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その15 危険なエンジェル

 メイちゃんとはできるだけ一定の間合いを保つようにしよう。

 思いつつ俺は歩いている。

 迂闊に仲良くしてしまうと、妙な噂をたてられたり面倒くさいコトに巻き込まれるようなニオイがぷんぷんする。まかり間違えば、キャナが悲しむ。……いや、勢いあまってメイちゃんを殺しかねん。

 そんな俺のイヤーな予感を知ってか知らずか、ぴったりとくっついて歩いているメイちゃん。

 可愛いのはいいんだけどさ。

 このコは恐らく――何かを呼び寄せる体質をもっているような気が、すごくする。

 それが何かと訊かれても上手く説明できないケド。

 お。

 肉屋のおばちゃんだ。

 仕入れてきた肉を運んでいるな。


「おばちゃん、おはようございます」

「あら、孝四郎君、おはようござ……」


 肉屋のおばちゃん、俺達を見るなり口をあんぐり。

 で、手にしていた冷凍肉のカタマリがするっ――


「……っとっ!」


 慌てて飛び込みざま、間一髪キャッチ。

 落としたら売り物にならないじゃねェかよ。


「おばちゃん、あぶないっての! ちゃんと持ってなよ!」

「あ、ああ、ごめんね。孝四郎君があんまりキレイなコと一緒にいたものだから、つい」


 メイちゃんの美しさに度肝を抜かれたようだ。

 その彼女、おばちゃんに向かってゆったりと頭を下げつつ天使のスマイル。


「うちのガッコーに転入してきたんだよ。ワケあって、お知り合いになったんだ。――ああ、帰りに寄るから。鶏肉、なんかあったらとっといてね」

「あ、え、メンチカツね。わかったよ。いってらっしゃい」


 だから鶏肉だっての。

 メンチカツも悪くはないけど。俺的には牛肉コロッケの方が好きだ。

 ってか、同性にも動揺を与えるとは……。

 メイちゃんの美貌恐るべし。


「いい人みたいね、あのおばさん」

「だな。よくおまけしてくれるし」


 それきり会話も弾まぬまま(わざとだが)、車の多い大通りをイーペー目指して歩く俺達。

 途中に「魔の信号」と呼ばれる、いや、俺が呼んでいる地点がある。

 理由その一、歩行者側の時間がやたらと短く、ひっかかる可能性がきわめて高い。

 理由その二、俺を狙ってくる他校生がバカの一つ覚えで待ち伏せしている場所だから。

 ちなみに、昨日は生高のバカども約六名ばかり、キャナに一撃で殲滅されている。


「――オイ! 風間!」


 ……ああ。

 やっぱりお待ちでしたか。

 今日は私立安岡高校、通称「アンコー」の奴ら。

 三人か。ちょっと少ないな。これって三暗刻(サンアンコー)……?

 生高や雲高、タバコーにセッターといった学校は不良率が比較的高いものの、アンコーでそういうワルを気取っているバカはほんのちょっとしかいない。だから、市内不良勢力分布図的にはまったくといっていいほど生息域が狭い。ファミコンの三国志でいえばこーそんさんの領国よりまだひどいんじゃなかろうか。

 だいたい、ワルぶり方からしてなってない。

 学ランはボタンフルクローズ、あろうことか詰め襟までぴしっ。

 下に目をやりゃストレートのズボンだから、ポッケに突っ込んでいるその手が窮屈そう。

 髪の毛だって、一見フツーの男子高校生。染めもしてなけりゃソリもない。

 不良っていうよりもむしろ「並んで歩いている生徒会役員」もしくは「僕達、大学合格目指してなんちゃら予備校通ってますCM学生」にしか見えないっつーの。

 以前、道を歩いていたら「お、イーペーの風間だ」とかって道をふさがれたので、俺の拳が出動した。

 が、可哀相なくらい不良のオーラがないから仕方なく、七十パーセントカットにしておいたのだが……それでも奴らは卒倒した。傍目から見れば、まるで俺が苛め倒しているようだったろう。

 本日はどうもそのお礼にいらっしゃったらしい。


「この前はよくもやってくれたな。今日は仕返しにきたぞ」


 ちなみに俺、こいつらの名前は知らない。

 左から順番にA、B、Cとしておく。なんかドラクエのモンスターだな。

 今のはCが発したマジ文句である。学芸会の台詞じゃない。

 するとB


「俺達、マジメだからな。お前を倒して、それで停学になってもいいと思っているんだぞ」


 すでにこの時点で俺、腹が痛くなっていた。

 ……心の底からマグマのようにぶくぶくと、笑いが沸いてきて堪えるのに精一杯。

 なのに、Aときたら


「朝からそんな美人の彼女連れて歩きやがって。彼女の目の前でめちゃくちゃにしてやるよ」

「……ぶっ! あっはっはっは――」


 ダメだった。

 笑っちまった。


「てめえ! 何、笑ってるんだ!? バカにしているのか!?」

「ひーっひっひっひ――」


 もう、腹の皮がよじれて死にそう。

 なんだその「停学になってもいいと思っているんだぞ」ってのは。

 トドメに「めちゃくちゃにしてやるよ」ときた。

 脅し文句にも何もなっていないどころか、ほとんどコント。

 こいつら、真性のアホだ! 

