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忘れられない、たった一つの願いごと  作者:
最終章:想いの果てに

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僅かな光明

 また聞こえた……。

 さっきも兼光さんの手を取った時、一瞬聞こえた声と同じ。



 私の名前を呼ぶその声は、もしかしてトシ兄なの……?

 私の心はザワついた。

 まるで水の中で呼ばれたような声。その微かな声は不思議と自分の中から発しているかのように頭の中に響いていた。



 兼光さんの顔をそろっと見たけど、気付いていない様子で、どうやらこの声は私だけしか聞こえていないようだった。



〈モモっ〉

 また呼ばれて、今度ははっきりと聞こえたその声に、

(琥珀さん?)と頭の中で呼びかけた。



〈モモ、そのままでいいから聞くんだ〉



(なに?)

 どうして頭の中で琥珀さんの声がするの? 気になりながらも必死に耳を澄ます。すると琥珀さんの声が言った。



〈もう一度あの鏡の前に行くんだ〉



(鏡の前?)

 唐突に言われ、何を言われたのか理解するのに時間がかかる。

 鏡台の鏡――?



〈そうだ。君が宿で使っているという部屋の鏡台。あの鏡もまた付喪神だ。どういうわけか、いつか君に真実を見せてくれた……。そいつを利用して、ヒナの過去を呼び起こし、兼光の真の姿を明らかにするんだ〉



(兼光さんの真の姿? どういうこと?)

 兼光さんはあの人形の付喪神だってことは分かってるのに。それもまた偽りだっていうの?



〈いいかい……? モモ……僕はまだそちらには行けない〉



(琥珀さんは今どこにいるの?)



〈心配いらないよ。君のポケットの中にあるものが、今は僕と君を繋いでくれる〉

 私は徐に自分のポケットに手を入れた。硬くて小さな丸い物が指先に触れる。これって――

 ビー玉?



〈それがある限り僕が君を見失うことはない。だから安心しな?〉

 琥珀さんの家で見た、窓辺に並べられたビー玉だ。いつの間に入れたんだろうと思って、琥珀さんのいた場所から私の体が弾き出された時のことを思い出す。確かあの直前、突然琥珀さんに肩を寄せられた。きっとあの時だ。やっぱり琥珀さんは、こうなることを予感していたんだ。



〈僕は僕で気になることがあるしな。しばらくは別行動だ。ただ、こうして言葉を交わせる時間は限られている。これもじきに途絶えるだろう〉



(待って、琥珀さんは本当にこの温泉街を焼きはらったんですか?)

 声が僅かに遠のいた気がして、私はこれだけはと思って訊いた。



〈……それは自分の目で見て確かめるんだ。僕が今何を言おうと誰も信じてはくれない。でもモモなら……。兼光の心を救えるのは君しかいない。僕はそう信じてる……〉

 それを最後に琥珀さんの声は途切れた――



 私はずっと、あの鏡にはばあちゃんの記憶が映っていたのだと思っていた。けどそうじゃなかったのかもしれない。見せてくれていたんだ。本当は何があったのか。



 そして私はまだほんの一部分しか見せてもらっていない。恐らく兼光さんも、ううん。誰もまだ見ない真実を、あの鏡は知っていて、琥珀さんが言ったように今なら明らかにしてくれるのかもしれない。



 僅かな望みにかけるように、ポケットに入れた手の中にある小さなビー玉を、ギュッと握りしめた。

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