最終話『夜明けの戴冠式』
夜が明けた。
東の空に、金色の光がゆっくりと満ちていく。
長く続いた暗闇が、ようやく終わりを告げるように。
王都の広場には、まだ朝靄が残っていた。
石畳に映る光がきらめき、露を含んだ花々が一斉に顔を上げる。
その中央、聖堂の階段に――二つの影が並んで立っていた。
王冠を戴くルシアン。
その隣には、純白の礼服に金糸のマントを纏ったリア。
民衆のざわめきが、波のように広がっていく。
そこに姿を現したのは、威厳を湛えたひとりの老王――リデア王国の元国王、そしてルシアンの父。
彼の瞳は深く、長い年月を経た者の静かな光を宿していた。
杖をつきながらゆっくりと近づくと、アメリアの前に立ち止まる。
「……顔を上げなさい、アメリア」
その声に、アメリアは小さく息を呑み、ゆっくりと顔を上げた。
王は彼女の瞳を見つめ、しばらく黙っていた。
そして、ふと微笑む。
アメリアの胸に熱が広がる。
「私は長い間、あの子を世継ぎとして見てきた。……君が来てからだ。あの子が初めて、人として笑った」
ルシアンがわずかに俯き、照れくさそうに微笑む。
王は冠を手に取り、静かに続けた。
「君の血がどこに属そうと関係ない。この国に必要なのは、血ではなく心だ。……そして私は、心で君を娘と呼ぼう」
アメリアの瞳から、涙がこぼれた。
王は冠を掲げ、神々しい朝光の中で宣言する。
「――アメリア・ローズウッド。この時より、我が国の王妃として、我らが未来を共に歩むことを許す」
その言葉とともに、王冠がアメリアの頭上にそっと置かれる。
金の光が、まるで天から降り注ぐように二人を包み込んだ。
人々が一斉に膝をつく。
鐘が鳴り響き、王国の朝が訪れる。
ルシアンはその手を取り、そっと囁いた。
「……君は、僕の誇りだ」
アメリアは微笑み、彼の手を強く握り返す。
「ええ。そして、あなたの隣こそが、私の居場所です」
その瞬間、リュミエールの光がふたりを包み、天井に反射して虹のような輝きを描いた。
広間の端では、花束を抱えたリリーが静かに微笑んでいた。
その瞳に宿るのは嫉妬ではなく、姉を見送る妹の優しい光。
王はそれを見届けると、ゆっくりと玉座に腰を下ろした。
「さあ、新しい時代を――共に築くのだ」
ルシアンとアメリアは並んで一歩を踏み出す。
朝日が差し込み、王宮の扉が開く。
民の歓声が波のように広がり、風が花弁を舞い上げた。
その姿は、黎明の光よりも美しく、すべての夜を照らす希望のように輝いていた。




