表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】妹にすべてを奪われたので今世は悪女になって奪還することにしました  作者: もぁらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/44

22話『リリーの毒』



 その日は、やけに空が静かだった。


 風もなく、鳥も鳴かず、庭の花が咲いているのに、何も香らない。




 ――嫌な予感がした。




 胸元のネックレスは、微かに震えていた。


 まるで、私に“何かが近づいている”と告げるように。




***




「……お母様が倒れた?」




 その知らせを聞いたのは、昼食を取ろうとしていた矢先だった。


 報せに来たのは、最近入ったばかりの若い侍女ミア。


 新人にしては、彼女の声は妙に落ち着きすぎていた。




 そして――何より、彼女の袖口からは“微かな香り”がした。




 これは……。


 記憶にある、前世で母が倒れたときに香ったかおりと、まったく同じだ。




「……まさか」




 私は椅子を蹴るようにして立ち上がり、母の部屋へ駆けた。



***



 寝台の上、母は浅い呼吸を繰り返していた。


 額には汗。


 唇はうっすらと紫に染まり、目は虚ろに開いている。



「お母様!」



 医師はすでに呼ばれていたが、診断は歯切れが悪かった。



「……毒のようなものではありますが、はっきりとした成分が不明で……」




 分かるはずがない。そんな簡単なものを、リリーが使うはずがない。



 でもどうして?


 貴女はいま、全てが上手く行ってるじゃない。



 なのに何故――お母様が……




***




 「お姉さま、お母様はご無事なんですか?」


 遅れて部屋に現れたリリーは、まるで“今知った”ように心配した顔をしていた。



 かつての私であれば、このリリーの全てを疑う事なく信じただろう。


 だが今は、怒りの方が先走って冷静を保つので精一杯だった。

 

 もう騙されない。




「リリー。あなた……」


 その先を言いそうになって、母の存在に気が付き私は言葉を飲み込んだ。



「? 私、お母様の体調が悪いと聞いて、心配で……」


「そう。なら、答えてちょうだい」




 私は懐から、入手したばかりの“香袋”を取り出した。




 それは、母の枕元で先程見つけたものだ。




「この香り、“ただの香袋”じゃないわよね? これは王都では使用が制限されてる毒性の高い香草を含んでいる。どうしてこんなものがここにあるの」



 こんな短時間で調べ上げるのは不可能だった。でも、私は地下牢でリリーが言っていた言葉を忘れてはいない。



”お姉さま、知ってる?月白草って。冥土の土産に教えてあげるわ。お母様の枕元に添えておいた香袋があったでしょう?私が送ったもの”



「…………」


 リリーの顔が、一瞬だけひび割れた。


 やはり、間違いない。




「知らないとは言わせないわ」




「……お姉さまは、私を疑うのね」


「疑ってるんじゃないわ、断定してるのよ」




 部屋が静まり返る。




 母の寝息だけが、かすかに響いていた。

 私はそれを確認する。



「あなたは母を“支配下”に置きたかった。

 だから、体調を崩させて、世話を焼くふりをして信頼を得る。

 その一方で、私の周囲を切り崩し、悪女の噂を流す。

 そういう魂胆なんでしょう?リリー」




「……お姉さま、一体どこでそんな悪知恵を仕入れてきたのかしら」


「あなたがしている事を口にしただけよ」



***



「お姉様はお母様が倒れて正常な判断が出来ていないようですわね、わたくし一度席を外しますね」


「待ちなさい……っ」



 リリーがそう言い部屋を出ていったあと、私は母のそばに戻った。


 眠るように目を閉じる母の手を、そっと握る。




「私は、もう何も奪わせない。二度と。


 この手で、全部守ってみせるから」




 …⋯どうすれば。

 私はどこで間違えたのだろう?


 母の危機は、回避できたはずなのに、何故。



「⋯⋯月白草」



 あの時、リリーはそう言った。




 ルシアンなら、何か知ってるかもしれない。




《困った事があればいつでも頼ってほしい》




 数日前にルシアンがくれた文書を思い出す。


 そうだ、私はまだ協力者を一人も見つけていない。


 だが、先日ルシアンを拒んだばかりだ。


 これは、あまりにも都合が良すぎるのではないだろうか。



 私は眼の前で眠る母の姿を見て、まぶたを閉じた。



 もう、つまらない意地をはっている場合ではない。



 「待っていて、お母様」



 私は、扉を静かに閉じた。

 母の寝室の前に立ち尽くし、ひとつ、深く息を吸う。


 屋敷の廊下は静まり返り、まるで息を潜めているようだった。

 風が吹き込んだ窓辺のカーテンが揺れている。

 この静けさは、心細くもあり、しかし決意を強くさせる。


 私は控えていた侍女に小声で告げる。


 「馬車の準備を。……王宮へ向かいます」


 侍女が驚いた顔を見せるも、すぐに準備をした。


 誰にも悟られてはいけない。

 王宮に出入りすることすら、今の私には命取りになりかねない。


 けれど、それでも。

 母の命がかかっているのだ。――躊躇している暇など、もうない。


 馬車の中で、私は静かに拳を握った。



 王宮にたどり着く頃には、夜はすっかり更けていた。

 けれど、迎えの兵士に名を告げると、彼らはすぐさまルシアンの私室へ通してくれた。


 廊下の先、扉の向こうに、あの人がいる。


 私は立ち止まり、唇を噛んだ。


 何を言おう。どう頼めばいい。

 あんな風に拒絶しておいて、今さら手を借りたいだなんて――。


 けれど、扉は、私が迷うよりも早く開かれた。


 「……アメリア?」


 変わらない声だった。

 少し眠たげで、それでも私を見た瞬間、真剣な色が宿る。


 私はほんの一瞬、何も言えず、彼を見つめ返した。



 私は、小さく頭を下げる。


 「……お願いがあって、来ました」


 ルシアンは、一歩、近づいてくる。

 まるで、はじめからそれを待っていたかのように。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