体。

 あたしの大好きな体だ。

 その体にはあたしと同じ血が流れている。


「あたしね。欲しいものあるの」

 

 あたしはまだ荒い息をしながら彼を見つめた。

 ジーンズのジッパーに手をかけていた圭介は、突然声を掛けられ我に返ったようにあたしを見下ろした。


「欲しいもの?何?」

「当てて」

「え・・・」

 

 圭介は困ったような、悲しいような、いつもの顔をした。

 もう答えを知っているからだ。

 何度、この問答を繰り返してきたことか。

 でも、あたしは圭介の目を真っ直ぐ見つめて言った。


「子供が欲しい。できれば圭介の・・・」

 

 そこまで言わせないように彼はあたしを抱きしめる。

 そしていつものように耳元で囁く。

 少し濡れた声で。


「ごめん、ダメだ。生まれた子供がかわいそうだ」

「でも、あたし、あたし・・・」

「言いたくないこと、オレに言わせたい?」

 

 圭介の強くなった語気にあたしはやっと気付いて口を閉じた。

 彼のきれいな瞳が赤くなって潤んでいる。

 困らせ過ぎた。


「・・・ごめん。悲しいこと圭介に言わせたくない」

 

 あたしは俯いてボソっと謝った。

 圭介は少し弱気な笑みを見せて、裸のままあたしの横に腰を下ろした。


「・・・どうしたの?しばらく言わなかったのに。なんかあった?」

「別に、だってもうすぐ30歳なのに。あたしは母にはなれない女で終わるのかなって・・・」

「・・・ごめん。そのかわりオレも父にはならないから・・・ね?」

 

 圭介はあたしの頭をそっとなでた。

 そしてふと我に返る。


「玲、もうすぐ30歳って言った?」

「そうだよ」

「今日誕生日だろ?」

「・・・う~ん」

 

 あたしは今度は本当に申し訳なさそうに肩をすくめた。


「あたしの誕生日、来週なんだけど・・・。言い出す機会がなくて・・・」

「ら、来週・・・。」

 

 圭介は髪を掻き揚げて溜息をついた。


「オレって最悪だな」

「でも、嬉しかったよ、お兄ちゃん」

 

 あたしは彼の裸のままの胸に顔をくっつけた。

 圭介は長い腕であたしの頭を抱きしめる。

 耳にぴったりついた彼の胸から心臓の音が聞こえる。

 あたしの大好きな音。

 あたしの大好きな男、高田圭介はあたしの実の兄だった。



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