その30 魔界突入6
「どっっしぇえぇぇ!! マジでマジでマジでー!?」
「……うん、マジ」
こっくりとうなづいたキャナ。
その割にはなんだか落ち着いてるじゃねェか。
俺がそういう意味のコトを言うと
「だってこーちゃん、すごく自信たっぷりだから、何か考えがあるのかなぁって……」
……やっちまった。
お互いに頼り合ってただけですかい!
俺の作戦、ぶっちゃけ意味ねェ! いや、モロ裏目!
てめェでドツボ掘っただけのハナシじゃねェかよ。
すでにカロイドのオッサン、マジギレしてるし。いや、させちゃったし。
顔面蒼白でフリーズしていると、キャナがそっと俺にもたれかかってきて
「ま、好きにすればいいわ。こーちゃんと一緒ならあたし、地獄でもどこでも行ってやるわよ」
南の島でバカンス中、的にまったりしてやがる。
ってか、多少ふてってるような。
あ……諦めてんの?
早すぎね?
土壇場で助かったっていうさっきまでの感動はどこへ放り投げた!?
キャナを助けにきて間一髪で救出成功と思ったら大逆転、二人で抱き合い心中演じるハメになるとは。
あの近松(=門左衛門)さんも絶対思いつかないようなちゃぶ台返しな筋書きだよ。
マジでシャレになってねェ。
「魔界衆! ヤツらを狙え! 炎熱魔術で焼き尽くすのだ! チリひとつも残すな」
カロイドが命令を下すなり、俺達をぐるりと取り囲んでいる魔界衆が一斉にこちらに両手を差し向けた。
……アンタさっき、塵あくたにしてやるって言わんかったか?
ま、塵にされて残ったところで困るんですけどね。
頼みのキャナがパワーダウンしている以上、もはや俺達に打つ手はない。
今度こそ万事休す!?
俺はフツーに焦ったが、キャナは「ふふん」と笑いながら俺の首に両腕を回すと
「あたし、ぜーんぜん怖くないよん。愛するこーちゃんが傍にいてくれるんだもの。……どうせなら、愛し合ったまま死ぬトコ、魔界衆に見せつけてやろ? 魔女と人間だって、こーんなに愛し合えるんだって」
「あ、あのな、キャ――」
言い掛けた俺の唇は、キャナのそれによって思いっきりふさがれていた。
完全に悟りを開いた(言い直そう。開き直った、だ)彼女は俺を地面に押し倒し、激しく身体を押しつけてくる。
足を絡めてくるかと思えば口の中に舌が入ってくるし、舌を絡めてくるかと思えば激しく吸ってくる。一方で下半身は超密着。
まったくスキのないおねーさまの愛撫は、どんな麻酔よりも強烈にシビレるものがある。
大坂夏の陣における真田幸村のごとき猛烈な攻めの前に、徳川軍な俺はなすがままにされているよりなかった。なお、この例えにまったく意味などない。
「んっ……んんっ……んっ」
キャナはもう、官能の世界に浸りきっちまってる。
……なんだこの状態は。
彼女とエッチな行為にふけったまま死んでいくのか、俺?
しかも俺達、魔界衆の連中百人以上に取り囲まれた挙げ句ガン見されてるし。
死ぬ間際に公衆面前エッチって……まだそこまでいってないけど。
男としてカッコ良くない!
