6話「闇の支配者! 吸血鬼の脅威!」
ヤリオとセレティーンは、村を後にして二日間森を通っていった。
エルフであるセレティーンはサバイバル能力に長けているので、何も知らないヤリオはそれを学んで野宿の方法を身につけていった。
川で釣りをして魚を捕ったり、木の枝と木の葉で簡易なテントを作ったり、木の棒で火を起こしたり、食べれる草木やキノコの種類を知ったり、色々学べる事にヤリオは「ホーッ! 初めて知ったーっ!」と感心した。
セレティーンはフフッと笑う。
それから更に三日たった後に、森を抜けると草原が広がっていた。
「フフフッ! また会ったようだなーっ!」
なんと大男が斧を背負っている。
どこかで見た事あるような、と悩む。
「リュハーゾマ以来だな。あの時の激戦に心を打たれたんだぜ」
「ああ……。あの時の!」
「ウム! こうして会ったのもなんかの縁。一緒に魔王を倒しに行こうではないかーっ」
快い笑顔で大男は握手を求める。
ヤリオは素直なので「ああ。よろしく」と握手した。
「俺はセンプ・フリマワー。得物は斧の形をした聖剣……つまり、聖斧ドーラの使いでである転移者だ」
「転移者か……。多くのメリットがあったな」
「そういう事だ。転移前の経済社会で培った技術と腕力で、こうして旅が続けられている。頼りにしていいぜ」
転移者は、異世界へ来て即戦力になる上に技術も即座に使えるのが利点だ。
「しかし近眼は……?」
「安心していいぜ。コンタクトを目に常時装備しているからなーっ」
「なら心配はないようね」
メガネと違って、コンタクトはずっと目につけていられるので、無くしたり壊したりする心配はない。
そう完全無欠の転移者なのだ。
ヤリオは新たな仲間を得て、枯れ木で覆われた山へ登山していく。
「し……しかし……不気味な山だぜ……」
「見ろ! あそこに城が!!」
恐れるヤリオだが、センプは山のてっぺんにある黒い城を指さした。
どことなく不気味な雰囲気がするが、日が暮れ始めているので泊まらざるを得ない。
「早く行きましょう!」
セレティーンに促されて、さっさと城の中へ入っていった。
その頃はもう夜になっていた。
中は真っ暗だったが、ろうそくの火が付いて橙色に明るくなっていった。
「ひ……ひとりでに……火が!?」
「魔力ね」
どうや城の主が魔力で明かりをつけたようである。
するとザワザワと骸骨剣士が群がってきた。動揺するヤリオたち。
「な、なんだーっ!? 骸骨剣士がなぜここにーっ!?」
コツコツと、向こうの螺旋階段から下りてくる音が聞こえて振り向く。
すると黒いスーツを着た美形な男が妖しい笑みと共に現れたのだ。一層不気味に染まる。
「フフフ……。初めまして、そしてさようなら。私はこの惨殺魔城の主である吸血鬼レンゾーマ。死ねーっ!」
美形だったのが邪悪な笑顔に歪み、手を振り下ろすと骸骨剣士が一気にヤリオたちへ襲いかかる。
しかしセンプは聖斧ドーラを背中から取り出すと、一気に横へ薙ぎ払う。
「行くぜーっ!! デストラクション・ウェーブだーっ!」
薙ぎ払った先から、三日月の波が広がっていって骸骨剣士を粉々に「ギャアーッ!」と吹き飛ばしていった。
聖斧もまた【聖】の名を冠しているので、アンデット族にも通用する。
転移者の戦力にヤリオは「味方で良かったぜ……」と胸をなで下ろした。
「ほほう……。今回の転移者は歯応えありそうだ……」
「次はきさまの番だーっ!」
強気なセンプは斧をレンゾーマに向けて挑発した。
「骸骨剣士で、この辺りの地域を支配して退屈していたが、これは思わぬ遊戯になりそうだぜーっ!」
ヤリオはハッとした。
あの村で骸骨剣士が湧いたのは、コイツが犯人なのだと察したのだ。
「きさまかーっ! あの村を襲ったのはーっ!」
「フフフ……今更気づいたかーっ! もはやこの辺りの村を六七個も潰して、我が領地にしたのだーっ!」
驚愕の事実にヤリオたちに電撃が走った。
既に六七ある村を、骸骨剣士で潰してしまったのだと……。
「ゆ、許せん!! きさまは惨殺してやるーっ!!」
頭に血が上ったセンプは聖斧を振りかざして螺旋階段を打ち砕く。しかしレンゾーマは軽やかに宙返りして、床に降り立つ。
センプは振り向いて激高のままに聖斧を振るう。
「デストラクション。ウェーブだーっ!!」
凄まじい衝撃波の波が広がるが、吸血鬼は黒いマントを翼のように広げて高く舞ってかわす。
「ハハハ! 斧は重くて上へ振れまい! 死ねーっ!」
「し、しまったー! 斧の弱点を見抜かれたーっ!」
レンゾーマの鋭い手刀が、無残にセンプの胸板を貫いて血飛沫をぶちまけて「ギャアーッ!」と断末魔を上げさせた。
更に絶命したセンプの首をレンゾーマは噛み付いて全ての血を吸ってしまった。
エサにされてしまったのだ……。
「だ……だから……吸血鬼と言われる所以か……。お……恐ろしいぜ……」
「それだけじゃない! 吸血鬼は身軽で空を飛ぶかのような身体能力があるのよーっ!」
あの強かったセンプですら、あっけなく絶命したのだ。戦慄するしかない。