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モーニングセット【B】

こちらはモーニングセット【A】の補完です。 

Bからでも読むのは可能ですが、できればAから読むことをオススメいたします★

 ―――俺には入社時から片思いしている同僚がいる。名前は柳瀬。勝ち気なくせに変に他人優先、だからか甘やかしてやりたくなるような女だった。










 今日は土曜日。さらに年に一度の交流会の日で、柳瀬も例年通り参加なのだろうと、俺も参加で返事を出していた。

 なのに朝になって、交流会の委員である他部署の友人、横川から連絡が入った。

 今名簿来たけどな。オマエのお姫様不参加になってるぞ。

 はぁ、なんで。ってかそのお姫様って呼び方ヤメロ。

 十分お姫様だろ、4年間も大事に思ってりゃあさ。不参加の理由だけど、仕事って書いてる。

 仕事…ああ、もしかしてアレか?

 思い当たることあるみたいだな。そんじゃ、後は好きに料理してくれ。あ、蓮見は不参加でいいよな。はい体調不良で欠席の連絡入るっ、っと…。

 おい勝手に何してんだ。とは言わなかった。そのまま電話は切れて、俺は好都合とばかりに会社に向かう準備を始める。―――バーコードハゲもたまには役に立つじゃないか。

 5年前のあの日から、俺は幾度となく彼女に好意を示してきたつもりだった。なのに肝心のあいつときたらそれをただの親切心だと思ってるらしく、俺はいつのまにか彼女のなかで『皆に優しいよく気がつくひと』という位置付けになっていた。

 それは困る、この状況を打開せねば。そう思いながらもなかなか動けず、今に至っている。休日出勤なら好都合だ。今日なら交流会と重なってるし、絶対彼女以外のチームメンバーは会社にいない。というか出勤させていないだろう。あいつは―――柳瀬は、そういう女だ。






 会社に着くと、案の定柳瀬一人だけがオフィスにいた。ちょっと前から昼休憩に入っているらしく、窓辺に腰かけてぼーっと外を見ている。手元には残り少ない冷めたコーヒーと、好物のサンドイッチを包んでいたのだろうラップがある。

 ―――ここに来るまでにわざと足音をうるさく歩いてみたり、音をたててドアを開けてみたつもりだったけれど、それらのサインにはまったく気づいていないらしい。

 秋の柔らかい日差しに彼女の身体全体の輪郭が縁どられて、思わず目を細めて見入った。まぶしい。俺は果たしてこの人に声をかけていいのだろうか。

「……柳瀬」

 精一杯の気持ちで名前を呼ぶ。俺が来ていることに気づいていなかった彼女にはその呼びかけが唐突に聞こえたらしく、ビクッと竦み上がった。

 その反応に、あぁいつもの柳瀬だと思う。

「わあぁっ」

 …そこまでおどろかんでも。

「…っ、蓮見!いきなり声かけないでよびっくりするなぁ」

「いや、結構音たてて入ってきたつもりだったんだけど」

「…気付かなかったよ。休日だし今日交流会の日だもん、あたしの他に誰か来るなんて思わないじゃん」

「そっか。びっくりさせたなら悪い」

 口上で謝りながら自分のデスクにカバンを置きにいく。

 悪いな、俺は初めからそのシチュエーションを狙って来たから。心の中で呟く。

 …きっとこういうことを女にさらっと言えるなら、もっと事はスムーズに進むんだろう。

 給湯室に向かって、柳瀬のために2杯目のコーヒーをいれる。なんで2杯目かは日に透けたプラスチックコップのコーヒーの色を見れば分かる。ブラックだった。柳瀬が2杯目を必ずミルクで飲むことは、ずっと見ていたから当然知っている。

 …なぁ、気づけ。

 俺がこういうことをしてやるのはオマエだけになんだって。

 ―――俺の行動をずっと目で追っていた彼女のもとにコーヒーを持って向かうと、なぜか奴は唇を噛んで悔しそうな表情をしていた。

「…唇噛むなよ」

 せっかく綺麗な顔してるんだから、傷ついたら困るだろ。…とはやっぱり口には出さないまま。

 黙ってコーヒーを差し出すと、柳瀬はきょとんと不思議そうな顔をして受け取った。

「え、これ蓮見んじゃないの?」

「オマエのだよ。俺はコーヒーはアイスしか飲まないってオマエ知ってるだろ」

 うん、って言えよ。これで知らないとか言われたら俺は再起不能だぞ。

 息を詰めて次の言葉を待った。柳瀬はそういえばそうだったと小さく呟いて、次にじゃあなんでという顔をした。

 …よかった。とりあえず分かっててくれてた。

「入ってきたときもうコーヒー湯気たってなかったし、残り少ないからさ。2杯目いるかなって。いつも2杯目ミルクで飲むだろ」

 オマエのことは気にかけてんだぞと暗に示す。

 どんな反応をするかと思いきや、柳瀬は黙り込んで何事かを考えはじめてしまった。

 …うっわ、効いてねぇ。これだからいつも大事なことを喋る勇気を俺はなくすんだよな。

 天を仰ぎたい気持ちになる。

「今日はどしたの、蓮見も休日出勤?」

 考えごとから帰ってきたと思ったら、いきなり話題が変わった。しかも一番答えにくい方向に。

「あー…うんまぁ、そんなとこ」

 言えるか、オマエに会いに来ただなんて。

「なによ歯切れわるいなあ」

 …うるさい。耳が赤くなってないことを祈りつつとりあえず今は放ってくれ。

「…俺よりオマエ、なんで一人なんだよ」

 分か悪くなったのでさらなる話題転換。それにこれは実際聞きたいところでもあった。柳瀬の答えそうなことなんて大体想像がつくけど、いつもなんで自分一人でやってしまおうとするのかその答えを知りたかった。

