最終話 愛だろ…愛♡
作:佐藤そら
「ゆいこ、そんなところで風邪引くぞ」
西の空へ沈んで行く太陽を見つめていると、追いかけてきたたくみが、そっとわたしにマフラーを巻いてくれた。
「ありがとう」
「大丈夫か?」
「えっ?」
「そのぉ……もうDのことは、吹っ切れたのか?」
「それは……」
あれから 、わたしはDの存在について、ずっと考えていた。
Dには、ひろしやたくみとは違う魅力がある。惹かれてなかったといえば、きっと嘘になるだろう。
でもそれは、愛や恋とはまた少し違った。
大人への憧れだったのかもしれない。
本当に大切なものは、昔からずっと変わらずにわたしの隣にあった。
少し背伸びをして、わたしは大切なものを失いかけたのだろう。
「俺、思うんだ。ゆいこの隣にずっといたいなって」
「へっ……!?」
「でも、いつか、いつの日か、それが変わっちまうこともあるのかなって……」
「たくみ……」
「でも、ゆいこの隣にいるのが俺じゃなかったら……それは、ひろしであってほしい」
どこか寂しそうに見える、たくみの横顔に、わたしはどれだけ2人を傷付けたのだろうと思った。
たくみが、こんなことを口にするなんて……。
「わたしね、豪華なディナーよりも、ひろしとたくみと3人でした、たこパの方が好きだよ」
「え? あのたこ焼き200個食ったやつ?」
「そう。 Dとのデートより、楽しくて美味しかった」
「そっか」
たくみが少し、ホッとしたように見えた。
「ゆいこ、こんなところにいたのか」
「ひろし!」
振り返ると、そこにはひろしの優しい眼差しがあった。
「そうだ、みんなで菓子でも食おうぜ!」
たくみが鞄を開けると、馴染みのあるお菓子がドサっと出てきた。
「これ、全ブルボン?」
「おう! 全ブルボン!」
たくみは得意げにそう答えた。
わたし達は、キャッキャとはしゃぎながら、お菓子を食べた。
そこには、いつもと変わらない日常が戻っていた。
誰かにつけられている気配もすっかりなくなり、あれはわたしの勘違いで、ひろしとたくみに追いかけてきてほしいという、わたしの願望が生み出したストーカーだったのかもしれない。
× × ×
「お姫様は本当の王子様に気付いた頃かな?」
「僕がずっと、ちゃんとこのおめめで見てたからね!」
「ひろは偉いなぁ。お姫様を毎日見守っていたのかぁ」
Dはひろの頭を撫でた。
「Dは僕のだからな!」
ひろはご機嫌だった。
「ひろ、一番大切なもの、それはなんだと思う?」
「愛だろ…愛♡」
ひろは、ドヤ顔で答えた。
「でも、真の王子様になれるのはひとりだけ。それにはまだ時間がかかりそうだね」
Dは笑みを浮かべた。
× × ×
冬の日の入りは早い。
夜空には、冬の大三角が顔を出す。
手に吹きかけた息は白く、時の流れを感じる。
「ねえ、クリスマスは3人で過ごそうよ!」
「毎年そうだろ?」
たくみが笑う。
「すでに予定が入ってる」
ひろしが静かに答える。
「えっ!?」
「ゆいこと過ごすって」
「もう!」
「何焦ってんだよ」
ひろしがくすりと笑う。
「言っとくけど、俺もそこにいるからな?」
たくみが、ムスッとした。
わたし達は、付かず離れずの距離で今日もやり過ごしている。
「ひろし、たくみ、今夜も月が綺麗だね」
やっぱりわたしは、ズルい女だ。
リレー小説!
ありがとうございましたっ!!