「聖女らしからぬ祈りの言葉も、私には好ましく映ります」悪女気質の聖女、スパダリ騎士様に見初められました!?~消去法で聖女に選ばれた悪徳令嬢の物語!~
「ローザリンド・ヴェルミリオン! 貴様との婚約は、本日をもって破棄する!」
婚約者だったユリシーズ殿下がそう宣言した日、わたくしは証拠もない浮気疑惑を理由に、公衆の面前で断罪された。
「あら、随分と乱暴な幕引きですこと。証拠もお持ちにならず、よくもまあ堂々と仰れますこと」
「な、なんだと....!?」
「いえ、感心しておりますのよ。中身のない自信だけは、殿下の数少ない美点かもしれませんわね」
売り言葉に買い言葉のような皮肉を残し、わたくしは静かに一礼して会場を後にした。心無い囁きが背中に降り注いだが、気にする義理もない。証拠のない断罪など、ただの茶番である。
数日後、実家からも追い出され、行くあてもなく途方に暮れていたわたくしのもとに、思いがけない知らせが届いた。
「――聖女、ですって......?」
教会からの使者いわく、先代聖女が急病で退任し、後任を探しているという。しかし魔力適性を持つ候補者は、この国にほとんど残っておらず、消去法で白羽の矢が立ったのが、他ならぬわたくしだったのである。
「随分と切羽詰まっていらっしゃいますのね。よろしいのかしら? 断罪された悪女に、聖なる役目を任せて」
「せ、聖女様に望まれる資質は清らかな心よりも、まず適性でございますので!」
正直すぎる使者の返答に、わたくしは思わず笑ってしまった。行き場のない身の上である。断る理由もなく、わたくしは聖女の座を引き受けることにした。
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「では、聖女様.......病に伏せる村人たちのために、どうか祈りを捧げてくださいませ」
大聖堂に案内されたわたくしは、跪く村人たちを前に、両手を組んで目を閉じた。
「――治りなさい」
短く、しかし有無を言わさぬ声音で告げると、村人たちの体を淡い光が包み込んだ。見る間に顔色が良くなっていく様子に、周囲の神官たちが驚愕の表情を浮かべる。
「せ、聖女様.......効果は覿面ですが、その.......祈りの言葉が随分と……」
「あら、何か問題でも?」
「い、いえ、その........もう少し優しい言葉遣いの方が、聖女様らしいかと」
「効果が出ているのですから、言葉遣いなど些末な問題ですわ。それとも、慈悲深く祈って治らない方がよろしいのかしら?」
「い、いえ、そういうわけでは……」
「でしたら、結果を重視させていただきますわ。次の方、参りましょう」
にべもない返答に、神官は何も言えなくなった。
周囲では、跪いていた村人たちが「随分と迫力のある聖女様だ」「でも、確かによく効く」「祈られると、逆らったら罰が当たりそうな気がする」と、恐れと感謝の入り混じった声を漏らしている。
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聖女としての公務の合間、わたくしはもう一つの顔を密かに動かし始めていた。
「――というわけで、聖女の名を冠した薬草茶を売り出しますわ!!!」
「せ、聖女様、それは商売活動になるのでは….?」
侍女が困惑した顔で尋ねてきたが、わたくしは涼しい顔で答えた。
「あら、聖女の権威を、教会の維持費以外に活かさない手はございませんもの。それに、この薬草茶、実際に治癒効果もございますのよ?」
「そ、それは確かに素晴らしいですが……売上の使い道は.....?」
「半分は教会の運営費に、残り半分は困窮している村々への支援に充てますわ。もちろん、多少の手数料はいただきますけれど」
「て、手数料まで……抜け目ございませんね」
「商売とはそういうものですわ。慈善事業を続けるにも、元手は必要ですもの」
堂々と胸を張るわたくしに、侍女は諦めたようにため息をついた。悪役令嬢としての商才は、聖女の立場でも存分に発揮できるものらしい。
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そんなある日、大聖堂の警護を任されている騎士団長ガレスが、静かに歩み寄ってきた。
「聖女様.......少しお時間をよろしいですか」
