第1話 スイートなさつまいも
作:佐藤そら
三角形は、まるでわたし達の関係のようだ。
付かず離れずの距離で、わたし達はずっとやり過ごして来た。
この関係が永遠であってほしいと思いつつ、もしここに誰かが現れたら、四辺形になってしまう。
すっかり肌寒くなったこの季節。
秋の夜空には、大四辺形が広がった……
「ゆいこー! 焼き芋やろうぜ!」
「焼き芋! やりたーい!」
たくみとはしゃいでいると、ひろしが呆れた顔でこちらを見る。
「たくみも落ち葉集めろ! なんで俺1人にやらせてるんだ!」
「わりぃー、ゴメンって」
「ところで、さつまいもは? わたし買ってこようか?」
わたしは、準備を2人に任せ、買い出しに向かった。いつも何かをやろうという時は、3人でやる。それが、子供の頃からの当たり前だった。
「結局、いろいろ買っちゃったなぁー! えへへ。マシュマロとかも絶対美味しいよねー!」
鼻歌を歌いながら、歩くわたしの背後から、車のエンジン音が近付いてきた。
「ん?」
高級車がわたしの横で止まり、窓が開いた。
「お嬢さん、これ、忘れ物」
開いた窓からは、ダンディーで色気漂うイケメンが顔を覗かせた。
襟元は大きく開いており、鎖骨がチラリと見えている。
そして、そんな彼の手にはさつまいもが握られていた。
「さっ、さつまいも!?」
よく見ると、買い物袋には穴があいている。
「嫌だぁ、穴あいてる!」
「お嬢さん、さつまいも、好きなのかい?」
「今から使うんです! どうしても! あの……焼き芋やるんです!」
「いいねぇ。甘くて、ホクホクしてて、焼き芋っていいよねぇ」
甘くてセクシーな声が、わたしの耳元に響いた。
思わずドキドキしてしまった。
ダンディーな彼は、わたしには刺激が強すぎる。
「かきねの かきねの まがりかど〜たきびだ たきびだ おちばたき〜あたろうか あたろうよ〜きたかぜぴいぷう ふいている〜」
彼はわたしにさつまいもを渡すと、歌を口ずさみながら、立ち去った。
× × ×
「 D優し〜ぃ! はぁあ〜!! カッコイイ!! 僕もさつまいも落としたらDは拾ってくれるのかな? 僕も一緒に拾ってくれたりしないのかな?」
ひろは、陰から2人の様子を見つめて、目をうるうるさせた。
× × ×
「ゆいこ、焼けたぞ! ゆいこ!」
「あっ、ごめん! ありがとう」
「どうしたんだよ、さっきからボーッとして」
「いや、そんなことは……」
たくみが心配している。
「あちっ!」
「ほら、ゆいこ、焼きたてなんだから火傷するぞ?」
ひろしも心配している。
「んじゃ、俺がふーふーしてあげる!」
たくみはそういうと、冷ました焼き芋をわたしに差し出す。
「あーん」
言われるがまま、わたしは焼き芋を食べた。
「はい、えらいえらい」
たくみがわたしの頭をよしよししてくれる。
「何かあったのか?」
ひろしが切り出した。
「何かっていうか……」
わたしの脳内に、彼の鎖骨がチラついた。
何考えてるのよ、わたし!!
心の中がざわざわする。
冬も近いというのに、全身が熱を帯びた。
「さっき、帰り道でさつまいも落としちゃって……。それを、高級車に乗った男の人が拾ってくれたの」
「高級車? 誰だろう? そんなヤツこの辺にいたか?」
ひろしは首を傾げる。
「そのっ、ダンディーな感じ? 大人の男性っていうか……」
「もしかして、それ Dじゃね?」
「D? たくみ、知ってるの?」
「うーん、なんか、最近この街に来たナルシストだよ。どうせ、全員が俺のこと好き! って勘違いしてるような野郎さ。ダンディーな D! 確かだいすけっていうらしい」
「だいすけ……」
何故か、わたしはまだドキドキしている。
さつまいもを拾ってくれただけなのに。
緊張したのかも?
× × ×
「ホントに焼き芋してるぅ〜! しかもイケメン2人と! Dの話してるぅ〜!」
ひろは、陰から3人の様子を見つめて、目をうるうるさせた。
× × ×
たくみが太陽なら、ひろしは月。
なら、Dこと、だいすけは宇宙。
何故だかわたしは、そんな気がした……。
第2話:『「僕のD」?』へ続く