5話「恐怖! アンデット軍団!」
エルフであるセレティーンの魔力が強い事を知ったヤリオは、新たな戦力と喜び、更に旅を続けていた。
「ムウ……、天候が思わしくないな」
ヤリオは見上げると曇が空を覆っているのを、雨が降ると連想した。
「それに暗くなるから、あそこの村で休みましょう」
セレティーンは向こうに見える森に面する村を指さした。
ちょうどいい、そこで休もうと決意したのであった。しかし恐るべき事態になっていたのを、ヤリオたちは知る由しなかった……。
入ってみると寂れた感じの家ばかりで、生気が窺えない人々ばかりだ。
「ああ。勇者さまですか……」
「オレは勇者のヤリオだ。どんな武器も槍にできる能力があるぜ。……あなたは?」
「ワシはこの村の村長ガルデーンです」
白髪でヒゲが下に伸びている長老がいた。
そばに娘らしき少女がおずおず。気弱そうな感じだ。
「ああ……、こちらはわしの娘ガルコです」
「初めまして……」
泊まれる空家へ案内されて、そこに入らせてもらうとワタの寝床があった。
「空家は多いです。なにせ、出て行く者が多いもんで……」
「一体何が起きているんだ?」
「そ……それは……」
長老は出し渋る感じだったが、娘は弾けたように前に出た。
「頼みます!! 裏側の墓場で骸骨剣士が大量発生しているんですーっ! 勇者さま、やっつけてくれーっ!!」
ヤリオとセレティーンは見開いて「ああ……」と驚いた。
娘は詳しい経緯を話し始めた。
この村の裏側で墓場が設置されている。
十字に木の板を組んだ粗末な作りで、そこに死者を埋葬している風習。
今まで何ともなかったのだが、ある日を境に骸骨剣士がワラワラと群がってきたようだ。
「な、なんだーっ!? こいつらはーっ!」
「骨が動いているーっ!?」
村の屈強な男が三人いた。
白い全身骨だけがフラフラと立ち上がって、剣を持っている。眼球のあったくぼみの暗黒からは赤い光が瞳代わりとなって男を睨んだ。
「コツコツコツーッ! 我ら骸骨剣士さまの領地だーっ!」
「コッコッコ! 踏み入れたきさまらは我のエジキだーっ!」
「観念しろーっ! 生者どもよーっ!」
骸骨剣士は「ヒヒヒヒ」と不気味な笑いをしながら、目の前の男に剣を振りおろし「ギャアーッ!」と殺害してしまった。
二人の男は「くっ!」「やるしかないーっ!」と手持ちのクワを武器に襲いかかった。
しかしクワでは骸骨剣士をすけ抜けるばかり。スケッスケッ!
「バカめーっ! アンデット族には物理攻撃など通用しないーっ!」
「骸骨剣士の名の通り、スケスケなのですけ抜けるのだーっ! それが我らの名前の由来よーっ!」
「僧侶の成仏魔法か、エルフの魔力か、勇者のもつ聖剣でもなければ、太刀打ちできないのだーっ!」
「きさまらでは我々に勝てはしまいーっ!」
通用しないと誇示されて、絶望に包まれた二人の男はなすすべなく「グギャアーッ!!」と剣に絶命するしかなかった。
こうして墓場は骸骨剣士に支配されてしまった。
今日まで、誰も手出しできないので村から出ていく人が多いとのこと……。
「グムーッ! 確かにアンデット族に攻撃がすけ抜けるなら、ただの村人では勝ち目がない……」
「勇者なら、やるしかないでしょう!」
「事情は分かった。引き受けるぜーっ!」
村長と娘はパッと明るくなった。
今日の晩飯を食った後、深夜にヤリオとセレティーンは裏側の墓場へおもむいた。
「ぶ、不気味なところだ……」
「怖がってもしょうがないでしょ」
「ウ……ウム……」
結構な広い墓場で、等間隔に十字の木の板が立てられている。
するとボコボコッと土の中から骸骨剣士が這い出てきて、ヤリオとセレティーンは得物を手に身構えた。
「ゲッ! で、出たーっ!」
こうして本物の骸骨剣士を見るのもヤリオは初めてだった。
「コツコツコツーッ! しょうこりもなくーっ!」
「バカめーっ! 屈強な男の二の舞だーっ!」
有利と見て襲いかかる骸骨剣士軍団。
怯むヤリオだったが、セレティーンは「聖剣ならアンデット族に通用するわ」と告げた。
「ハッ! そうか!! 聖剣は【聖】と付いている……! ならば弱点となる!!」
「何をぶつくさ言ってやがるーっ! 勇者死ねーっ!」
襲いかかる骸骨剣士に、槍に伸ばした聖剣で突くと「ギャアーッ!」と血飛沫を噴かせた。
血まみれの骸骨剣士は地に伏して絶命した。
「よ、ようし!! 効くとなれば恐るるに足らず!!」
セレティーンはエルフなので、パンチを繰り出すと骸骨剣士の胸板を貫き「ギャアーッ!」と絶命させた。
そうエルフは物理より魔力に長けているので、アンデット族にも通用する。
しかし骸骨剣士たちは、まだ数十人残っていた。
「ならば数で押してやるーっ!!」
「我々の方が多いんだーっ!」
「死ねーっ!!」
しかしヤリオは彼らの弱点に気づいた。
「悪いが、もう一つ弱点に気づいたぜーっ!!」
「な、なにっ!?」
ヤリオは骸骨剣士を蹴っ飛ばして仰向けに倒す。骸骨剣士は立ち上がろうとするが遅いので、そのまま聖剣に突かれて「グギャアーッ!!」と血飛沫を噴き上げて絶命。
骸骨剣士軍団は「ああ……」と恐れおののく。
それにヤリオは不敵な笑みで指さす。
「やはりな! アンデット族だから物理が効かない利点はあるが、骸骨は筋肉がついていない為、非力なのだ。だから動きが鈍くて当然だーっ!」
「なにーっ! 我らの弱点に気づいただとーっ!」
「そ、それでは……勝ち目がないという事なのか……!?」
「やはり本物の勇者だ……」
「そんなもの信じられるかーっ!!」
否定すべき骸骨剣士が駆け出すが、セレティーンに胸板を拳で貫かれて「ギャアーッ!」と苦悶に絶命。
「元々エルフは力が強くない。しかし筋肉で覆っていない骸骨など貫けるのは容易だ。これで勝負は決まったな」
「そういう事ね。覚悟しなさい!」
骸骨剣士は絶句し、ヤリオの聖剣とセレティーンのエジキとなってしまった……。
「「「「「「グギャアーッ!!」」」」」」
その翌日の朝、村長と娘は「ありがとう! これで夜は眠れます!」と満面の笑顔で、ヤリオとセレティーンの旅立ちを見送ったのであった。
これでまた一つ平和となった。