「―――確かに今日の休日出勤は部長のせいだろうけどさ。同じ担当のやつ、他にも何人かいるんだろ。そりゃ柳瀬がリーダーかもしれないけど」

 そう、他にも同じ仕事を任されたメンバーはいる。柳瀬が一人でやらなきゃいけない理由はない。

「まぁ…そうなんだけどべつに呼び出すほどじゃないかなって。だって皆には交流会行ってほしいじゃない。あたしはもう5年目でいー加減知り合いだらけだし」

 あぁもう、想像通り過ぎて反吐が出る。

 ―――どこまで自分後回しなんだこいつは。

「ごめんなんて?もう一回」

 心の声が外に出ていたらしい。柳瀬が聞き取ろうと身を乗り出してきて俺に接近した。その瞬間彼女から優しい香りがして―――俺は頭で考えるより早くその身体を抱きしめていた。

 柳瀬が一瞬息を呑んだのが伝わってきて正気に戻る。

 俺は一体なにを。

 嫌がってるかもしれない、すぐに離さなければ。そう思うのに腕はそのやわらかい感触を離したがらない。

 拒絶の声が上がらないことを不思議に思いながらも、どうにか必死で拘束を解こうと理性を総動員させてその時気づいた。

 ―――柳瀬の耳が赤い。そのうえシャツなんて握ってくるから完全に理性は飛んだ。

 一度きつく抱きしめて、唇を奪う。

 蓮見、と呼ぼうとした柳瀬の声が吐息に変わって俺の頭の思考能力を奪った。

 触れるだけのキスを何度かしてやっとの想いで彼女を離す。そうして、勢いに任せてようやく長年の自分の想いを告げた。



 ―――そりゃもう、始まりから今に至るまで。



「…なによ。―――じゃああたし、最初っからあんたの手のひらの上だったんじゃん」

 俺の一世一代の告白を、柳瀬はそんな言葉で受け取った。それって結局どうなんだ。

 働かない頭じゃいい返事なのか悪い返事なのか判断できなくて、思わず剣呑な声音になる。

「は?…それどういう」

「だから…蓮見のことが好きだって言ってんの」

 柳瀬が伸び上がって耳元で告げた。驚きに目を見開くと、さっき俺の話を聞きながら濡れた瞳で嬉しそうに笑う。

 その笑顔で、あぁ俺はこいつを遠慮なく甘やかせる立場を手に入れたんだと理解する。

「………オマエ、涙目で笑うとか反則」

 言って、もう一度つよく抱きしめる。今度は強ばることなく、柳瀬は最初から俺に身体を預けきってきた。そんな関係になれたことが嬉しくて顔が緩む。

 …そんで、どうしても言っときたいことがひとつあった。

「…当分は、皆には秘密な。バレるのなんかやだ」

 というよりも本当は、俺と付き合ったことで柳瀬が皆にプライベートを好き勝手想像される可能性があるのが嫌だった。…口に出しては絶対言わないけど!

「うん、やりにくくなるのも嫌だしね」

 柳瀬は自分なりの解釈をして納得したらしい。事実俺の中でもその懸念はあったので、クスクス笑う彼女に否定せずに笑い返した。

「…そういえば、結局なんで蓮見休日出勤してんの?」

 ―――最後にものすごい爆弾来たな!あぁくそっ、その話題はもう逸れたと思ってたのに。

「それ…、聞く?」

「だって気になるじゃん」

 柳瀬が真摯な瞳で見つめてくる。これを相手に嘘などつけるわけがない。

「だからー…、」

「ん?」

 ―――開き直ってしまえ。

「オマエが…、柳瀬が今日休日出勤で交流会来れないって朝知ったから。…だからあっちドタキャンして来たんだよ」

 暴露すると柳瀬が目を丸くした。

「…えと……それも、甘やかし?」

「そーだよ!悪いか」

 なんだよなんの羞恥プレイだよコレ。

 悔しいのでそっぽを向いた。…すると、耳に届いたのは予想外に優しい声音で。

「ありがとう。…明日からは、あたしが毎日アイスコーヒー作ってあげるね」  約束。

 そう言って柳瀬は指切りをせがむ。…断る理由なんてあるワケがなく、小指を絡めて思わず笑った。

 その後、柳瀬の2杯目のコーヒーに関する特権を真顔で主張すると、なぜか柳瀬は噴きだしていた。

 その笑顔がまた可愛く見えてしょうがなくて、たった今恋人になった彼女を引き寄せてもう一度キスをする。

 午後の時間は柳瀬の仕事を手伝いながら―――電話をくれた横川と、それからやっぱりバーコードハゲに感謝だな、と思って俺は笑いをこらえた。

お疲れさまでしたー!これでモーニングセット、無事完食です★ 



Aを書いてるときから常に頭んなかでB側の主張が激しくてですね、なんかもう蓮見に書かされた感があります(笑) 

Aから見たらちょっとクールキャラな蓮見も、実は下心有りありのふつーのひとでした…笑 


そうそう、キューピッド電話のヌシ横川は、猫やら変態やらが出てくる作品のあの横川です。ってことは蓮見は変態とも同期ってことになりますね(笑)


短編は久しぶりに書きましたが、コンビニの方から来られた方々どうですかお詫びになりましたでしょうか…。 


現在、マジで恋する5秒前シリーズの続編も執筆中です。(←だれかこのタイトルの略称つけてください〜笑) 

できるだけ早くアップできるように頑張りますので、応援コメントかなんかくれたりしたら嬉しいかな…なんて… 



それでは最後に弱気なお願いをしたところで失礼させていただきます、ありがとうございました★

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