表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】妹にすべてを奪われたので今世は悪女になって奪還することにしました  作者: もぁらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

3/43

2話『仕掛けられた毒』


 扉の向こうから聞こえる侍女たちの声、食堂に漂う香辛料の匂い――すべてが前世と同じ。けれど私だけが、同じであってはならない。


「……クララ」


 身支度を手伝う侍女に声をかける。


「はい、お嬢様」




「今日の昼食、いつもより私の皿にだけ違うソースがかかっている、ということはないわよね?」




 一瞬、クララの手が止まった。




「……え?」


「冗談よ。気にしないで」




 私はにこりと微笑んだ。この時が前世で“最初に違和感を覚えた出来事”だった。



 毒ではない。けれど胃痛を引き起こす軽い異物。病み上がりだった私には微量でもてきめんだった。それを「体調不良の兆し」として見せることが、リリーの策略の第一段階だった。見舞いと称して母の信頼を得て、家中の心を掴む布石。



 私は知っている。今日が、その“兆し”が始まる日だ。


 この日から”病弱になり、精神的に不安定な長女”が作り上げられていった。




***




 昼食の席にて。


 母、リリー、私の三人。日常の一幕のような食卓。


 スープ、パン、鶏肉の香草焼き。そして、問題の“ベリーソース”。



「お姉さま、そのソース……新しく作ったものなんです。わたし、厨房の方にお願いして……」


「まぁ、そうだったの。ありがとう、リリー」



 母が微笑み目を細める。リリーは恥じらいながら頷く。


 その愛らしい仕草が、かつてはどれほど人々の心を掴んだことだろう。


 私は皿を見下ろす。香りは強く、ベリーの甘酸っぱさに薬草のような香りが微かに混じる。




 ──微量。だが確実に“何か”が混ざっている。




 私は一口、口に含む。


 そして、すぐに布のナプキンで口を拭いた。



「少し酸味が強いわね。体調が万全じゃないから、今日は控えるわ」


「……っ、すみません、お姉さま。わたし、気が利かなくて……」




 リリーが目を潤ませる。




 これも“計算の一部”。




 彼女は私に罪悪感を植え付け、母には「なんて健気な子なの」と印象づける。言葉ひとつ、涙ひとつ。すべてが芝居。


 私はあの時、そんなリリーに気を遣い全てを口にした。それが始まりだった。


 けれど、私はもう飲み込まない。


「気にしないで、リリー。あなたの心遣いは伝わったわ」


 私は笑って、ナプキンを静かにたたんだ。




 今日、リリーの最初の一手は、未遂に終わった。




 これでひとつ、前世の“運命の分岐”が変わった。




***




 その夜、私はネックレスを握りながら日記をつけていた。



 【一度目の修正:昼食のソースを口にしなかった】



 小さく、だが確実に歴史が動いた。


 リュミエールの声が、静かにささやく。



『小さな選択が、未来を大きく変える。……そなたは、それを選んだ』



「うん……でも、これで終わりじゃないよね」



『ああ。これからが、本当の試練』



「覚悟はできてる」




 私はそう返して、日記のページを閉じた。




 この世界に“変化”をもたらすのは、ただひとつ――私自身の意志だけだ。




***




 翌日、リリーにまた動きがあった。



「お姉さま、少しお話しても?」



 庭園にて、ふたりきりのティータイムを演出してきた彼女。



「最近、クララが変なんです。……お姉さまに、何か変なことを吹き込んでいませんか?私のことを悪く言っているようで。でも、私にはお姉さまのことも……」




 リリーの告げ口。


 これは、私を孤立させるための布石。使用人を“疑わせる”ことで、私の信頼を削ぎ落とす作戦。


 かつてこの言葉を鵜呑みにし、私はクララを筆頭に使用人に冷たくするようになった。リリーを信じ、彼女を守るために。


 でも、もうその手には乗らない。



「そう……たしかに最近、少し様子が違うわ。あなたの言葉、参考にするわ。ありがとう、リリー」



 私は、また笑って受け流す。


 彼女が何を仕掛けても、私はもう騙されない。




 過去の私は、ただ信じていた。妹の善意を、周囲の笑顔を、家族の絆を。




 でも今は違う。





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