第6話 思い出の公園
作:シキカン
Dとの夢のようなデート以来、私たち3人の仲はギクシャクしたままだ。ひろしやたくみとは違う、大人の余裕のあるDに誘われて、浮かれてホイホイ付いていった結果が、これ。
帰宅時間になるといつのまにか辺りも薄暗くなり、時折吹く北風に身を縮めながら歩いていた。
何も考えずボーッと歩いていると、背後から誰かに付けられてる気がする。恐る恐る後ろを振り返るも、誰もいない。
「気のせいか…」
と、また歩き出すもやはりまた気配を感じる。少し早足で歩き振り切ろうも、気配は続き、私は怖くなり駆け出した。すると後ろからも足音が聞こえてくる。
怖い!誰か、助けて!たくみ!ひろし!
「ゆいこ!!!」
目の前から聞き覚えのある声がした。そこに立っていたのは血相を変え、真っ直ぐ私を見つめるひろしだった。
ひろしの顔を見て安心したからだろうか。顔を上げた瞬間、私の目から一筋の涙が溢れた。そしてストッパーが外れたように、ひろしに抱きつきひろしの広い胸で子供のようにワンワンと泣き出した。
「ひろし〜!!!」
ひろしは少し驚いた表情をするが、何も言わず私を抱きしめ、頭を撫で続けた。
気持ちも少し落ち着き、私たちは子供の頃よく遊んだ公園のブランコに座っていた。ひろしが入口の自動販売機からコーヒーとミルクティーを持って、私に二つ差し出した。
「どっち?」
「私がコーヒー飲めないの、知ってるくせに〜」
そう言って、私はミルクティーを受け取る。
「だよな。」
ひろしは柔らかい笑みを浮かべ、隣のブランコに座りコーヒーを流し込んでいた。
辺りもすっかり暗くなり、公園の街灯に照らされたひろしの横顔はあまりにも綺麗で、私はミルクティーを握りしめたまま見惚れていた。
「ここに来ると子供の頃を思い出すな。よく3人で日が暮れるまで遊んでさ。近所のガキ大将がゆいこにちょっかい出すたびに、たくみが怒って、俺が止めて…。…やってること、昔から変わらねーな。」
少し寂しそうに話すひろしに何か声をかけないと…。しかしうまい言葉が思いつかない。すると背後から
「あっれー?2人とも何やってんの?」
と、またしても聞き覚えのある声。
私とひろしが振り返るとたくみが入り口からブランコの方へ歩いてきた。
手には大きな肉まんを持っている。それを口いっぱいほうばりながら、私たちの前にある囲いに腰掛けた。
たくみのその姿や、2人のやりとりなどを見ていたらいつも通りすぎて可笑しくて、笑いが込み上げてきた。
2人は突然笑い出す私の方を向き「???」と不思議そうに顔を見合わす。
涙が出るほど笑った私は、胸のつっかえが取れたかのように自然とこの言葉が出ていた。
「2人とも、いつもありがとね。」
2人は揃いも揃って気恥ずかしそうな顔をし、コーヒーや肉まんを口にした。
「もっ、もう大分暗くなってるし、またゆいこのお母さん心配するから帰るぞっ!送ってくから…。ひろしも!!!」
「あっ、あぁ…。そうだな…。」
それから公園を出て、子供の頃のように私を真ん中にして横一直線で歩いていた。なんだか嬉しくて、私は2人の腕に自分の腕を絡ませて、ギューと抱きついた。
「ゆいこ!?」
2人は何故か顔を真っ赤にしている。
見上げた夜空には太陽に照らされた大きな満月が、私を照らしていた。
最終話:『愛だろ…愛♡』へ続く