第2話 「僕のD」?
作:まさき
いつもの3人で焼き芋をした日から数日が過ぎた。
なぜだろう。
あの日から、わたしの胸の中にDが住み着いていた。
たった数分、たった二言三言話しただけの男性の優しげな微笑みが脳裏に焼き付いて離れない。
確か・・・名前は・・・
「だいすけ・・・?」
夜遅くコンビニに出かけた帰り道、思いにふけりながらゆっくりと歩く。
思わずその名前を口にした時だった。
「呼んだ?」
背後で声がした。
「っ!?」
あまりの驚きに飛び上がって後ろを振り返る。
そこには、あのダンディで色っぽいDと呼ばれる男性が立っていた。
「え、あ、こ、こんばんは・・・」
突然のDの登場にびっくりし過ぎて思考回路が止まる。
どもりながら小さく挨拶をした。
「君、さつまいものお嬢さんだよね?また会ったね。」
Dが魅惑的に微笑む。
「この辺りに住んでるの?こんな遅い時間に女の子の一人歩きは危ないよ?」
Dが心底心配そうに眉を寄せる。
「送って行くよ。」
人が良さそうな優しそうな笑顔にとくんっと胸が高鳴った。
「D!!」
そのときまた背後から元気のいい声が響いてくる。
パタパタという足音とともに小柄な男の子が走って来て勢いよくDに抱きついた。
「ひろ、どうした?」
Dがその男の子の頭に手を乗せる。
ひろ、と呼ばれたその子が胡散臭げな顔でわたしを見た。
か・・・可愛い・・・。
わたしと同じくらいの歳の子だろうか。
Dにしがみついて、不信感満々でわたしを見るその子は、とても可愛かった。
「君、だれ?僕のDとはどういう関係?」
ひろが拗ねたように唇を尖らせて言う。
「・・・僕のD?」
「そーだよ、Dは僕の恋人だからね」
ひろがドヤ顔で胸を張った。
「こら、ひろ。違うだろ」
Dが軽くひろの頭を小突いた。
眉を下げてちょっと困ったような顔でひろをそっと自分から引き離した。
「女の子の一人歩きは危ないから、この子を家まで送ろうって言ってたんだよ。お前も来るか?」
Dの優しい言葉に、ひろはちょっと不満げな顔をしつつも、「うん」と小さくうなづいた。
Dはさりげなくわたしを車道側から遠ざけ、ゆっくりとわたしに歩幅を合わせて歩き出す。
さりげない気遣いを見せる大人の魅力に胸が高鳴る。
ドキドキしながらそっと隣を見上げると、Dが優しく微笑んでわたしを見下ろした。
Dの手がゆっくりとわたしに伸びて来る。
思わず足を止めた。
「髪の毛・・・口に入ってるよ」
Dが顔を近づけて囁くように言う。
Dの温かい手がそっと頬に触れ、髪の毛を正してくれた。
「ちょっと、D!」
ひろがDの腕にぶら下がるようにすがりつき、Dをわたしから遠ざけようとした時だった。
「ゆいこ!」
「ひろし!たくみ!」
「どこ行ってたんだよ、こんな時間に・・・」
「・・・D?ゆいこ・・・なんでこいつと一緒にいるんだよ?・・・お前今、ゆいこに何してた」
ひろしとたくみがわたしを自分たちの背後に隠すようにわたしとDの間に立ちふさがった。
「たくみ?ひろし?」
なぜか怒っているようにDを睨みつけてる二人に、わたしは慌てて二人の腕を引っ張った。
「たくみ、ひろし、だいすけさんは、わたしを送ってくれようとしてただけだよ、何もないよ」
わたしは二人を押しのけて、Dの前に立つ。
「・・・ゆいこ、帰るぞ」
たくみがDを睨みつけて、わたしの腕を掴むと、強引にその場から引っ張って行く。
ひろしもわたしの背中を押した。
「え、ちょっと待って、・・・だいすけさん!ありがとうございました!」
二人に引っ張られながら、わたしは顔だけDに向けお礼を言った。
Dは片腕にひろをぶら下げたまま、たくみとひろしの剣幕に呆気にとられたように、目を丸くして立ち尽くしていた。
第3話:『騎士と王子』へ続く