ただ、気持ちが良くないといったらウソになる。
混乱して何言ってんだろう、俺。
――しかし。
大胆きわまるキャナの捨て鉢な愛撫は、思わぬ効果をもたらした。
いきなり眼前で展開されたエロい光景に、何よりビビったのは魔界衆のヤツらだったらしい。
魔法をぶっ放すのも忘れて呆然と見とれている。
「きっ、貴様等! 早くあの二人を処刑しないかッ!」
慌てて再度号令を発したカロイド。
が、一度度肝を抜かれてしまったからには、そう簡単に魔法に集中できるハズがない。
かの坂本龍馬も言ったものだ。
気を抜かれたヤツがそうそう人を斬れるものではない、と。
こうなりゃヤケだ。
俺も腹を括って開き直ると、キャナの細い身体を両腕でぐっと抱き締めてやった。
途端に彼女はぴくんと身体を震わせ
「あんっ、こーちゃんたら……! そんなに強く抱き締められたらあたし、本気になっちゃうよ?」
「おォ、構わないさ! こうなりゃとことん付き合うぜ!」
「言ったな? あやまっても許したげないから!」
……俺とキャナ、ヒートアップ。
濃厚なキスの応酬。
ほとんどヤりかねない勢い。
「魔女と人間ごときが、ナメおって……! 男女の睦みは地獄でやるがいい!」
激高したカロイド。
早口で何事か詠唱するなり、さっと両手をこちらに差し向けた。
間髪を容れず、俺達を取り巻く大気が熱を帯びていく。
炎熱魔法。
さすがに、背筋がヒヤリとした。
キャナと二人、このまま焼き殺されてしまうのだろうかと思った。
が――。
ドンッ!
いきなり俺達の周囲に白い半球が展開され、カロイドの放った魔力を瞬時に弾き飛ばした。
ドームの外側で、赤く染まった魔力のカスが舞っている。
「こっ、これは……!?」
思わぬ事態にカロイドは驚きを隠さない。
ただし、ビビったのは俺も一緒である。
すっと唇を離しつつ
「キャナ!? 今のって、ナニ!? ……って、キャナ?」
「んっ……知らない。あいつがミスったんじゃないの? ……んんっ」
おーい。
興味ゼロですかっ。
命の瀬戸際だっていうのに、エロいコトしかアタマにないのかーっ!
そうしている間にも、逆上したカロイドの魔法が俺達に向けて連射されている。
が、そのどれも俺達には当たらない。
例の白い半球がことごとく遮断しているのだ。
これってもしかして……シュウか?
彼が自然魔法で俺達をガードしてくれたんじゃないだろうか。
咄嗟に俺は思ったが、しかし周囲にそれらしい人物が現れた形跡はない。
と、今度は一層激しい衝撃が!
ズドドドドド、ドンッ――
ようやく動揺から立ち直った魔界衆の連中、カロイドにならい俺達目掛けて一斉猛射。
食らえば間違いなく消し飛んでいるだろうという悪意に満ちた巨大な炎のプレッシャーだったのだが……やはり俺達にはまったく影響しない。
どーいうコト……?
いい加減に撃ち疲れた魔界衆が魔法の発動を止めたその時だった。
「――やれやれ。間に合わなかったかと思ってヒヤヒヤしたけど、まさか共振増幅とはねェ……」
すぐ傍から、聞き慣れた声がした。
ハッとして目を上げてみると
「……シュウ!?」
「二人とも、剛毅だねェ。処刑される対象が執行人の目の前で男女の絡み合いなんて、魔界始まって以来の珍事だよ」
呆れ返ったような表情のシュウが俺達を見下ろしている。
俺は慌ててキャナを抱いたままぐいっと上体を起こした。
「シュウ、今の、何なんだよ? 俺達ホント、もうダメかと思って……」
「ダメかと思ってラブシーン、か? そのラブシーンが、とんでもない増幅効果を生み出しちまったんだよ。共振増幅ってヤツだ。こいつもまた、魔界始まって以来の珍事だがな……」
ぽりぽりと頭を掻いている。
ふと見ると、シュウに隠れるようにして一人の少女がじっとこっちを見ている。
「シュウさんにミナ! 来てくれたのね?」
キャナが声をかけてやると、ミナは恥ずかしそうに顔を赤らめて
「お、お姉ちゃんってば、こんなトコで、な、何やってるのよ! あ、あたし、びっくりしちゃった!」
キャナの格好が格好だから、余計に恥ずかしいものがあるらしい。
ミナ。
年の頃は人間に例えるなら中学生くらいだろうか。
