8話「頼もしい仲間! ついに四人パーティー結成!」
仲間だったセンプを失ったヤリオとセレティーンは悲壮感に浸る間もなく、魔王を倒すべき過酷な旅を続けていた。
今は山を越えて草原真っ只中の獣道を歩いている。
「私たち二人だけでは心許ないわね……」
「ウムーッ! 確かに……」
恐らく他の勇者は四人以上のパーティーで旅をしているに違いない。
基本的に近接と遠距離、そして攻撃と防御と回復がバランスよく役割をこなせる仲間がいれば安全で、強敵と戦うのに心強い。
「おお! また会ったなーっ!」
なんと他の獣道がこちらへ合流する際に、他の勇者が来ていたのだ。
こちらと同じく二人だけってのも奇妙な縁だ。
「おまえは聖剣アブゾリュートの使い手であるヤリオだなーっ!」
「お……おまえも……あの時にいた!?」
ロングソードの聖剣を背負う長身の男。そして隣は太ったオッサンで聖斧を背負っている。
こいつらもリュハーゾマ王国で勇者集合の時にいた人だ。
「ログログログーッ! 俺は聖剣ナガーケンの使い手である転生者のチョーホーだーっ!」
「オノオノーッ! こちらワイは聖斧マプタツンの使いでである転移者の小野太助だーっ!」
こちらもヤリオとセレティーンと自己紹介を済ませ、ガッチリ握手して仲間になった。
これで四人パーティーになった。
すると、向こう側の森から大群の牛人間がハルバードを振りかぶりながら突進してきた。煙を立てて地を揺らす。
「あ、あれはーっ! ミノタウロスではないかーっ!」
「ああ……。モンスターの中でもかなり強い部類に入る。熟練の冒険者でもなければ到底勝ち目はないーっ」
「しかも大勢で襲ってきたのよーっ!」
ヤリオは聖剣を引き抜くが、チョーホーと太助はニヤリと笑む。
「ログログーッ! こんなものなんでもねぇーっ!」
「オノーッ! 全員倒してくれるわーっ!」
なんとチョーホーは自信満々と聖剣を抜くと、長すぎるくらいのロングソードの刃が光る。
これもヤリオ同様、特殊能力を秘めた聖剣だろう。
「見るがいいーっ! この聖剣ナガーケンの威力をーっ!」
横へ振りかぶって、横一直線に振るうと刀身が包丁以上に幅広くなって、重量感を増した。
それはミノタウロスの数十体を「ウギャーッ!」と上下両断させた。
しかも彼らのハルバードまで真っ二つにしているのだから、凄まじい切断能力である。
「な……なんという……攻撃力だ……!」
「ヤリオ! それだけじゃないぜーっ! 刀身を肥大化する際に、持ち手に取ってはいつもの通りの重さなんだぜーっ!」
つまり、敵にとっては重々しい攻撃力で切り裂かれるだけという能力。
「待って! まだ生き残ってるわーっ!」
まだミノタウロスが大勢突進してきている。
それに対して太助は不敵な笑みで「ワイの番だなーっ!」と前に出る。
太った体格なのにも関わらず、素早く駆け出して聖斧を振り下ろす。ミノタウロスは咄嗟にハルバードで防ごうとかざす。
「バカめーっ! 喰らうがいいわーっ! 聖斧マプタツンをなーっ!!」
ミノタウロスのハルバードへ激突すると、途端に爆発が巻き起こって下まで振り下ろしきってしまう。
さしものミノタウロスは「グギャアーッ!!」と左右真っ二つに裂かれて、血飛沫を上げて沈んでしまう。
思わずヤリオとセレティーンは「ああ……!」と呆気に取られる。
「この聖斧マプタツンは、インパクトの際に爆発を発生させて威力を増すのだーっ! これにより両断できぬものなしーっ!」
二人の転移転生者は恐るべき聖剣の持ち主で、攻撃力が恐ろしく高い。
ヤリオは震えていたが、頼もしいという喜びである。
こうしてヤリオたち四人パーティーの敵ではなく、ミノタウロス軍団は「ギャアーッ!!」と全滅させられてしまった……。
「フッフッフ! その程度かーっ!」
振り向くと、もう一人の青年が不敵な笑みで歩いてきていた。
彼もまた聖剣を引き抜いた。
「俺は転生者のゼロス! このなんでも斬れない聖剣パーフェクトの使い手よーっ!」
刃こぼれ一つない煌びやかな刀身を掲げて、ゼロスは挑発的に笑んでいる。
ヤリオは衝撃を受けた。
こちらが“なんでも斬れる”聖剣なら、向こうは“なんでも斬れない”聖剣と、相対する能力同士があいまみえたのだ。
「なにが“絶対斬れない”剣だとーっ!?」
「それがハッタリだという事を思い知らせてやるぜーっ!」
挑発に乗ってカッカしたチョーホーと太助は駆け出した。
チョーホーは聖剣ナガーケンを、太助は聖斧マプタツンを振りかぶって襲いかかる。
それでもゼロスの笑みは揺るがず、聖剣で構えて対抗する。
「無駄無駄ーっ! この“なんでも斬れない”聖剣は、どんな攻撃力も通さないーっ!」
ゼロスは自慢するかのように聖剣を横に構えた。
刀身が幅広くなった聖剣ナガーケンが真っ二つにせんとゼロスへ振り下ろされる。
「ほざけーっ!! その聖剣ごと真っ二つにしてくれるわーっ! 死ねーっ!」
凄まじい衝撃音と共に交差する刀身。しかしゼロスの聖剣を前にピタリと静止してしまう。
あの長くて重い刀身すら完全に静止された。
「オノオオオオオーッ!! ならば聖斧を重ねればどうかなーっ!?」
なんと太助は、聖剣ナガーケンの上に振り下ろして爆発を巻き起こしながら押し切ろうとする。
二人分の聖剣による攻撃力は想像できぬ程の威力。
なのに、ゼロスのかざしている聖剣は全くの無傷で二つの聖剣を食い止めていた。
「ば、バカなーっ!?」
「このダブル聖剣をもってしても、刃こぼれすらしないとはーっ!?」
「“なんでも斬れない”聖剣だからこそ、無敵なのだーっ!」
ゼロスはニヤリと不敵に笑んだ。