2話「勇者集合! 聖剣争奪戦!」
ヤリオは「ハァハァ」息を切らして、三日ほどの距離を歩いて大きな王国へ入国した。
多くの人がごった返ししていて賑やかだ。
明るく華やかな談笑が聞こえ、美味しそうな匂いもする。
「こ、ここは……?」
「なんじゃ知らんのか? ここは世界で五大王国と呼ばれるほどの大国。リュハーゾマよ」
「リ……リュハーゾマ!?」
通りすがりの老人に教えられ驚く。
「お前さんは転生者か、転移者か、この世界をよく知らんと見える。だが心配するな。あの城へ目指すが良い。必ずや先の道を指し示すであろう」
親切に老人は城へ指さした。
ヤリオは感謝の意で「ありがとう。ではさっそく行ってくるぜーっ」とスタタタタ駆け出していった。
老人は「この男……。目が輝いていた。きっと大物になるに違いない」と微笑んだ。
門番の兵士に通されて、城の中へ入ると大広間に入った。
多くの人がいて、ヤリオも驚き戸惑いながらキョロキョロ見渡した。
ただならぬ威圧がビンビン感じ取れるからだ。
「恐らくオレと同じ転生者か転移者なのだろう……。ただものではないのがヒシヒシ伝わって来るぜ……」
すると上のベランダみたいなのから王様が現れた。
「よくぞ来た。転生者と転移者の人間よ。今こそ勇者となって魔王を倒す旅に出かけるのだ」
「「「オオオ──────ッ!!」」」
熱気あふれる叫びで大音響した。
「だが、まず聖剣を手に取らなければ勝てはしまい。さぁ、その取り囲んでいる壁の聖剣を自ら選んで旅立つのだ」
気づけばこちらを囲む円柱状のレンガ壁にはあらゆる武器が飾られていた。
みんな驚いて「おお……!」とざわめく。
しかし疑問に沸いた転移者転生者の一人が手を挙げた。
「これだけ多くの聖剣を持っているなら、それで兵に持たせて魔王へ攻め込めばいいのでは?」
しかし王様は首を振る。
「説明するより、見る方が早かろう。そこの兵士。聖剣を手に取りなさい」
「ハッ!」
王様に命じられた兵士は、壁の聖剣を手に取ると灼熱の業火がたちまち全身を包んでしまう。
のたうち回りながら「ギャアーッ!」と黒焦げに伏してしまう……。
顔面蒼白で「ああ……!」と戦慄を覚える転移者転生者。
「この世界の生き物では触れる事すら叶わない。触れれば、あのようになるのだ。この武具は転移者転生者専用のものなのだ。強力な力を持つ分だけ、そういう制約がある。心せよ」
ヤリオはこのやりとりに息を呑んだ。
自分自身も転生者だから、あのように火ダルマにされないのだろうが恐るべき武具だと察した。
「さぁ! 勇者たちよ! 勇気あるものは聖剣を受け取るがいい!!」
最初の男がニヤリと笑んで「早い者勝ち! 俺はこの剣をいただくぜーっ!!」と壁の剣を取った。それに続いて他の転生者と転移者は騒ぎながら次々と聖剣を手に取っていった。
後で来たヤリオは取り残されて、聖剣を手にする事すら叶わなかった……。
「し、しまった! 来るのが遅すぎたんだーっ!」
すると最初に剣を取った男がニヤリとこちらへ歩む。
「フフフ! 俺は異世界転移者の柴胡路州輝。きさまは勇者の資格がないようだぜ。どうせなら、この俺の聖剣を味わって逝くがよいわーっ!」
なんと切れ味を試したくて襲いかかってきたのだ。
ヤリオはうろたえたが意を決して、腰の剣を抜いて構える。
「なんだ? その変哲もない剣は?」
「お、オレには……これしかなかったんだ……」
ヤリオは身を守る為にと剣を構えたまま、柴胡路州輝と戦うしかない。
「ハハハ! この俺の聖剣は【聖剣アブゾリュート】!! なんでもスパスパ斬れる恐ろしい効果を持っている! もはや勝ち目はないも当然だぜーっ!!」
他の転生者と転移者は「おお……」と恐れおののく。
そう、聖剣にはそれぞれ特殊能力が備えられていて、他の武器にはない力を秘めているのだ。
「死ねーっ!!」
「だが、オレには女神から授かってもらった能力があるんだーっ! 剣よ槍に伸びろーっ!」
ヤリオの突き出している剣がググーンと伸びていく。まるで槍だ。
その槍が柴胡路州輝の胸を刺し貫き「グギャアーッ!!」と絶命させた。
「なぜだーっ!? 聖剣を持ってる勇者の方が負けるんだーっ!?」
「そ、そうか! 剣より槍の方が長い! いくら剣が優れていても、先に攻撃を食らったら意味がないーっ!」
「た……確かに!」
「それでは、なんでも斬れる効果も意味がない!」
「この勝負! 勇者ヤリオの勝ちだーっ!!」
そう、間合いというものが彼らの勝敗を分けたのだ。
他の転移者転生者はドヨドヨ驚いている。
「ググゥ……! この俺がやられるとは……! だがいい勝負だったぜ……」
「ああ。手強かった。一瞬の油断もできなかったぜ」
ヤリオは、倒れている柴胡路州輝と握手した。
「さ……最後に……友として頼みを聞いてくれ……」
「ウム」
「この聖剣を持って行って、俺の代わりに先の未来を一緒に見て行ってくれ……」
「ああ。分かった。必ずや叶えて見せよう……」
ヤリオが聖剣アブゾリュートを手に取り、満足した柴胡路州輝は安らかな笑顔で死んだ。ガクッ!
そんな熱い激戦と友情に、周囲の転移者と転生者は涙してパチパチと拍手したのだった。
ヤリオは悲しみを胸に、聖剣を腰にスクッと立ち上がる。
「魔王め、見てろよ! 柴胡路州輝の仇はオレが討つ!」