第5話 「やんのか、やんねーよ」
作:まさき
Dとの優雅でロマンティックなディナーを終えて車に戻ると、まるでハリウッド映画のワンシーンのように、Dが車のドアを開けてくれる。
「どーぞ、姫」
冗談めかして言って、優しい微笑みを浮かべる。
「あ、ありがとうございます」
恐縮しつつ、促されるまま助手席に乗り込んだ。
「あー!!ずるい!!D!僕も!」
背後でひろの喚き声がして振り返ると、Dが苦笑しながらひろにもドアを開けてあげるのが見える。
「はいはい、・・・どうぞ?姫?」
「うふふふ・・・ありがとう」
芝居めいたそのD仕草に、ひろが嬉しそうにお礼を言って車に乗り込んで来る。
「さて。じゃぁ、お姫様方。ドライブと行きましょう。」
Dが楽しげに呟いて車を発進させた。
夜景を見ながらのドライブは、最高にロマンティックだった。
車の中ではDが耳に心地いいその声とたくみな話術で楽しませてくれる。
その豊富な話題に、ゆいこは尊敬を覚えた。
どこまでも相手を気遣った真摯な姿勢も好感度は増すばかり。
しばらくして、背後の座席から静かな寝息が聞こえ出す。
振り返ると、ひろが気持ち良さそうに眠っていた。
もうそろそろいい時刻なのかと、携帯を覗いて時間を確かめようとして、スクリーンに表示された無数の不在着信に思わず手を止めた。
ひろしとたくみからだ。
・・・・そうだ・・・わたし、慌てて誰にも行き先を告げずに家を出てきた。
心配してるんだろうな。
青ざめてわたしを探し回る二人の姿が目に浮かんだ。
ズキンと胸が痛くなる。
どうしよう・・・。
不安にかられて思わずDを見ると、Dはバックミラー越しに、後部座席で眠るひろの寝顔を優しげな微笑みを浮かべて見つめていた。
その瞬間、Dはわたしを好きなわけではないと確信する。
なぜ彼がわたしをデートに誘ったのかはわからないが、Dの心はわたしに向いてるわけではない気がした。
たくみやひろしからいつも感じているわたしへの感情が、Dからは伝わってこないことに気づいたのだ。
「だいすけさん・・・あの、わたし、帰らなきゃ・・・」
「そうかい?・・・わかった、じゃぁ、送って行くよ」
わたしの気持ちなど何もかもお見通しのような顔で、Dがハンドルを切った。
x x x x
「ひろし!ゆいこがいない!」
たくみからそんな電話がかかってきたのは、夜9時を過ぎた頃。
ゆいこのお母さんから電話があり、ゆいこが夕方行き先も告げずに出て言ってまだ帰らないとたくみに連絡があったらしい。
「探しに行くぞ!」
俺は、電話越しにたくみにどなり返し、慌てて家を飛び出した。
すぐそばでたくみと落ち合い、ゆいこがいそうな公園、コンビニ、ファミレス・・・。
いつも3人で一緒にいる近所を走り回る。
「・・・・ダメだっ、あいつ、電話出ない!」
息を切らしてたくみが何度目になるかわからない電話を切りながら言う。
俺も、すでに10回以上かけた後だった。
「・・・・たくみ、ゆいこ、あいつと一緒なんじゃないかな・・・」
拳を握りしめて、さっきから不安に思っていたことを恐る恐る口に出す。
「・・・・多分・・・そうだろうな・・・」
たくみも苦々しげに呟く。
「くそっ・・・・なんなんだよ、D・・・」
ゆいこは・・・あいつのことが好きなのだろうか・・・・。
嫌悪感と不安にイライラが募る。
最近、ゆいこに避けられている気がしていた。
Dと出会ってから、事あるごとにDの名前を出し、頬を赤らめるゆいこが面白くなくて、不機嫌さを隠しきれずにいた。
それを感じ取ったゆいこが俺とたくみを避けるようになったのは・・・致し方ない事なのか。
「なんなんだよ・・・D・・・」
たくみも拳を握りしめて電柱にそれを打ち付けた。
トボトボとゆいこの家の前まで戻ってきた時だった。
俺らの背後から近づいてきた高級車がゆいこの家の前で止まる。
助手席からゆいこが降り立った。
「ゆいこ!!」
たくみと同時にゆいこ呼んで彼女の駆け寄った。
「ばか・・・っ心配したんだぞ・・・っ」
たくみがゆいこの両肩を掴んで揺さぶる。
「ごめんなさい・・・」
ゆいこが小さく呟いた。
「ひろしくん、たくみくん、悪かったね、俺が急にゆいこちゃんを連れ出したから・・・」
いつの間にか運転席から降り、俺らの側に立っていたDがそんなことを言う。
「っ!」
たくみが声もなくDの胸ぐらに掴みかかった。
「てめぇ・・・どう言うつもりだよ・・・」
「たくみ!」
ゆいこが慌ててたくみの腕にぶら下がるが、たくみの勢いは止まらない。
「なんなんだよ、お前!」
「ちょっと!僕のDになにすんのさっ!」
いつの間にが車から降りていたひろがゆいことは反対側のたくみの腕にぶら下がる。
「落ち着けよ、たくみくん」
Dが余裕綽々に言い、逆に神経を逆撫でられたたくみが一層Dに詰め寄った。
「ふざけんなっ!やんのか!!」
「やんのか?」
ブチギレているたくみに対し、笑顔で遊んででもいるようなD。
今にも殴りつけそうな勢いのたくみを遮って、俺はたくみの前に立ちふさがった。
「・・・やんねぇよ。これ以上、ゆいこを悲しませたくないからな。・・・たくみ、離せ。」
目に涙をいっぱいためて、目を見開いているゆいこをちらっと見ながら、俺はたくみとDを引き離した。
第6話:『思い出の公園』へ続く