表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】妹にすべてを奪われたので今世は悪女になって奪還することにしました  作者: もぁらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

37/43

34話『呪印の始まり』



 その日、私はひとり、礼拝堂へ向かっていた。


 理由はうまく言葉にできなかった。ただ、お姉様に対して芽生えた黒い感情を、どうにか押し込めたくて――神様に許しを乞うように、静かな礼拝堂を訪れたのだ。


 「どうして私ばかり……」


 涙の跡を袖で拭いながら、私は祈りの姿勢を取った。


 そのとき、背後から――しん、とした空気を裂くように、足音が近づく。



 「祈っているのか、少女よ」



 声の主は、白と金を基調とした法衣をまとった青年だった。

 深紅の髪に琥珀の瞳、そして胸元には――赤い聖印のブローチがきらめいていた。


 「……誰?」


 「私はただの巡礼者。だけど、君のように美しく、苦しんでいる魂には目を向けたくなる」


 私は、彼の言葉を信じたわけではない。けれど、その声音が不思議と心に染み入った。



 「……お姉様が、何もかも持っていくの。お父様も、お母様も、いつもあの人ばかり……」


 青年は黙って聞いていた。やがて、ゆっくりと腰を屈め、私の目線に合わせる。


 「君は祝福されて生まれた。けれど、神は不公平だ。

 その苦しみを癒したいと思うのなら……少しだけ、力を貸そう」


 青年はそう言って、小瓶を差し出した。中には淡い銀の液体が揺れていた。

 私が目を見開いた瞬間、青年の指が彼女の首筋へと触れる――


 「これは……痛っ……!」


 焼けるような痛みが走った。

 首筋に、印が浮かび上がる。






 「大丈夫。君は、これで“選ばれた者”になるのだから」




その日を境に、自分が自分でなくなっていくようだった。


いや――もはや、“本当の自分”がどこにいたのかさえ、分からなかった。


感情が膨れ上がるたびに、胸の奥が焼けるように痛む。


姉を見るたび、声をかけられるたび、


「どうして、あの人ばかりが愛されるの」


そんな声が、心の内側から囁いてくる。




まるで誰かが、魂ごと侵食しているかのように。

それでも私は――その違和感を、恐れるよりも先に、受け入れていた。





幸いにも、姉は私よりも前には出なかった。

少なくとも、あの頃の私には、そう見えていた。


誰からも愛され、気遣われ、優しくされて――

それでも姉は、決して私の立場を奪おうとはしなかった。



“私の居場所”を壊さないように、そっと後ろに控えていた。


……だからこそ、余計に腹立たしかった。

何もせずとも光を纏うその背中が、

私には、ただ――憎らしかった。


あの人は、“私に譲ってくれていた”わけじゃない。

最初から、私など眼中になかったのだ。




私は、選ばれていなかった。

生まれた時から、何一つ――。



そう思い詰めるほどに、心は澱み、息苦しさは増していった。



夜になればなるほど、胸の奥に溜まった黒い感情が暴れ出す。


姉の笑顔が浮かぶたび、爪で自分の腕を引っ掻きたくなる衝動に襲われた。


そしていつものように、私は一人、礼拝堂にいた。


静寂の中、蝋燭の明かりだけがゆらゆらと揺れる。

誰もいない聖堂の奥で、私はただ祈っていた。

「どうか、心を鎮めてください」と。


そのときだった。


「――その痛みを、消したいか?」


不意に、奥の陰から現れたのは、一人の男だった。

白金の法衣に身を包み、目に琥珀色の光を宿した青年。



静かで、どこか慈悲深い声音だった。

けれどその眼差しには、何か異質な冷たさが宿っていた。




「何者ですか?」


「私は神の使徒。貴女に救いを与える者です」


その人は言った。

“姉を妬む心”は、神が与えた“選ばれし者の兆し”だと。

“苦しむ魂”にしか触れられない、神秘の力があるのだと。


そして彼は、私の首筋にそっと手を触れた。



「……これは神の印。

 貴女の心を鎮め、真の力を引き出すものです。かつて、主が貴女に与えたもの」


肌に触れた指先から、ぞわりと冷たい何かが流れ込んだ。


痛みではなかった。

熱でもなかった。

けれど、私の内側で何かが“塗り替わる”のを感じた。




そしてその日から、私はグレオール様の指示に従った。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