茶色でボリュームあるショートカットに、活き活きとした大きな瞳をもった可愛らしい容貌。胸から下に白い布地を巻き、短パンみたいなものを穿いている。チラ見せな腹と露わな脚に清々しい色気が漂っているが、それはどうでもよい。
彼女もまた、魔女であるという。
俺はキャナと一緒に立ち上がり
「ミナちゃん、こんちは。風間孝四郎です」
挨拶をしたが、彼女はシュウの陰に隠れたままでいる。
警戒するようにじっと俺を注視していたが、やがて小さい声で
「……えっち」
くすくす笑っている。
一瞬嫌われたかと思ったが、そうでもなかった。
シュウが言った通り、明るくて元気なコらしい。
彼女はぴょこっと跳ねて俺の前に飛び出てくると
「お姉ちゃんから聞いてたよ。とっても強くて優しい人間のオトコの人なんだって。ってか、ついでにエッチな人みたいだけど、男の人はしょうがないよね。――あたし、ミナ。よろしくね?」
にっこり。
ああ、妹的な可愛さじゃねェか。
なんだって魔女にはこう、美女とか可愛いコが多いんだ。
男はみんなエッチか。
割り切りがよろしい。
そうだ。
人間世界でも魔界でも、古今東西男はすべてスケベと決まっている。
「どぉ、こーちゃん? カワイイでしょ? 仲良くしてあげてね。あたし達と同じ魔女なの」
「うん、可愛いよ。シュウから聞いてたんだ。化身散開とかいうレアな魔法を使えるコだって」
「えへへ……」
褒められたミナちゃんは照れている。
「さて……と。さすがは魔界衆だ。魔界中から召集された猛者どもがゴロゴロいやがる。孝四郎君とキャナの成陣逆破効果でかなりの数が塵になったと思ったんだがな……」
周囲に居並ぶローブ姿を見回しながらぼやいたシュウ。
魔界衆の連中は誰一人、魔法を放ってくる者がない。
突然こっち側に新手が姿を現したせいか、かなり警戒しているらしい。
「誰かと思えば、貴様か、シュウ! なぜいつも魔族の味方をする!?」
カロイドの声が届いてきた。
シュウは左手の指をそろえてメガネを押し上げつつ
「やっぱりアンタだったのか、カロイド。いつまでこったらマネを続ける気だね? アンタがそうだから、魔族はいつまでたっても反乱をやめないんじゃないのかい? もういい加減、魔界人優等主義なんかヤメなさいよ。もう、この魔界中でアンタに従う連中はいないよ?」
応じた。
するとカロイドは、ハハハハと急に高笑いをしてから
「シュウとも思えぬ発言だな! 魔界有史以来、常に動乱の中心となったのは誰でもない、魔族の連中だよ! 魔族あるところに争いは起こり、魔族の行くところ殺し合いは起きてきた。無駄に大きすぎる力を持った連中は危険なのだ! 魔界人達は、そのことをよく知っている! だからこそ、魔族は滅びねばならないのだ。――そこをどけ、シュウよ! 魔界に破滅をもたらす災いの元凶である魔族の女、そして殺戮の女神たるキャナを今ここで殺す! 横槍は止してもらおう。さもなくば貴様も同類として命をもらいうけるぞ、シュウ!」
「へっへっへ、随分と手前勝手なご意見をどうも。闇血のカロイド様……だったかな?」
今度はシュウが笑い出した。
「私は知ってるよ。アンタがあちこちの魔界人達を煽って魔族狩りをさせていたことも、味方のフリをして魔族に近づいては、闇に紛れて何人も殺している事実も。だからアンタに『闇血』なんて不名誉な称号がついちまった。……違うのかい?」
「……」
「苦労して魔界府筆頭術師の座についたようだけど、残念ながら即刻降りていただかにゃならんようだぜ? アンタ、気付かなかったのかい?」
シュウは空を指した。
釣られて見上げた途端、カロイドの顔色が変わっていた。
迂闊にも、いつ現れたものやら俺も気付かなかった。
――煙のようなふやふやしたどす黒いカタマリ。
でかいなんていうものじゃない。
魔界府広場を飲み込んでしまいそうな大きさ。
この見るからにおぞましい存在に、俺は見覚えがあった。
「シュウ! これ、これって……」
「あァ、そうさ。そろそろ姿を見せてくれると思っていたんだよ。予定通り、ってトコか」
「魔神……!」
キャナが呟いた。
そう……魔神。
