2 the異世界
「ん、起きたな」
目を開けると黒髪の若い男性が俺を覗き込んでいた。
「は〜よかった〜とりあえず山場は超えましたね」
隣には同じく金髪の若い女性が座っていた。
「リリィの治癒魔法だったら心配する必要はないよ」
あともう1人どこからか男性の声が聞こえる。
ここは何処であなた達はだれかを聞こうと体を起こそうとしたが、力を入れた瞬間身体中に激痛が走った。
「いっっ」
「あっだめですよ。安静にしててください。治癒したばかりなので筋組織が馴染んでないですから」
「ははは、元気なのはいいことじゃないか」
「そうですけど…自分がだけがわかりますか?」
彼女はとても心配そうに俺に声をかけた。
「…あなた達は?」
「私たちは冒険者です。わたしがリリシア・ユグシスで、こっちの無口なのが…」
「ユーリ・オリフィアだ」
「で、あっちで手綱を引いてるのがルーカス・ノーヴァ」
「どうも〜」
気さくそうな男性が視界の隅に見える。
リリシアの話によるとあの化け物はウルフヘッドというらしい。
俺が殺されかけていたところを彼女らが助けてくれたらしい。
「……しかしなぜあの森にいた。あそこは2週間前に禁域に指定されたはずだぞ」
ユーリが訝しみながら尋ねてくる。
「気づいたらあそこに…」
「気づいたら…ほう。その前のことは覚えていないのか?」
「はい…」
まあ覚えてはいるがよくわかんない魔法陣って言えばいいのか?あれによってあの森に放り込まれました〜なんて言っても信じてもらえないだろうし、この方が都合がいいだろう。
「何処まで覚えている。自分の名前は、何処から来た」
「自分の名前は覚えています。新山朔です。それ以外はなにも」
「アラヤマサク…聞いたことない名前だな。服装からしてどっかの貴族だと思ったが…」
スラックスにカッターシャツ。
元の世界では結構一般的な服だったがこっちではそうじゃないのか?
元の世界の技術力で結構作りもいいしそのせいだろうか。
「名前以外覚えていないということでいいんだな、記憶喪失といったところか…」
ユーリはぶつぶつと呟きながら何かを考えている。
「じゃあ光源樹についてもわからないか?光の神は?」
光源樹はあのでっかい木のことを言ってるのか?
神?
「なんですかそれ」
「町までまだ時間はあるか…」
ユーリはそういうと、この地に伝わる神話について語り出した。
この地は光の神ヒュペリアスと影の神ヒュークスという神が作り出したらしい。
二つの神は互いに調和し平和な世界を作り上げた。
だがヒュークスがヒュペリアスを裏切りこの地を影に染めた。
裏切ったヒュークスを封印するために作り出したのがあのでっかい輝く木「光源樹」らしい。
そうして光源樹に照らされた地を光の大地。
照らされていない地を影の大地と呼ばれるようになったらしい。
光の大地に住む人々と影の大地に住む人々は敵対し、幾度と戦争を繰り広げていきその戦争は約100年前に光側の勝利で集結。
そうして今に至るという感じだ。
さっきの森は影の大地に侵食され禁域となったらしい。
ウルフヘッドは影の大地に住む人々の一種だそうだ。
「町が見えてきたよ」
少しずつ動けるようになった。
体を起こして町を見る。
小さめの光源樹を囲むように壁が建っていた。
光源樹って複数あるのか?
「光源樹って何本もあるのか?」
ユーリに尋ねてみる。
「いや、光源樹は一本だ。あれは光源樹から採取された種を育ててできた小光源樹だ。種は光源樹の地下に広がるダンジョンから採取できる」
光源樹光源樹とずっと聞いていると頭がこんがらがってくる。
しかしこの世界にもダンジョンってあるんだな。
リリシア達と喋っていると気づけば町に着いていた。
「身分証を出してください」
するとリリシアたちがカードのようなものを門番に渡した。
え⁈俺そんなの持ってないよ⁈
「彼は?ないのなら銀貨1枚です」
「あぁ…財布財布、どうぞ」
ルーカスが門番に銀貨を渡す。
「いっていいぞ」
そうして町の門をくぐった。
「申し訳ない」
「いやいいよこれくらい。こんくらいだったらすぐ稼げる。降りていいよ、俺はこの馬車返してくる」
俺らは馬車を降りた。
「アラヤマ、これ着ろ」
ユーリがそういって着ていたコートを俺に渡してきた。
服ボロボロになったしな。
「とりあえずギルドに向かいますか」
町はよくある中世ヨーロッパの感じだ。
屋台が並んでいて果物だったり雑貨だったり色々売っている。
活気に満ちたいい町だ。
しばらく歩いていると一際大きな建物についた。
これがギルドだろう。
「では私たちは依頼の清算をしてくるのでアラヤマさんはあっちのカウンターで登録してきてください」
リリシアに言われた通りカウンターに向かう。
「新規登録ですか?ではこちらの書類を記入してください」
受付嬢っていうやつか?
女性に一枚の紙を渡された。
リリシアといいユーリのいいこの世界は顔が整った人が多いな。
そう考えながらペンを持って書類を記入していく。
書類には名前などを書く欄のほかにギルドの決まりについて書かれていた。
ギルド証の偽造は冒険者資格の永久剥奪、最悪の場合死刑になるだったり人を殺めるのは基本禁止だったり。
名前は新山朔、性別は男性、年齢は16と…あれ、俺こんな言語知らないぞ?
なんで書けるんだ?
