表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【完結】妹にすべてを奪われたので今世は悪女になって奪還することにしました  作者: もぁらす


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

1/43

プロローグ


 空は、あまりに晴れていた。




 処刑台の上から見下ろす王都は、春の陽光に包まれている。絹のように澄んだ青空に、白い鳥が二羽、舞っていた。何の縁もない赤の他人たちが、その下でアメリア・ローズウッドの死を待っている。


 民衆に身を潜めていた リリー・ローズウッドは、静かに口角を上げていた。


 白いグローブの中で、彼女の指先が震えていた。歓喜に。支配に。勝利に。



「“真実”なんて、語られる者が決めるものよ」



 遠くで鳴る鐘の音は、処刑の時刻を告げるものだった。




 「——国家転覆、および王家への反逆の罪により、アメリア・ローズウッドの処刑を執行する」




 死刑宣告を読み上げるルシアン国王の声が遠くに聞こえる。




 アメリアの視界は霞んでいた。人々の顔がぼんやりとした輪郭になって、誰が誰だか区別もつかない。ただ、その中で声はひときわよく通る。




「……かわいそうに。昔はあんなに優しかった令嬢だったのに」


「妹に嫉妬して、心を病んだんだろう」


「まあ、血が繋がっていなかったんだし……ねえ」


「それにしたって母親まで毒殺するなんて」


「王室にはいれないからと、国家をおとしいれようとするなんて馬鹿げたことを」


「逆恨みも甚だしい」


「あんな悪女が王妃にならなくて良かった」




 罪人は、語られる時に人格を剥奪される。わたしがどれだけ懸命に生きたかなんて、もう誰の記憶にも残らない。

——アメリア・ローズウッド。


 侯爵家の養女。父は逝去。義母が育ての母だ。


 子宝に恵まれないと引き取られて数年してから、リリーが産まれた。

 だから義妹リリーとも両親とも血縁がない。




 

 私は養女であるため、愛される努力をした。

 


 貴族のマナーを学び、文学、歴史、言語、乗馬、舞踏。どんな場でも恥をかかないように、日々自分を磨いた。


 それでも、母だけは違った。




 最後までわたしを娘と呼び、庇ってくれた。




 「おまえは、わたしの宝だよ」




 優しく微笑んで、ネックレスを手渡してくれた。


 「これは、あなたが本当に道に迷ったときに、力になってくれるはずだから」



 そんな優しい母は、死んでもういない。


 ある日、王城の政務室に“証拠”が持ち込まれた。

 金色の飾り縁がついた木箱。宰相(さいしょう)の手によって王の前に差し出される。


 「……これが、アメリア・ローズウッドによる反乱計画の証です」


 王は眉ひとつ動かさずにそれを受け取り、封を解いた。

 中にあったのは、一通の手紙と、その複写が三枚。──文面にはこうあった。


《同志たちへ。

王政の欺瞞ぎまんはもはや限界にある。

我らが新たな秩序を築く時が来た。

“ローズウッド”の名の下に、民の真なる自由を……》


 署名は、アメリアの筆跡だった。


 ──偽造された筆跡。だが、それを疑う者はいない。


 「先の南部貴族の暴動も、裏にローズウッド家の名があったと」


 「教会より通報もございました。“神罰を恐れぬ女”として告発を受けております」


 「すでに民衆の耳にも入り、王都では“悪女アメリア”の名が広がっております」



 わたしは濡れ衣を着せられ、地下牢に落とされた。


 証人は皆、金と偽証で塗り固められていた。


 王宮からも弁明の機会は与えられず、全てが“仕組まれていた”と気づいたときには、もう何もかも手遅れだった。


 識別出来ないほどの多くの見物人の中に、私の姿を見て微笑む顔のリリーだけが何故かはっきりと見えた。


 




 処刑台の階段を上がる足取りは、意外にも軽かった。


 もはや恐怖よりも、虚無がわたしを支配していた。



「神よ」



 見上げた空に、返事はなかった。




 処刑人が、静かに刃を上げ振り落とす。





 その瞬間だった。




 




 ——キィン……




 




 空気が、振動した。


 いや、空気じゃない。時間そのものが、音を立てた。



 胸元で、母からもらったネックレスが、淡い蒼白色の光を放ち始める。



 まばゆい。けれど、なぜか目を逸らせなかった。


 《聞こえますか、アメリア・ローズウッド》


 《そなたは、選ばれた者——時の境界に立つ魂》




 誰?




 頭の奥で、鈴の音のような女声が響いた。




 《そなたに、一度だけ、運命を巻き戻す力を授けよう》


 《これは祈りと契約に基づく奇跡——意志ある者にのみ許される、選択の権利》




 




 「まって……あなた、誰なの……?」




 返答はなかった。




 




 《問いましょう。そなたは——このまま死を選ぶか、それとも……》




 《一度だけ、“あの日”に戻り、違う選択をするか?》




 選ぶ。選び直せる。


 でも、それは一度きり。もう戻れないかもしれない。





 震える声で、わたしは言った。





 「……やり直したい」




 「わたしは……この運命を、生き直したい!」




 




 すると、優しく、深く、すべてを包むような声が降ってきた。




 




 《その意志、確かに受け取った》


 《精霊リュミエールの名のもとに、契約を執行する》




 

 ——時間が、逆流した。




 




 視界が闇に包まれ、わたしは意識を手放す。



 




     *



 




 目を覚ましたのは、柔らかな羽毛枕の上だった。


 カーテンから差し込む日差し。ほのかに香るラベンダーの香り。


 懐かしさが胸を刺す。





 「……嘘……でしょ……?」




 鏡を見た。


 そこには、2年前の自分がいた。


 まだ幼さの残る少女の顔。あの処刑時の悲壮な面影など、どこにもない。




 手元には、あのネックレス。まるで何もなかったように、胸元で輝いている。



 頭の中には、全ての記憶が残っている。


 母が死んだ日も、リリーが嘘の涙で塗りたくった瞬間も、ルシアンの苦しそうな表情も。



 地下牢で、リリーが言った真実も。





「お母様は私が殺したのよ」


 お母様は病魔におかされたと思っていた。それが、リリーがやった?


「お姉さま、知ってる?月白草って。冥土の土産に教えてあげるわ。お母様の枕元に添えておいた夢香の袋があったでしょう?私が送ったもの」


「リリー、何をいっているの?」


「だってお母様はお姉さま贔屓で使えないんですもの」



 私はあの時悔いた。何故、気づけなかったのだと。


 私はもう、同じ過ちは繰り返さない


 “演じてやる”わ。たとえ悪女と呼ばれようとも。無知な令嬢なんて、もういらない


 何をしてもどうせ悪女と呼ばれるのだから。





 ドアの向こうから、聞き覚えのある足音。

 


 「お姉様? 起きてますか?」




 


 リリー。




 私を陥れた女。




 わたしの笑顔が、ゆっくりと歪む。






 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