メイちゃんが用いた犠魂陣によって甦り、彼女の身体を乗っ取って人間世界までやってきたが、キャナによって魔界へと追い返された。
その後、魔神の存在に気付いた魔界府は捕えた魔族の少女をしてキャナとメイアに「魔神が猛威をふるっていて魔界が滅亡の危機にある」とウソの話を信じ込ませ、二人を魔界へとおびき寄せることに成功する。それが六月終わりの頃のことだが、実際には魔神は活動なんかしていなかった。
しかし、魔神の復活が自分達の責任だと感じたキャナとメイアは魔界へ戻るのだが、二人を待ち受けていたのは魔神などではなく――カロイド指揮下の――魔界衆達だった。
犠魂陣を手に入れて魔力の強化をはかった魔界衆の強さは圧倒的で、キャナとメイアは追い詰められる。
二人は逃亡の最中にシュウと出会い、事実を知ると同時に魔神の復活が単に自分達のせいだけではないと諭される。魔神が復活を遂げた背景には、もっと深い秘密が隠されていたからだ。
が、魔界に革命をもたらすシュウの研究が魔界衆によって妨害されることを恐れたキャナとメイアはシュウの元を去って魔界府に戦いを挑むものの――メイアは瀕死の重傷を負い、彼女を庇ったキャナは捕えられて処刑されそうになる。
確かに、魔神出現の引き金をひいたのはメイアだったかも知れないが、そもそも犠魂陣に手を出さざるを得ないまでに彼女達魔族を追い詰めたのは誰でもない、魔界人達だ。そして魔族殲滅主義を魔界中にはびこらせる大きな働き――というよりも陰で暗躍した――をしたのはあのカロイドだという。
ちなみに、魔族と魔界人の対立はもう数千年の長きにわたって続いてきた現実ではあるが、魔界府が同族の魔界人すらも利用し、犠牲にするようになったのはそれほど古い話じゃない。
いつだったか、魔界に戻る前にキャナが話してくれたことがある。
ずっと昔は魔界府が先頭に立って魔族を迫害するようなことはなかったらしい。
優れた術者=魔界府八術師による魔界治世は長きにわたって続き、古代に一度魔神が誕生して危機的な状況に陥ったことはあったものの、特に大きな争乱は起こらなかった。
が、局所的に魔界人による魔族迫害は発生し、その対立は次第に大きくなっていった。そうして魔界全体が衰退の一途をたどっていくにつれ(殺し合いばかり続けているからそうなったのだが)魔界人達は魔界府に対して大きな不信感を抱くようになった。焦りを感じた魔界府では、その不満を逸らすために魔族殲滅を掲げるようになり、同時に魔界全土で魔族狩りが激しく行われるようになったという。ちょうど、キャナやメイアが生まれた頃のことだ。
……なんだかね。
そういう魔界の下劣なグダグダが、結果として魔神を生み出したように思えてならないのだが。
人間が殺戮手段の究極として地雷や毒ガス、そして核兵器をつくり出したように。
たった一つ、共通点がある。
どちらも――人の心、あるいは魂が生み出したもの。
他者を憎み恨み妬み、排除しようという一番腐った心の働きが、魔神や兵器を誕生させたのだ。
その、魔神。
未だ実体の不確かなヤツは、空中高く浮いたまま不気味にうごめいている。
その存在に気が付いた魔界衆に、一斉にどよめきが起こった。
「まっ、魔神だとォ!?」
「なぜ今、ここに……!?」
もはや、俺達を処刑するどころの騒ぎじゃない。
そんな動揺しまくりな魔界衆の連中に対し、カロイドは
「う、狼狽えるな! あんなものは、思念の集合体に過ぎん! すぐに縛封陣の用意を! 今なら容易く封印できるハズだ!」
どやしつけている。
それを聞いたシュウはカラカラと笑い出し
「バカも休み休みおっしゃい、カロイド君。相手は魔神だぜ? 縛封陣ごときで大人しく引っ込んでくれるようなタマかい。――それよか、さっさと逃げた方がいいぞ。もたもたしてたら、魂を食われちまわぁ」
なだめるように声をかけたが、カロイドはじめ魔界衆達の耳には届いていないようだった。
皮肉なものだ、俺は思った。
ヤツらはキャナとメイアをおびき寄せるために魔神が完全復活したとウソの話を持ち出した。
が。
そうしてキャナを捕らえて処刑しようとしたところが、あろうことかその魔神が寄ってきてしまった。
なぜここに魔神が?
