1話「異世界へ転生するヤリ男!」
高層ビルが立ち並ぶ近代都市を真っ只中、歩く青年がいた。
「オレは芦田槍尾! この都会で成り上がってやるぜーっ!」
そう意気込んだ青年は脇目も振らず駆け出し、目的へ邁進せんと歩道を飛び出した。目指すは大手企業への就職、そして社長へ昇進する意欲が爆発しているのだ。
ところが、ブザーと共にトラックが肉薄してきて、青年は「ゲェ────ッ! 赤信号だと気付かなかった────ッ!!」と叫びながら轢かれ死んだ。
壮絶な最期であった……。
青年は一切閉じられた目が開く事に気づいて、不思議な光景を目にしながら起き上がった。
……白い雲みたいな大地に、暗黒の空のみの殺風景な場所。
「ここは……? オレは轢かれて死んだのでは?」
キョロキョロすると、目の前でスゥ────ッと女神が浮き上がってくる。
《そうですよ。トラックに轢かれて死んだ不幸な青年よ》
「そ、それでは、ここは死後の世界ということか? ウムーこれでは社長になれないではないか」
《ご心配に及びません。これから異世界へ転生させます。あなたはそこで成すすべき事を見出してください》
いきなり異世界へ転生しろと言われ、青年は戸惑った。
「ウオーッ! やってやるぜーッ!!」
《ふふふ、その意気ですよ。それからあなたに能力を授けましょう》
「助かるぜ女神さんよ」
ニヤリと微笑んだのであった。
こうして異世界へ転生された青年は、とある田舎の息子としてスクスク育ってきたのであった。
父親は「私の可愛いヤリオよ。ここまで育ててきたが、これまで。お前は大人として自分の道を進むのだ」と、一本の剣を授けた。
今年でようやく一五歳となったヤリオは剣をしかと受け取り、腰に差した。
「ああ。オヤジ。今まで育ててくれてありがとうな。必ず何かを成し遂げてやるぜ」
「頑張れ。応援している」
「がんばってね」
両親に見送られながら、ヤリオは森へ長く続く獣道へ歩いて行った。
森へ入って、しばらく数刻ほど進んだ後にスライムが三匹立ちはだかった。
「グエヘヘヘ! 溶かしてやるぜーっ!」
「これまでの旅人のようになーっ!」
「ひっひひひ!」
ヤリオは一瞬ひるんだが、腰の剣を抜き放ち対抗する意思を見せた。
「お、落ち着くんだ……。オレには女神から授けられた能力があるはずだ……」
「何をぶつくさ言ってやがるーっ! 死ねーっ!」
スライムは飛びかかってきた。
咄嗟にヤリオは剣を突き出した。しかし!
「バカめーっ! 仕掛けるのが早すぎだーっ!」
「ああっ!!」
そうなのである。間合いを考えず剣を突き出したばかりに、スライムを仕留め損なったのだ。そのまま飛びかられてしまうが……!?
なんと剣の柄がギューンと伸びていって、スライムを突き刺した。
「グギャアーッ!!」
血飛沫を上げながらスライムは絶命し、地面に落ちた。
それを見てヤリオは確信した。
「そ、そうか! オレには武器を槍に変えるすごい能力を授かったんだーっ!」
二匹のスライムは動揺し「まさか移転生者!?」「クソーッ! 勝ち目がないぜ!」とうろたえる。
それでも意地と引けず、スライムは二匹並んで襲いかかってきた。
「ならばとっておきの奥義を見せてやるぜー!!」
「ダブルボディプレス!! 例え前のヤツを片付けても、後方の俺がきさまを仕留めるぜーっ!!」
そう二段構えの奥義である。
もはや普通に戦っても勝ち目がないと悟るや、犠牲を払ってまで確実に勝ってやると覚悟を決めたのだ。
「ならば、その勝負受けて立つぜーっ!!」
剣から変化した槍が二匹のスライムをまとめて刺し貫き「ギャアーッ!」と絶命させた。
そう、槍で貫けば奥義など無意味であった。
「覚悟を決めたスライムの執念……恐るべしや。これからの旅が思いやられるが、やるしかない!」
最弱のスライムでさえ強敵だった。
それを思い知りヤリオは気を引き締めて、先の獣道を進んでいった……。