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守りたかったモノと守れなかったモノ【4】

「平助!」

 総司が息を弾ませて事の現場に辿り着いたのは、すべてが終わってしまった後だった。平助が血溜まりの中に倒れている。顔には大きな切り傷があってなんとも痛々しかった。総司は迷わず平助に駆け寄った。だが、平助はもう既に息をしていない。

「もう試衛館時代(あのころ)には戻れないのかな……」

 平助の亡骸を膝に抱き総司は涙した。頬を伝って落ちた涙が、衣に付着した、乾ききっていない血を滲ませている。他の隊士が服部らの遺体を片付けて引き上げて行った中、永倉と原田はただ総司が泣き止むのを待つことしかできなかった。

 


 この後、王政復古の大号令により将軍は権威を失い、旧幕府側に付く新撰組は戦いの中に身をおいた。戌辰戦争を経て、次第に窮地に追いやられていく新撰組。永倉は総司の言葉に思うところがあったのか、皆変わってしまった、と原田と共に新撰組を離脱する。また、戦いの中、新撰組の名を伏せ、名を甲陽鎮撫隊と改めた一行に同行していた総司は、予期せぬ早期の敗走により江戸に戻ることになる。そして、度重なる戦いの中で病状が悪化していた総司は、今度こそ療養を言い渡される。

「僕は……っ…ま、だ、戦えます……」

 咳き込みながら言葉を続ける総司に、近藤は首を横に振った。

「もういいんだ、総司。お前は病を治すことだけを考えろ」

 もうこの病は治すことができない段階まできていることを感づいている。それでも尚、そんなことを言うのかと総司は近藤の優しさを恨めしく思う。

 しかしやはりこればかりは譲れない、と総司は近藤を見詰めた。

 近藤は顔を背けただけ、その命令を撤回しようとはしない。

「お前はもう肩の荷を降ろしていいんだ」

 それが総司に向けられた最後の言葉だった。

 近藤は総司を残し再び戦いに身を投じたが、この一ヵ月後、近藤は新政府軍に投降をすることとなる。




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