 絵に描いたワルを演じようとして、出来上がったのは子供のお絵かき。

 のたうちまわってげらげら笑っている俺の背後で、不思議そうな顔をして立っているメイちゃん。


「……風間クン? この人達、お知り合い? っていうか、どうしてそんなに笑ってるの?」


 答えようと思ったけど、ムリ。

 ――笑いが止まらん。ツボにきちまってる。泣けてきた。

 俺がそんな状態でいつまでたっても相手にしないものだから、三暗刻はいよいよムカついたらしい。

 Aがずいっと前に進み出て


「風間! 許さないぞ! こうなったらお前を倒して、その彼女を連れていくからな!」

「……私を連れて行くの? どこへ?」


 メイちゃんが静かに応じた。

 この時、俺は気付くべきだった。

 彼女は一切「ウケて」いないというコトに。

 が。


「え、えーっと、その……」


 想定外の返答に面食らったA君は、困ったようにB、Cの方を見た。

 Cもまた「そんなこと訊かれても……」みたいな表情をしただけである。

 それではさすがにカッコがつかないと思ったのか、Bは止せばいいのに


「よ、よし! ゲーセンだ! ゲーセンに連れて行くからな! どうだ!?」


 ゲ、ゲーセンって……!

 ここまでくると、声も出ない。

 呼吸困難に陥ってしゃがみこんでいる俺。

 と、メイちゃんがすっと俺の横にやってきた。


「ゲなんとかっていう場所、私にはよくわからないわ。でも、とりあえずわかった。……あなた達、風間クンを狙っている人間達でしょう?」

「そ、そうだって言っただろ! 俺達は、風間が来るのを、八時からここで待っていたんだ!」

「そう……。じゃ、風間クンに代わって私が相手になるから」


 その一言で、ようやく俺は気がついた。


「……メイちゃん! ちょ、ちょっと待て!」


 叫んだ時にはもう遅い。

 バチバチッと空気を引き裂くような音が聞こえた次の瞬間。

 間欠泉のように、地から天空へむけて白く大きな三本の光が吹き上げた。


「ばわわわわわわわわっ――」

「どびびびびびびびぃ――」

「れべべべべべべべ――」


 強烈な電撃。

 あっと思ったときにはもう、三暗刻の五体を貫いていた。

 すぐ目の前に雷が落ちたのかと見まがうような、すさまじい連続フラッシュ。

 三暗刻A、B、Cはあまりの衝撃にがくがくと身体を震わせ、言葉を発することもできない。

 それが数秒間続いてようやく収まると同時に、三人は白目をむきつつその場に崩れ落ちた。

 辛うじて三暗刻を殺さなかったのは、幸運中の幸運かも知れない。

 ――が、メイちゃんが放った電撃が影響したのは、何も三暗刻だけではなかった。

 正面の信号機が突然、チカチカと点滅を繰り返したと思いきや点かなくなってしまったのだ。

 周辺のオフィスビルの照明が一斉に消え、街頭放送はぷつりと途絶えた。

 突如街を襲った異変に、道行く人達は立ち止まって不審そうに周囲を見回している。

 交通をつかさどる信号機が機能しなくなったからさあ大変。

 交差点を行き交いできなくなった車が渋滞を引き起こし始め、あちこちからクラクションがブーイングのように鳴り出した。

 ……やっちまったよ。

 電撃が強烈過ぎて、付近の送電をストップさせてしまった。

 この分だと、近くを走っている電車も停まってしまっているのではなかろうか。

 俺は立ち上がりざま、メイちゃんの腕をつかんで駆け出した。


「風間クン!? ど、どうしたの? 私、まだトドメを――」

「ささんでいい! とにかく、逃げるんだ!」


 こうなりゃ、逃げるしか手がないっつーの。

 バレたらタダじゃ済まない。

 あのキャナだって、さすがにここまでやったコトなんてない。

 ってかメイちゃん――俺が予想した通り、早くも仕出かしてくれちまった。

 カワイイ顔して、ろくでもない魔女だ。

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書き溜めしますので、次話の掲載は10/18です。

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