街にお出かけ
「セレス、今日は少し街に出かけませんか?」
「街に、ですか?」
ある朝急にラーレさんがそういった。街にか。そういえば私、精霊界にきてから一度も街を散策したことなかったな。
「はい、少し私の方の仕事が落ち着きまして、せっかくなので街に出かけようかと」
「私、行きたいです」
「よかったです。それにあなたの歓迎パーティを開きたくてですねそのドレス選びもしましょうか」
ん?歓迎パーティ?聞き間違いだろうとおもってそのまま聞き流すことにした。
「そうなんですね、街に行く準備してきますね。お先に失礼致します」
「ゆっくり準備していてくださいね」
街にお出かけか。楽しみだな。人間界でもお出かけなんかしたことなかったから人生初になるのか。そう思うともっと楽しみになった。
「お待たせいたしました」
「今日はいつもと違った雰囲気ですね」
「変でしょうか?」
「いいえ全く。とても可愛いです」
急いで準備を済ませていくと、ラーレさんが待っていた。軽く可愛いなんて言葉言うのだからとてもびっくりしてしまう。
「そういうこと軽く言わない方がいいですよ?」
「私は全くもって軽く言っているつもりはないのですが。それにセレスあなただから言っているのですよ?」
そうこちらを覗きこみながらラーレさんは言う。その整った顔で覗き込まないでいただきたい!!心臓に悪すぎる。それにラーレさんかなり見た目が整っているし、モテるのだろうなぁ。うん?なんで私こんなこと気にしてるんだろう。
「いきましょうか」
私が変なことを考えている間に、ラーレさんは私にさりげなく手を差し出してきた。そうやってスムーズにエスコートするのか。きっとそうやってエスコートされた女性が何人もいるんだろうなぁ。ってなんでさっきから私こんなことばかり考えているんだろう。しっかりしよう。
「これが街ってものなんですね」
人間の街がどんなものかわからないけれど、人がいっぱいいた。あ、人じゃなくて精霊か。色々なお店が並んでいるし、屋台がいっぱいあった。
「少し見てまわりましょうか」
そう言って私はラーレさんと一緒に色々な店を見て回った。花屋にアクセサリー店、ちょっとレトロなものを扱っている店まで。
「ここは何のお店なんですか?」
「魔具のお店ですよ」
そう言って入った店は、ラーレさんが用があるという店だった。その店は色々なものが置いてあった。ランタンのようなものに、キラキラと光る石、柄に石がはめ込まれた剣までも置いてあった。「魔具」という言葉に聞き覚えが全くない。精霊界特有のものなのだろうか。
「精霊にはマナという不思議な力を持って生まれます。マナを消費することによって魔法という不思議な力を使えます。マナは自然と回復するのですが、使える量は限られてきます。そんな時に使うのが魔具です。マナを結晶化させた石をはめ込んで魔法と同じ効果を持つ道具のことをそう呼んでいます。魔具を取り扱っている店でもここは一番色々なものを扱っていまして私のお気に入りの店なのですよ」
時々リリたちがキラキラとしたものを扱っていたのはそういうことだったのか。人間にはない力か。なんかすごく壁を感じてしまうな。
「店主、私の頼んでいたものはできたかな?」
「もちろんです、陛下」
ラーレさんは親しげに店主さんに話しかけた。店主さんは、気が良さそうな老人の方だった。ラーレさんが100歳でこの見た目であれば店主さんは何歳なのだろう?500歳とか?いやもっと……?考えるのはよそう。
ラーレさんに話しかけられた店主さんは、店の奥へ行ってしまった。頼んでいたものがあったのか。何を頼んでいたのだろうか。それを聞く前に店主さんは戻ってきてしまった。
「こちらが守護魔法と転移魔法をかけたマナ石をはめ込んだものです。全く2つの魔法をかけたマナ石なんて作ったことなかったから大変でしたよ」
「でも、店主ならできるだろう?」
「はぁまったく。いつから陛下はこんな人になってしまったんだろうか」
「前からこんなものだったぞ」
私と話す時の陛下とはまた違った雰囲気だ。とても店主さんとの仲がいいのがこちらまでひしひしと伝わってくる。
「セレス、こちらに来てくださいますか?」
「はい」
今まで一歩後ろで話を聞いていたのがバレてしまった。お二人を邪魔してはいけないかなと思ったのだけれど、どうしたのだろうか。
「これはあなたのためのものなのです。あなたに危険が及ぶ際、いつも私がそばにいるとは限りませんから。そのうち護衛もつける予定なのですが選定に時間がかかってしまって。だからこのお守りをずっと肌身離さず持っていて欲しいのです。負担にならないよう、ピアスかネックレスにしようと思うのですがどちらがいいでしょうか」
「ピアスがいいです」
お守りから目が離せないまま私は答えた。とても綺麗な石。澄んだ紫。私に似合うかわからないほど綺麗だった。キラキラしていて、この世の何より美しく思えた。
「私につけさせていただけますか?」
私はその言葉に少し動揺しながらも、頷いた。私の反応をみたラーレさんは割れ物を扱うかのように私の耳に触れた。恐る恐る触れるラーレさんの手がとても愛おしく思えた。
「とても似合っていますよ」
その手が離れた後少し、寂しいと思ってしまったのは気のせいだろう。
「ありがとうございます」
これがお母様以外からもらった初めての物。だからなんだろうな。さっきから何よりもこれがとても綺麗でキラキラして見えるのは。
「とても、とても嬉しいです」
そう噛み締めるようにラーレさんに向けて言う。ラーレさんは少し、顔を俯いて「よかったです」といった。ラーレさんの耳が心なしか赤く染まっているように見えた。