答えは、シュウが知っていた。
「孝四郎君。私は確か、キャナを助けるだけでは済まないと、言っただろう?」
「あァ、言ったな」
上空でふやふや動いている黒い球体を見上げながら、頷いた俺。
「魔封陣が反動によって暴発する威力はダテじゃない。近くにいる魔界衆だの魔装兵、それに魔界人まで巻き添えになることは避けられないと思っていたんだ。そうなると、肉体を喪った大量の魂を狙って、魔神が姿を現すだろうと踏んでいたんだ。案外、魔神も素直なところがあるもんだね。――まあ、犠牲になった魔界人達は哀れだが、俺達の力ではキャナを救い出すのが精一杯さ。ここは一つ、彼等への追悼ってコトで、あの毛玉野郎を」
寄り添い合って立っている俺とキャナへ視線を向けた。
「……抑えてくれ。今の今じゃ、消し去ることはできない。が、抑えることは可能だ」
「でも、どうやって? 相手は魔神なのよ? やれるものならそうしたいケド、今のあたし、魔力が十分じゃないわ……」
キャナが不思議そうに首を傾げている。
俺も同感。
しかし、シュウは「ニッ」と不敵な笑みを見せて
「なに、ちゃーんと対抗手段は考えてある。それはねぇ――」
言い掛けた途端。
「なっ、なんだコレは……ぐっ、がっ、がはっ――」
突然、魔界衆の一人が喉を押さえ、もんどりうって苦しみ始めた。
が、ほとんど苦しんだという間もなく、そいつはばったりと倒れて動かなくなってしまった。
「お、おいっ! お前……があっ!」
慌てて駆け寄った男もまた同じようにしてのたうち始める。
彼等だけじゃない。
二人、三人、四人……あちこちで魔界衆が次々と倒れていく。
「……!?」
「始まったぜ。奴さん、魂を食らい始めたよ。まァ、食欲旺盛だこと。よっぽど、ハラ減ってたんだろうなァ。……孝四郎君トコでメシ食わしてもらって良かったァ」
オッサン、呑気なコメントしている場合か。
お前のハラの具合なんか知ったコトかよ。
魔神の野郎がいよいよ活動を始めたってのに。
目を凝らしてよーく見てみれば、倒れた魔界衆の身体から小さな光のようなものがすーっと魔神目掛けて飛んでいっている。それは黒い闇の中に吸い込まれていき、そのたびに球体全体が呼吸する肺のように膨らんでは元に戻ったりする。
シュウの言う通り、次々と魂を吸い上げては食らっているのだ。
「シュウさん、どうしましょう? このままだと、あたし達も……」
心配そうに彼を見上げたミナ。
シュウはそんな彼女の頭をわしわしと撫でてやりながら
「申し訳ないが、こっから先は孝四郎君とキャナに頼むよりない。私の手品やミナの魔力じゃ、魔神が退屈しちまうだろうからねェ」
相変わらず表情を動かさないオッサンだ。
が、今日の今日出会ったばかりとはいえ、シュウの凄さは何度も目の当たりにしている。だから、俺の胸中大した動揺はない。
魔神を抑えられるという以上、本当にできるのだろう。
信じていいと思う。
「おい、シュウ。もったいつけてねェで、さっさとその対抗手段とやらを教えやがれ。ぼやぼやしてたらあいつのエサにされちまうがな」
「だな。手短に伝えるから二人とも、よーく聞いてくれ」
ヤツは両手を俺と、キャナの肩に置いた。
その背後、離れた位置ではカロイドが
「ぐぅううううあぁっ! かっ、かっ、かあぁ……」
断末魔の形相で七転八倒している。
しかし程なく、地面に倒れてそれっきりになった。
あっけない。
魔界人を扇動して魔族迫害の急先鋒となっていたカロイド。
ヤツもまた、その騒乱の果てに誕生した魔神の犠牲となって果ててしまった。
ある意味では自業自得といっていい。
魔神に食われた魂は、二度と復活することがない。
魔界を滅亡させる元凶といわれる所以。
