19話『決意と覚悟』
夜が明けた。
薄明の光がカーテン越しに差し込むなか、私はネックレスを胸に抱いたまま、椅子にもたれていた。
リュミエールの声は、もうはっきりと戻っていた。
『そなたは、ようやく“戻ってきた意味”を理解したな』
「ええ。私は、復讐だけのために戻ってきたわけじゃない」
胸元のネックレスが、ぬくもりを取り戻す。
あの夜会のあと沈黙していた宝石は、今、脈打つように淡く光り始めていた。
――これは、私が“間違えた道を歩んでいない証”。
復讐ではなく、守るために。
リリーを裁くためではなく、自らの手で未来を築くために。
***
「お嬢様、クララから手紙が届いております」
侍女が差し出した便箋は、確かに見覚えのある筆跡だった。
クララ。元気にしているかしら?
いまは実家に戻してあるが、連絡を欠かさずくれていた。
《お嬢様へ
今の私は、おそばにいることができません。
けれど、信じています。
誰になんと言われても、私は、アメリアお嬢様のためにならいつでも戻ります。
――お呼び頂けるその日を、心待ちにしております》
私は思わず笑みをこぼした。
かつてはリリーの言いなりになっていたはずのクララだったけれど、今ではその影は全くない。
必ずきっと、未来は変えれるはず。
リリーの悪事を晒し、見返す事が目的でここに戻って来たわけじゃ無い。
私は、愛する者たちと共に未来へ向かうために、リリーとは違う“悪女”である必要はある。
でも、誰かを陥れ傷つけたいわけでも、罰したいわけでもない。
***
その日、私は公的な文書を取り寄せ、ローズウッド家の運営方針に変更を加える書状を作成した。
母ではなく、私の名義で。
屋敷の管理を“形の上で”でも完全に掌握する。
同時に、王宮にも報告をあげる。
「“この家の主人は私だ”と周知させる」
公的な立場と法的な正当性を得て初めて、リリーの“私的な影響力”は弱体化するはずだ。
彼女の能力は“印象”と“場の支配”だ。
ならば、私は“制度と正統性”で立ち向かう。
心理戦ではなく、理で戦う。
リリーとは違うやり方で。
***
そして、私は書状を携えて母のもとを訪れた。
「お母様。今日は、お願いがあって参りました」
「……あなたが、お願いなんて珍しいわね」
「ローズウッド家の名を、私に任せていただけませんか?」
母は驚いた様子はなかったがしばらく沈黙していた。
やがて、そっと微笑んで言った。
「ずっと、言い出せなかったの。……あなたが変わったのは分かっていたけれど、それが良いことなのか分からなかった。
でも、今は分かるわ」
私は小さく、けれど確かに頷いた。
「必ず、悪いようには致しません」
「ええ。信じているわ、アメリア」
その言葉に、心が震えた。
ようやく、私は“自分で自分を信じる”段階に辿り着いたのだと実感した。
***
その夜。
リリーの侍女・ベルが、私の部屋の前でうろつく姿を、使用人が目撃したと報告があった。
すぐさま部屋を皆で捜索した。
「アメリア様、これを見てください!」
侍女が見つけたのは怪しい文書と薬草の断片。
中身は――でっち上げられた“密通と謀反”の証拠。
けれど、私は慌てない。
その一部始終を記録した証言と、屋敷内の文書記録で反証を準備する。
リリーが“私を陥れる”その手口を、
今は、逆手に取る。
私はネックレスを手に取り、そっと囁いた。
「私、また一歩進めた気がする」
『選び直す力は一度きりだが、選び続ける意志は何度でも灯せる』
私はそっと頷いた。
「私はもう選択を見誤らない」
そして、胸を張って前を向いた。




