39話『黎明の誓い』
宴の名残を照らす燭火が、静かに揺れていた。
外では、夜明け前の風が星花の香を運んでくる。
世界がまだ眠りに包まれているその時間――アメリアとルシアンだけが、王宮のテラスにいた。
「……やっと、終わりましたね」
アメリアが小さく呟いた。
胸元のリュミエールが、淡い光を放ちながら静かに脈打っている。
ルシアンはその光に目を落とし、ゆっくりと微笑んだ。
「終わりじゃない。始まりだ」
「始まり……?」
アメリアはその言葉に顔を上げる。
夜気の中、彼の瞳が柔らかく光を帯びていた。
その瞳に映る自分が、まるで新しい朝のように思えた。
「……怖いです」
アメリアの声が、風に溶ける。
「私が皇族だったなんて……そのせいで、また国を揺るがすかもしれない。私なんかが隣にいて、いいのかって」
ルシアンは一歩近づき、そっと彼女の手を取った。
温もりが伝わる。
「“私なんか”じゃない」
彼は言葉を選ぶように、静かに続けた。
「アメリア、君はどんな血よりも強い。それは生まれじゃなくて――生き方の証だ。帝国も、教会も、血も――もう誰かの呪いではない。これからは、僕たち自身の選んだ未来を歩けばいい」
アメリアの瞳が潤む。
「……そんなふうに言われたの、初めてです」
ルシアンは微笑み、彼女の頬に手を添えた。
「これから何があっても、僕は君を疑わない。たとえ帝国がまた動こうと、君の光を、僕は信じ続ける」
アメリアは静かに頷き、彼の胸に身を寄せた。
その瞬間、リュミエールの光がふたりを包む。
まるで祝福のように、淡い金の粒子が風に散った。
「約束します、陛下。私は、あなたの隣でこの国を守ります。――この手で、共に」
「……陛下じゃないだろう?」
ルシアンの声が少し照れくさそうに笑う。
アメリアが見上げると、彼の顔は穏やかで、少し幼く見えた。
アメリアの唇が震える。
「……ルシアン」
その名が夜空に溶ける。
遠くで鳥が鳴いた。
東の空がわずかに白みはじめている。
新しい朝が、訪れようとしていた。




