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忘れられない、たった一つの願いごと  作者: 小豆
第一章:視える者と視えない者との隔たり

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うしろのしょうめん

『かーごめーかーごーめー

 かーごのなーかのとーりーいはー』



 琥珀色(こはくいろ)に染まる空の下。子供たちの賑わう声が今日も神社の境内に響き渡っていた。



 学校が終わって、まっすぐ家に帰らず寄り道するのはいつものこと。



 赤い鳥居のそばにそびえ立つ大きな太い木の下に、学校の鞄を敷き詰めるように並べて、私はその日もいつものようにみんなと遊んでいた。



 途中から仲間に入れてと言って輪に加わる子もいた。クラスが同じだったり、学年が違ったり、たまに中学生の兄弟も混ざっていることだってある。それはよくみる光景だった。



 だから私は気付いていなかった――



 今日もいたその子が、まさかみんなにとっていないも同然だったことに。



 確かこの日も、十人くらいで集まって遊んでいた。



『いーつ、いーつ、でーやあるー、よーあーけーのーばーんにー』



 鬼になった私はしゃがんで目を瞑り、更に俯いて両手で顔を覆う。



 みんなが鬼の私を囲いながら歌ってまわりだす。



 目の前は真っ暗で、私はひたすら耳を澄ませるだけ。



 砂を擦る沢山の足音が少し怖いと感じながら、耳の横や頭の後ろを何度も通り過ぎていく。

 私はその場をじっと動かないで見守る。



『うしろのしょーめん、だ―あれ―!』


 

 歌が終わりを迎えるころ、みんなの足音があわただしくなった。そしてついに歌が終えると、みんなの足はいっせいに止まる。



 クスクスと囁くような笑い声と共に、みんながその場にしゃがみ込んだのが分かる。



 みんな必死に声を出さないようにこらえていた。一声でも発してしまったら、声の方向で自分がどこにいるか鬼に気付かれてしまうから。



 私は目を瞑ったまま、誰が後ろにいるのか想像した。



 でもこの背中の真ん中がゾワゾワする感じ。私には分かる。



『わかった! ユキちゃん!』



 私はパッと顔から手を離して立ち上がると、思い切り自分の後ろを振り返った。



『やっぱりユキちゃんだった!』



 言い当てた私は嬉しくなる。当てられたユキちゃんも嬉しそうに笑っている。



 ――でも、まわりを見て私は笑顔のまま固まってしまった。



 みんな、え? と戸惑った顔をしながら表情を硬くして、私の顔を見つめていた。その場の空気が凍りついたように固まった。



『ユキちゃんて……』



 側にいた子が言いかけて、『誰?』とその後ろにいた子が私に訊いた。



 今度は私が、え? と困惑した顔になる。



 みんなして私をからかってるの? 



 私はどんどん表情を無くしていく。それはみんなも同じだった。



『いつもいるでしょ? 一緒に遊んでるでしょ?』

 


 知ってる? どこの子? みんなが顔を見合わせながら首を傾げているのを見て、私はだんだん不安になっていく。



『何言ってるの? ユキちゃんて子知らないし、今みんなでふざけて鬼の後ろには誰も座らなかったんだよ?』

 何でそんなことしたの? と訊きたかったけど、そんなことも遊びのうち。自分もやった覚えがあるのを思い出して口を噤んだ。



 さっきまで笑っていたユキちゃんを見ると、困惑が入り混じったような悲しい表情を浮かべていた。



 他のみんなは、何か恐ろしいものでも見るような顔で私を見ていた。



 一人、また一人と私から一歩後ずさりして離れていく。



 次の瞬間、ユキちゃんは私にぎこちない笑顔を向けたまま、夕焼けに溶け込むようにして、目の前からフッと姿を消した。



 その時初めて私は知った。



 自分の目には、みんなに視えないものが映っているんだ。



 それはみんなにとって怖いことであって、面白いことでも、楽しいことにもならないんだって。



 この日から私はみんなから距離を置かれるようになった。



 ユキちゃんもあれ以来、私の前に現れていない――

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