表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】妹にすべてを奪われたので今世は悪女になって奪還することにしました  作者: もぁらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

12/43

11話『逆襲の序章』



 翌朝。


 屋敷にざわめきが広がったのは、早朝のことだった。



「奥様の侍女が、持ち場を放棄して姿を消しました」



 報告に、私は一瞬だけ目を細める。

 母付きの侍女・ノエル。穏やかな性格で、前世では終盤までリリーに買収されなかった数少ない側近のひとり。



 その彼女が、何の前触れもなく姿を消したという。



「ありえないわ。彼女はそんなことをする人じゃない」



 私は即座にノエルの部屋を確認させ、足取りを洗わせた。

 使用人からの証言によると、昨夜リリーの部屋に呼ばれたあと、ノエルは自室に戻っていない。


 


「……リリー」



 私は奥歯をかみしめた。


 これは“口封じ”だ。ノエルが何かに気づいた、あるいは気づきかけていた。


 その可能性だけで、彼女は排除された可能性がある。



 優しさを装い、笑顔で人を“始末”する――


 それが、妹リリー・ローズウッドの真の姿。




***




 その夜。


 私はネックレスを握ったまま、自室の窓辺で風に吹かれていた。



『リリーは、そなたの異変に気づいている』


「ええ。きっと前よりも“慎重に”潰しに来るわね」


『そなたは、耐えられるか?』


「耐えるだけじゃ足りない。……私は、勝たなきゃいけないの」




 そうでなければ、また同じことが繰り返される。




 またすべて奪われる。



 また、母を失い、ルシアンとすれ違い、そして私は――処刑台に立たされる。



「私は、今度こそ終わらせる。妹の“無垢な仮面”を、私の手で引き剥がす」



 リュミエールの声が、低く震えた。




『誤ることなき選択を』




「分かっているわ」




***




 数日後。


 いなくなった侍女のかわりにリリーが自ら“母の世話”を申し出てきた。



「お母様のお部屋に、今朝はわたしがお茶をお持ちしますね」


 母も「リリーが来てくれるなら嬉しいわ」と微笑む。



 それが“悪事”であることは明確だ。



 前世でもこの日、母が突如高熱を出し、寝込んだ。


 お茶に混入されていたのは、神経を鈍らせる“オピウム由来の鎮静成分”。



 私は、先に厨房に指示を出しておいた。



 “母の茶器だけ、別の場所で用意しなさい”。



 そして母の部屋へ向かったリリーを、私は廊下の陰から見つめていた。




「……こんなにわかりやすかったのね」



 リリーがティーカップを手に微笑むその横顔。


 それは“聖女の仮面”のままの、美しい妹の顔だった。



 だが、その瞬間――



 ティーカップがすり替えられていたことに気づいたリリーの表情が、ほんの一瞬だけ、凍った。


 私は、息を潜めながら、心の中で告げた。




 ――それでいいのよ、リリー。




 あなたの本性を暴くのは、もうすぐ。



 

 ティーカップのすり替えに気づいたとき、リリーの顔に走った一瞬の動揺。それは、ごくわずかな“綻び”だった。けれど、私には確信に変わる決定的な“証”となった。


 あの子は、やはり何かを混ぜていた。


 前世と同じように、母を弱らせ、力を奪い、“家”を乗っ取ろうとしていた。



 だが、今回は違う。



 私は細心の注意を払ってそれを阻止する。


 何度でも。



 私はもう“何も知らずに見逃す姉”ではない。




***




 その日の午後、私はあえてリリーを自室に呼んだ。


「お話があるの。二人きりで」


 何も知らないふりをして。



 あの子がどこまで“演じられるか”を、この目で確かめるために。



「お姉さま。なんでしょう?」


 リリーは、変わらぬ笑顔で現れた。けれど、瞳の奥には警戒の色があった。



「侍女がいなくなって傷心なさっていたけど、リリーのお陰でお母様、昨日よりだいぶお元気になられたわ」


「そうですか。よかった……ずっと元気でいていただきたいですものね」



 言葉の端々に、わずかな“焦り”が混じる。


 私の視線は、まっすぐにリリーを射抜いていた。




「ねえ、リリー。あなた、いつからそんな風に笑うようになったの?」




 リリーが一瞬、止まった。




「え?」




「天使みたいに、何もかも赦してくれそうな顔。……でも本当は、私のことを憎んでいるんでしょう?」


「……なにを、仰ってるんですか?」



「とぼけないで。私、思い出したの。……あなたが私の髪を切った日のこと」



 昔、私の筆記具が盗まれ、髪に墨をこぼされ、唯一大事にしていたカールを切られた。

 それは使用人の“悪戯”として処理されたが、本当は――リリーの差し金だったのだろう。



 リリーは黙ったまま、目を伏せる。


 その肩がわずかに震えていた。




 私は続ける。




「私が邪魔?」



「……お姉さまって、まどろっこしいですわね」




 その声は、あまりにも静かだった。


 仮面を被った、あの“天使”の声。




 けれどその直後、リリーはゆっくりと顔を上げて、微笑んだ。


 その笑みは、もう“無垢”ではなかった。




「いつも“控えめで優しい姉”でいれば、何も失わないと思っていたんでしょう? でも、それじゃ何も手に入らないって、気づいてないのはお姉さまの方ですわ」


「……それがあなたの本音?」


「違うわ。“事実”よ」




 それは、初めて見る妹の“素顔”だった。



 計算も、演技もない。


 むき出しの嫉妬と憎悪――そして誇り。




「私はね、お姉さま。あなたが羨ましかったの。養女のくせに全部最初から持っていて。なのにそれを、“気づきもせず”にいるところが、いちばん憎いわ」



 静かな告白。


 だけど、私はもう揺れなかった。




「だったら?あなたの思い通りにはさせない」


「……そのつもりでしょうね。でも、私だって、黙ってやられたりしませんわよ」


 リリーは、そう言って立ち上がった。



「お姉さま。今日のこの話、忘れてくださいね。……いつもの姉妹に戻りましょう。お母様が嘆くわ」




「戻らないわ。もう戻れない」





「……なら、お互い、望む形で終わらせましょう。お姉さま」




 それはお互いの宣戦布告だった。




 扉が閉まり、リリーが去ったあと、私は息を吐いた。



「正体を隠そうとはしなかったわね」



 背中を支えるように、ネックレスが微かに震えた。




『もう迷いはあるまい』




「ようやく、本当の“戦い”が始まる」




 妹リリーの天使の仮面は、もはやひびだらけだった。




 次に崩すのは――あの子の“居場所”そのもの。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