字の形はよくわからないのに意味は頭に入ってくる。
なんかすっごい気持ち悪い。
受付嬢は紙を確認してから針を渡してきた。
「ではこの器に血を垂らしてください」
えぇ…これ痛いやつやん。
そう思いながら覚悟を決めて指先に針を突き立てる。
いっ…たくない。
すげーこの針、なにこれ。
受付嬢は血が入った器をよくわかんない箱に入れた。
しばらくして一枚の紙と一枚のカードが出てくる。
「アラヤマ様は魔法の適正が高いですね…しかし影魔法ですか」
光と影敵対してるとかいってたしまずいのか?
「どうかしましたか?」
心配になって尋ねてみる。
「いえ、珍しいと思いまして。影魔法を使える人は少なくはないですがここまで適性が高いのは…ではこれがギルド証になります。これで登録は終わりです。最後に質問などはありますか?」
「特にないです」
俺はそういって近くの椅子に腰掛けリリシア達を待つことにした。
数分後リリシアが歩いてきた
「終わりましたか?では行きますか」
ギルドを出ると日が沈みかけていた。
といってもこの世界の日は光源樹だがな。
どういう仕組みかわからんがとりあえずもうすぐ夜ということだ。
「宿に向かいますがサクさんは私たちの泊まっている宿でいいですね」
「はいお願いします」
―――
宿に入るとルーカスが受付近くの椅子に座っていた。
「お疲れ〜報酬どれくらいだった?」
ルーカスがそう言うとユーリがルーカスに紙を渡して言った。
「報酬は金貨十枚だ。今回の依頼は国からの依頼だしそんなものだろ」
ルーカスはにやけながら紙を読んでいる。
国からの依頼ってルーカス達実はすごいのか?
「そう言えばアラヤマ、適正どうだった?」
ルーカスが尋ねてきた。
「影魔法が1番高くて次に剣術だった」
「影が一番高かったのですかこれまた珍しいですね」
リリシアも珍しいっていってるけどそんな珍しいのか?
「アラヤマ、腹減ってるだろ」
「何も食ってないんで流石に何か食べたいです」
異世界の飯どんなのだろ。
「そうか!おばさん!いつもの4つ頼む!ここの飯めっちゃうまいんだよ」
テンションが上がり気味のルーカスがそういうと受付の奥から女の人が顔を出した。
「あいよ」
そういうと彼女はまた受付の奥に戻って行った。
初の異世界飯。
一体どんな料理だろう。
そう考えていると町中華かよって速さで料理が出てきた。
パン、シチュー、チーズ
シンプルだけど普通にうまい。
パンは外は結構硬いが中はしっとりもちもち。
シチューは野菜の甘味が効いてるし肉がごろごろ入っていてその肉も柔らかくてすごい美味しい。
チーズは癖がなくて食べやすい。
気がつけば皿は空っぽになっていた。
「はぁ〜食った食った。で、アラヤマの服とかどうするんだ?」
来ていた服は襲われた時に穴だらけになったからな。
「明日買いに行きましょうそれまでは...」
「俺の服を貸す。それでいいなアラヤマ」
なんか勝手に話進んでるんですけど〜
「は、はい。お願いします」
「じゃ俺先に部屋戻るわ〜」
そう言って立ち去ろうとするルーカスをリリシアが止まる。
「ルーカス?アラヤマの部屋はどうなりましたか?」
「あっ完全に忘れてた」
そう言うとルーカスがポケットから出した鍵を投げ渡して来た。
「うおっ」
「それそこの階段登って右の突き当たりの部屋の鍵な。とりあえず1ヶ月間分払っといたから。しばらくはこの街にいるだろ?」
「ええ…何から何までありがとな」
「いいっていいって気にすんな」
「じゃ私たちも部屋に戻りますか」
他の2人もそれぞれの部屋に戻るようだ。
無性に風呂に入りたくなってきた。
ああ〜日本が恋しいな〜
俺の異世界の知識だとこういう系の宿はお湯を染み込ませたタオルとかで体を拭くとかだろう。
なんかやだな。
「アラヤマ、服渡すからついて来い」
「は、はい」
ユーリの部屋は俺の部屋の隣のようだ。
「ん?何立ったてる。入っていいぞ」
ユーリ多分優しい人なんだろうけどなんか怖いんだよな〜
「これ明日の分の服だ。着た後は宿の裏の井戸の水を使って洗って返せ。洗い方は分かるな?」
「ああ」
「よし。この辺りの地域は暖かいとはいえ夜は冷えるから体は温めろ」
「あ、ああ…その〜、このコートは…」
「ん?…あー…返せ。おやすみ」
「あ…はい。おやすみ」
着ているコートをユーリに渡すとすぐに扉を閉められた。
なんかマシンガントークとまではいかないが一方的に話すタイプの人だったな。
無口って本当か?
そう思いながら部屋のドアを開ける。
部屋は至って普通って感じの部屋だった。
それ以上は説明はいらないだろう。
とりあえずベッドに腰掛ける。
「…はぁぁぁ」
今まで溜まってた疲れが一気に来た。
そりゃそうだよな。
異世界に急に来て殺されかけて…
トントン
ドアをノックする音が聞こえたからドアを開けてみる。
ん、誰もいない
一瞬そう思ったが少し下に目線を向けてみると金髪ショートのかわいらしい女の子が立っていた。
「これ…お湯とタオルです。明日の朝回収しに来ます。ではごゆっくり」
そう言って彼女は立ち去って行った。
女将さんの娘だろうか。
受け取ったタオルで体を拭く。
思ったよりスッキリするものだな。
ユーリの服もいい感じのサイズだ。
流石に疲れがカンストしようとしているので、布団に潜り込んだ。
疲れのせいだろうか、寝転がった途端力がすっと抜けた。




