禁忌【2】
それから数日たった非番の日に、二人はは連れ立って、町医者の元を訪れた。しかし、結果は芳しくない。
「わからない? わからないってどういうことですか!」
総司と進は、聞かされた診断結果に思わず顔を見合わせた。そして、進は眉間に皺を寄せて目の前に座る医者を睨み付けた。その迫力に冷や汗を流しながら医者が説明を続ける。
「症状は肺結核のそれなのだが、初めて血を吐いたにしては、吐血の量が多過ぎる。私もこんな事例は初めてで、今の医学ではどうとも判断しかねるのだよ」
医者はお手上げだと肩を竦めて見せる。だがそれで引き下がる訳にはいかない進は、身を乗り出して医者に問い掛けた。
「そこをなんとかするのが医者の仕事じゃないのか!」
「そう言ってくれるな。医者として私だってもどかしいんだ。一応、咳止めを処方しておくが、私にできるのはこれまでだ……」
そう言って薬を包んだ紙袋を差し出し、医者は顔を背けてしまう。尚も納得いかない様子で進が口を開きかけたが、総司はそれを止めた。
「もういいよ、シゲ君、行こう」
総司はゆっくりと首を横に振り、医者に頭を下げるとその場を後にした。進は医者から薬を受け取ると慌ててその後を追う。
二人は、裏通りを抜け大通りに向けて歩いた。互いに暫しの間無言だったが、足を止め先に口を開いたのは進だった。
「総司、江戸時代の医学で駄目なら、未来に行けばいい。それならきっと治せるはずだ」
「シゲ君、駄目だよ。それはできない」
「どうして……」
「シゲ君、これは僕が掟を破った報いなんだ。だからどれだけ未来に行ったところで治せる保証もない。それになりより、今僕がこの時代を離れる訳にはいかないんだ」
だからもうこれ以上そんなことは言わないでと総司は進に背を向けたのだった。