3話「謀反!! 王国反逆の転移者軍団!」
酒場でくつろいでいると、ごろつきが何か話しているのを聞いた。
「魔王ドロデンスの勢力が広がっているって話だ」
「あ、ああ……。四天王も力を増しているし、他の魔族も侮れないぜ……」
「こないだ何年も前から国が総出で、地球から移転者を何度も召喚しているが、みんな返り討ちにあって「ギャアーッ!」と全滅しているらしい」
ヤリオは、次々とやられて絶命していく転移者の絶叫が想像できた。
それだけ魔王勢力は恐ろしい力を持っているのだろう。
「で、では! 転生者は……!?」
「恐れをなして、名乗りを上げずにそのままひっそり暮らす人が多いんだ」
「ウムーッ、だが気持ちはわかる。転移者と違って、ここの住民に変わりないのだからな。誰だってムリヤリ使命を押し付けられちゃたまらないぜ」
「ああ……」
それだけ魔王は恐ろしい存在だというのか、とヤリオは思い知っていく。
覚悟を決めねば、やり遂げる事はできないだろう。
「キャ────ッ!! 誰か助けて────ッ!!」
外からの悲鳴にヤリオは思わず飛び出すと、金髪ロングのエルフが無数の男どもに追われていた。
「ぐっへへへ!! 魔王を倒すんだ! 女の一人や二人いただいたっていいだろーっ!」
「移転者としての意地もあるからな! ここは逃しやしないぜーっ!」
「そうだそうだーっ! 移転者の強さを思い知らせてやる!」
「異世界転移されて、帰れなくなった恨みを果たしてやるぜーっ!」
「二度と異世界転移されないように、国を乗っ取ってやるーっ!」
「ああ! この国を乗っ取るはじめとして、このエルフを血祭りにあげてやる! そうすれば王様も震えて降参するに違いない!」
いてもいたってもいられずヤリオは酒場を出て聖剣アブゾリュートを引き抜き、それを槍のように伸ばして最初の男を突き刺して「ウギャーッ!」と絶命させた。
まず一人の転移者が血飛沫を撒き散らして地に伏した。ズン!
「きさま! な、なにものだーっ!?」
「……オレはヤリオ・フルボーン。転生者であり、友から受け継いだ聖剣アブゾリュートの使い手だ」
「「「なにーっ!?」」」
立ちはだかった男に、転移者軍団は足を止めた。
エルフの女はサッとヤリオの背後に回った。
「心配しなくていいぜ。もう殺させやしない」
「ありがとう。私はエルフのセレティーンよ。よろしくお願いします」
「ああ」
転移者軍団は「ぐぬぬ」と悔しがり、焦りを滲ませる。
「さっさとエルフを殺さないと、王様が震えてくれないぜ!」
「そうだ! 二度と異世界転移できないようにしなきゃなーっ!」
「きさまー! この俺達の完璧な作戦を邪魔する気かーっ!」
「転生者が転移者さまに勝てると思ってるのかーっ!?」
殺気立つ転移者。だが彼らは絶対の自信があり、それに見合った強さを兼ね備えている。
「だが、転生者は転移者さまの有利な点を知るまい!」
「ムウ! そ、それは……一体!?」
動揺するヤリオ。
「フフフ……冥土のみやげに教えてやろう」
「転移者はな、この異世界に来てから即戦力になるのだーっ!」
「しかも、向こうの世界で培った技術が身に染み付いているのだ!」
「逆に転生者はどうかな? 我らと同じように近代社会で生まれたが、しょせんその体はこの世界のもの。まっさらな状態に違いない!」
「そうだーっ! 転生者は生まれてから戦力になれるまで、だいぶ時間を要する。しかもイチから鍛え直せねばならぬ二度手間よーっ!」
図星を突かれてヤリオは「た、確かに……」と震える。
「転移者にたてついたのがきさまの運の尽きよーっ!」
「その身でもって、転移者さまの恐ろしさを焼き付けるがいい!! ハハハハ!」
「エルフの前にきさまから血祭りにあげてやる! そして王国を震え上がらせてやるーっ!!」
優位と思って転移者軍団は、一気呵成とヤリオへかかってくる。
そんな切羽詰まった状況の最中、ヤリオは必死に考えあぐねていた結論が閃いた。
「転移者軍団よーっ! きさまらは一つ見落としているものがあるーっ!」
「「「「なにーっ!?」」」」
「それを見せてやるぜーっ!!」
槍となった聖剣を振り回す。転移者は余裕と避ける所が、視界に映る無数のゴミが遮ってしまう。
「うっ! 飛蚊症がっ!!」
振り回した聖剣が、手前の怯んだ転移者を切り裂いて「ギャアーッ!」と轟いた。
次の人は近眼で間合いを見誤り「ギャアーッ!」と切り裂かれ、運動不足のせいで思うままに動けず「グギャアーッ!!」と切り裂かれ、肩が痛くて武器を振り上げられず「ウギャーッ!」と切り裂かれてしまった。
次々と血まみれで倒れ伏す転移者軍団。
「そう。転移者は確かに有利な点は多い。しかし生まれてから積み重なった微々たる傷も刻まれているのだ。飛蚊症をはじめ近眼も運動不足も四十肩もな……」
「そ……そうか……。確かに転移しても治るわけではない……」
「くそ……! 肝心な弱点を……自ら見落としていたわ……!」
「ぬかったぜ……」
「そうだ。転生者はまっさらな状態で生まれるから、そのような問題は皆無だ」
「それが……転生者の強みか…………」
「うっかり見落としていた我々の負けというわけか……」
転移者軍団はガクッと息絶えた。
それを看取ったヤリオは一種の虚しさを覚えるが、それを魔王打倒の執念に変える事にした。
「さすが転生者。あの一瞬で転移者たちの弱点を見抜いて倒すなんて……」
「セレティーンさん。そうでなければ、殺されていたのはオレの方だっただろう……。転移者も王国を震え上がらせるほどの侮れぬ猛者だった」
「感激しました。一緒に行きましょう」
「ウム」
こうしてヤリオはセレティーンと一緒旅立つ事になった。
ゴメンなさい。転移者をディスってるつもりはありません。