うしろのしょうめん
『かーごめーかーごーめー
かーごのなーかのとーりーいはー』
琥珀色に染まる空の下。子供たちの賑わう声が今日も神社の境内に響き渡っていた。
学校が終わって、まっすぐ家に帰らず寄り道するのはいつものこと。
赤い鳥居のそばにそびえ立つ大きな太い木の下に、学校の鞄を敷き詰めるように並べて、私はその日もいつものようにみんなと遊んでいた。
途中から仲間に入れてと言って輪に加わる子もいた。クラスが同じだったり、学年が違ったり、たまに中学生の兄弟も混ざっていることだってある。それはよくみる光景だった。
だから私は気付いていなかった――
今日もいたその子が、まさかみんなにとっていないも同然だったことに。
確かこの日も、十人くらいで集まって遊んでいた。
『いーつ、いーつ、でーやあるー、よーあーけーのーばーんにー』
鬼になった私はしゃがんで目を瞑り、更に俯いて両手で顔を覆う。
みんなが鬼の私を囲いながら歌ってまわりだす。
目の前は真っ暗で、私はひたすら耳を澄ませるだけ。
砂を擦る沢山の足音が少し怖いと感じながら、耳の横や頭の後ろを何度も通り過ぎていく。
私はその場をじっと動かないで見守る。
『うしろのしょーめん、だ―あれ―!』
歌が終わりを迎えるころ、みんなの足音があわただしくなった。そしてついに歌が終えると、みんなの足はいっせいに止まる。
クスクスと囁くような笑い声と共に、みんながその場にしゃがみ込んだのが分かる。
みんな必死に声を出さないようにこらえていた。一声でも発してしまったら、声の方向で自分がどこにいるか鬼に気付かれてしまうから。
私は目を瞑ったまま、誰が後ろにいるのか想像した。
でもこの背中の真ん中がゾワゾワする感じ。私には分かる。
『わかった! ユキちゃん!』
私はパッと顔から手を離して立ち上がると、思い切り自分の後ろを振り返った。
『やっぱりユキちゃんだった!』
言い当てた私は嬉しくなる。当てられたユキちゃんも嬉しそうに笑っている。
――でも、まわりを見て私は笑顔のまま固まってしまった。
みんな、え? と戸惑った顔をしながら表情を硬くして、私の顔を見つめていた。その場の空気が凍りついたように固まった。
『ユキちゃんて……』
側にいた子が言いかけて、『誰?』とその後ろにいた子が私に訊いた。
今度は私が、え? と困惑した顔になる。
みんなして私をからかってるの?
私はどんどん表情を無くしていく。それはみんなも同じだった。
『いつもいるでしょ? 一緒に遊んでるでしょ?』
知ってる? どこの子? みんなが顔を見合わせながら首を傾げているのを見て、私はだんだん不安になっていく。
『何言ってるの? ユキちゃんて子知らないし、今みんなでふざけて鬼の後ろには誰も座らなかったんだよ?』
何でそんなことしたの? と訊きたかったけど、そんなことも遊びのうち。自分もやった覚えがあるのを思い出して口を噤んだ。
さっきまで笑っていたユキちゃんを見ると、困惑が入り混じったような悲しい表情を浮かべていた。
他のみんなは、何か恐ろしいものでも見るような顔で私を見ていた。
一人、また一人と私から一歩後ずさりして離れていく。
次の瞬間、ユキちゃんは私にぎこちない笑顔を向けたまま、夕焼けに溶け込むようにして、目の前からフッと姿を消した。
その時初めて私は知った。
自分の目には、みんなに視えないものが映っているんだ。
それはみんなにとって怖いことであって、面白いことでも、楽しいことにもならないんだって。
この日から私はみんなから距離を置かれるようになった。
ユキちゃんもあれ以来、私の前に現れていない――




