進んだ先に
「僕は近藤さんに、志を貫き死んでいった父の姿を照らし合わせていた」
と総司はもう床から起き上がることもできない体でもって、咳き込みながら呟いた。だから、尚更死なせたくはなかったのだ、とも。
総司の枕元に座し、まるで懺悔の様なその言葉を聞いていた成則は、水で冷やした手拭で総司の額に浮かんだ汗を拭き取ってやった。いつも言葉を掛けてくれるみつとは違うが、これがこの男なりの優しさだと知っている総司は、友の優しさに感謝しながら言葉を続ける。
「僕はね、シゲ君。例え、掟を破ってこの身がどうなろうとも、近藤さんたちがいつものように笑っていてくれたらそれでよかったんだ。だけど、どうやっても歴史は変わらなかった」
成則はそこで手を止め、総司を見据えた。
「山南さんが死んで、平助が去って、そして結局は近藤さんも助けることができないんだ。いや、助けることができなかったといった方が良いのかもしれない……」
そこまで言って、総司は再びごほりっと咳き込んだ。布団の上に血が飛び、沈黙が部屋を支配する。
結局自分は何一つ守れなかった。こんなことなら、あの日遥華の手を取らなければよかった。
総司はそう思ったが、あの手を取らなければ、今までの思い出も手に入らなかっただろうと思うとそれはただの弱音でしかない。だから結局、総司は遥華に感謝している。床に伏し、もう剣を取れないとわかった時、総司は茂則にそう言っていた。
「総司……」
いいからもう喋るなとでも言いたげに、名で制して、成則は布団に飛んだ血を拭き取った。だがその行為は、血の跡を大きくするだけで、総司の犯した罪を告知するようにはっきりと存在を残している。
「シゲ君、頼みがある」
自分の余命を察したのか、総司は弱弱しい声で言った。事実、時の旅人である総司は自分の余命を知っているのかもしれない。
「何だ」
「これを、近藤先生に」
そう言って、総司が血に濡れた手で差し出したのは、一通の手紙だった。成則は黙ってそれを受け取っり、確認する。表には、下手くそな字で、近藤勇様、と総司が慕い守りたいと思った男の名が書いてあった。