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【完結】妹にすべてを奪われたので今世は悪女になって奪還することにしました  作者: もぁらす


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5話『揺れる瞳、再会は静かに』

 春の舞踏会から数日が過ぎた。


 リリーが仕掛けた罠を無傷で切り抜けたことが功を奏したのか、社交界の中で私は静かな波紋を呼んでいた。



 「アメリア・ローズウッド嬢は変わった」


 かつての私は養女である引け目から、社交界の中でも人の目を気にし、リリーの言うことに従って生きていた。彼女よりも目立たず、母に恥をかかせないように個性を出さず。


「今までの“控えめなお人形の姉”ではない」


 そんな噂が、貴族たちの間で交わされていると、耳にした。


 それは計画通りではある。


 だが私は今世では、リリーに全てを渡すつもりだ。


 そのためには目立ち、そして奇をてらう必要がある。これはその序章だ。


 私は冷静に振る舞い、狙ったとおりの印象を植えつけていく。仮面の下の素顔を隠したまま。

 決して、同じ未来を歩むわけにはいかない。




 けれど、そんな私の前に――“本来の道筋を知る”者が現れる日が、ついに来た。



 王都で開かれる慈善市に、ローズウッド家の代表として出席した日のこと。


 刺繍と陶器、香水に馬車部品までが並ぶ賑やかな広場の中、私は母とともに、貴族席へ向かっていた。



 ふと、場の空気が変わったのを感じる。


 ざわめきが起こる。人々が道を開ける。



 その中心に、銀の鎧をまとった騎士を従えて歩く一人の青年がいた。




「……あれは」




 私は息を飲む。


 彼は、高貴な美貌を持ち、鋭く、それでいて優しさを帯びた青い瞳を持っていた。

 リリーが“自らの騎士”として誑かし、私を処刑へと導いた――その張本人。




 ルシアン=クラウス・アーデルハイト。




 リデア王国の第一王子であり、未来の国王。




 そして、私の“死の最期”を見送った男。





「王子殿下がこちらにいらっしゃいます」



 声に導かれて、私は軽くドレスの裾を持ち上げた。



「初めまして、王子殿下。アメリア・ローズウッドと申します」



 前世の記憶が喉元までこみ上げたが、私はそれを押し殺した。いまはまだ、その時ではない。




 だが、ルシアンは一歩、私に近づいた。


 そして、ふいに――囁くように言った。




「また、君に会えたね」




 その言葉に、心臓が跳ねた。




 “また”。




 この瞬間、私は確信した。




 この人もまた――回帰者だ。




***




 母が周囲の貴族たちと談笑する中、私とルシアンは短い距離を保ったまま、目を合わせていた。




「ずいぶんと変わったね。アメリア嬢」


「なんのことでしょうか?」


「僕の知るアメリア嬢よりもずっと……強い目をしている」


「変ですわ、私達は今日はじめて会ったのに。夢でお会いしましたかしら?」




 ――。




 つまり、前の時間軸の私のことだろうか。




 かつての私は、彼にとってどんな存在だったのだろう。


 リリーに仕組まれた情報に踊らされて、私を罪人に仕立て上げたあなたは、今どんな想いで私を見ているの?



「ははっ、夢、か」


「殿下こそ、歳の割に物言いがずいぶんと落ち着かれたご様子ですね?」


「……そうか?」




 どちらも“本音”を言わずに、上部の会話を続ける。




 だけど、互いの視線だけは、嘘をつけなかった。




***




 帰りの馬車の中。


 私は窓の外を眺めながら、ネックレスに触れた。




「……リュミエール。あの人のことも、“選んだ”の?」


『それは、そなたが確かめるべきことだ』


「もし彼も回帰しているとしたら、一体なにを企んでるの?敵には感じなかったけど」




『敵でなければ、共に歩むのか?』


「わからない……でも、いまはまだ、信じない。簡単には」




 信じても裏切られる。




 そう教えてくれたのは、あの処刑台だった。




 だから私は、今度こそ自分の目で見て、自分の心で選ぶ。



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