魔界にいる魔界人や魔族の全員が魂を食われてしまえば、魔界自体復興する術は失われる。
だから、キャナとメイアは魔神に立ち向かう決意をして俺の元から去ったワケなのだが――彼女達をハメた男は、その口実として利用した魔神によってやられてしまったということになる。
バカなヤツ。
とはいえ、もはやカロイドや魔界衆がどうとかいうレベルの騒ぎではなくなっている。
俺達の周囲では見るもおぞましい光景が展開されている。
魂を食われ、次々果てていく魔界衆達。
シュウが懐に隠している石に蓄積された自然のエネルギーが俺達をガードしてくれているようだが、それも長くは保たない。
彼はちらと頭上に一瞥をくれると、恐ろしく早口になって
「私はさっき、キャナの救出を孝四郎君に頼んでいる間、ミナにも手伝ってもらってこの付近に動障陣を無数に仕掛けておいた。……ああ、動障陣が何かはキャナが知っている」
「ん」
「それで次に、これを渡しておく」
ごそごそと懐をまさぐって例の気流石、それにもう一つの石を取り出してキャナに手渡した。
「これは……?」
「ようやくこれだけ完成したんだよ。気流石と地恵石だ。二つしかないけど、低下したキャナの魔力の助けにゃなるだろう。ただし、自然の力はでかい上に素直だからね。こっちが上手く波動の加減に合わせてやらないと、言うコトを聞いちゃくれないからな」
なるほど。
俺はちょっと納得した。
それだけのすごいアイテムがあれば何でもできるんじゃないかと思ったりしたが、実はそういう難点があったらしい。編み出したシュウ本人といえども、自然の力を自在に操れるかどうかは別の問題だったのだ。偉大な天然のエネルギーを集約することには成功したものの、イコール制御とはならないワケで。
科学と自然の関係に近いかも知れない。
「そして、これが奥の手なんだが……」
俺とキャナに代わる代わる視線を送ってきた。
妙に自信ありげな、嬉しそうな表情を浮かべている。
「孝四郎君とキャナ、二人の魂が触れ合い同じ波長が重なることで発動する『共振増幅』。これこそが魔界を救う究極の切り札になるのさ」
「共振増幅?」
「そう。詳しい話は後にするとして、具体的に言えばさっきのアレがそうだ。キャナが孝四郎君を求め、孝四郎君がキャナを求めたことで、二人の魂が共鳴してキャナの魔力が飛躍的に増幅されたんだ。……だからって」
そこまで言ってからニヤリと笑ったシュウ。
「エッチなコトをすりゃいいってハナシじゃないぜ?」
「言われんでもわかってるっつーの。――だけど、ホントに俺とキャナの魂だけで魔神を抑えきれるだけの魔力なんて生み出せるのか? どうも、イマイチ自信がねェ」
「だから言っただろう? 孝四郎君がキャナに魂を分け与えたという行為、このことにすごく大きな価値があるんだって」
「うん、だいたいわかったよ、シュウさん」
俺が不可解な顔をしている傍で、キャナは力強く頷いて見せた。
「今のあたし、魔神にも負ける気がしない。こーちゃんが一緒にいてくれることが、何よりも心強いコトなんだって、わかったから」
そうして、俺を見てにっこりと微笑んで見せた。
「あたしを信じて、こーちゃん。あたしはこーちゃんのコトを信じるから。さっさと魔神を黙らせて、帰ってさっきの続きしよ?」
そっと、俺の右手を握っている。
俺もまた、ぎゅっと握りかえしてやった。
ややエッチなニュアンスを含んではいるものの――キャナの言う通りだろう。
あの日の後悔を取り戻す戦いはまだ終わっちゃいない。
俺もまた、この女神を助けて魔神をぶちのめす使命があるんだ。
「OK。オッサン達、さっさと行きな。あとは俺とキャナで引き受ける」
「繰り返すが、オッサンじゃない。シュウと呼べ!」
「ぷぷ……」
彼の傍らで、ミナが笑いを堪えている。