「あら、ガレス。何かございましたの?」
「――誤魔化さず言いますと、貴女のことが気になって仕方がないのです」
唐突な告白に、わたくしは思わず目を瞬かせた。
「あら.......随分と直球でいらっしゃること」
「回りくどい言い方は性に合いませんので! 聖女らしからぬ祈りの言葉も、裏で商売に手を出す大胆さも、私にはむしろ好ましく映ります!」
「まあ、随分と変わった好みでいらっしゃいますこと。普通は、もう少し清楚な女性を好まれるものだと思っておりましたけれど?」
「清楚さより、芯の強さに惹かれる性分でして。それに――」
ガレスは少し照れたように視線を逸らしながら続けた。
「祈りの言葉が威圧的だろうと、結果を出す方をお守りする方が私としては誇らしいのです!」
真剣な眼差しでそう告げるガレスに、わたくしは思わず頬が緩むのを感じた。断罪されて行き場を失った身に、こうも真っ直ぐな好意を向けられるとは、思ってもみなかった。
「あら、口説くにしては随分と評価の仕方が独特でいらっしゃいますわね」
「事実を申し上げただけです。それに――貴女を傷つけようとする者からは、いかなる時も私が守ります!」
不器用ながらも、揺るぎない誠実さに、わたくしはとうとう笑ってしまった。
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そんな穏やかな日々を引っ掻き回すように、ある日、思いがけない来訪者が大聖堂を訪れた。
「ローザリンド……いや、聖女様。どうか、私との婚約を考え直していただけないだろうか......?」
現れたのは、あろうことかユリシーズ殿下だった。聖女となったわたくしの評判を聞きつけ、掌を返しにきたらしい。
「あら殿下、証拠もなく断罪なさった件、もうお忘れでいらっしゃいますの?」
「あ、あれは、その.......誤解があったのだ......!」
「誤解、ですって? それとも、聖女という肩書きが手に入りそうになった途端、都合よく記憶が書き換わったのかしら」
淡々とした皮肉に、ユリシーズ殿下は言葉に詰まった。
「そ、それでも、かつての婚約者ではないか......!? 多少の情は――」
「情、ですか.......証拠もなく断罪しておいて、随分と都合の良い言葉が出てまいりますのね。それに、殿下がいらしたのは、わたくしへの情ではなく、聖女という肩書きへの下心ではございませんこと?」
図星を突かれたユリシーズ殿下は、みるみる顔を赤くした。
「ーーー聖女様に無礼な真似は許しません」
割って入ったガレスが、殿下を厳しく睨みつける。
「殿下.......証拠もなく断罪した過去のある方が、都合よく復縁を求めるとは、いささか見苦しいのではございませんか?」
有無を言わさぬ二人がかりの追及に、ユリシーズ殿下はすごすごと引き下がるしかなかった。
「――お見事な連携でしたわね、ガレス」
「聖女様をお守りするのは、当然のことですので」
さらりと返す彼の様子に、わたくしはとうとう声を立てて笑ってしまった。
「あら、随分と頼もしいこと。この調子でしたら、次に厄介事が起きても安心ですわね」
「厄介事が起きないのが一番ですが、起きた際は必ずお守りします」
生真面目な返答に、わたくしはますます笑いが止まらなくなった。
断罪から始まった数奇な人生は、思いがけず、賑やかで頼もしい居場所へと辿り着いたようである。
「ちなみに、ガレス。先ほどの求婚まがいの発言、あれは正式な求婚として受け取ってもよろしいのかしら?」
「――もちろんです! 正式な返事は、いつでもお待ちしております!」
「気の長いお話ですこと。ですが、そういう慎重さも、嫌いではございませんわよ」
「――さて、次はどんな騒動が待っているかしら」
不敵な笑みを浮かべるわたくしを、ガレスはどこか眩しそうに見つめていた。
悪女の気質を隠しもしない聖女の物語は、こうして、賑やかな幕開けを迎えたばかりである。
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聖女の名を冠した薬草茶ビジネスの行方や、ガレスとの関係の進展など、まだまだ書きたいことがございます。よろしければ作者フォローもしていただけると幸いです!
それでは、また次のお話でお会いしましょう!




