愛し子だから
私はそのファリルさんの緊迫した空気に少しおされてしまった。
「は、い。お願いします」
ファリルさんに対し返事をすると、その空気は少し緩んだ気がした。
「では、まず。愛し子とは、一精霊に対し、一人しかいません。愛し子と、少し遠回りな言い方をしていますが、動物で言うとこの番というものです。でも、動物の番とは夫婦ということを表していますが、それとは少し違うものを愛し子は指しています。精霊たちの愛し子は表面だけではない、もっと奥の方。魂を超えたところで繋がれています。これはきっとセレス様ご自身で感じられたと思います」
きっとラーレさんとここで会った時のあの衝動のこと。体がとても火照って、すごくラーレさんに惹かれていった。押さえてなければ思わず抱擁を交わしに行っただろう。この感覚がすごいと思ったし、逆に本能を狂わされてしまいそうになりとても怖く思った。
「ラーレ陛下の異変は、物心ついた頃から始まりました。ラーレ陛下のご両親、前陛下らはラーレ陛下にいくら聞いても愛し子がわからなかったのです。勉学やら、武術やらは完璧なラーレ陛下は精霊にとって大切な愛し子だけが足りませんでした。セレス様の気配を察知することができ始めたのは本当に少し前のことでした。そこからのラーレ陛下はとても生き生きとしていました。セレス様に今すごく見せている笑顔も、前までは全く笑わなかったのですよ」
愛し子っていうのはそんなに人を変えるほどの力があるのか…。私はその事実に驚いた。私はラーレ様の表情といえば笑顔しか思いつかない。だけど、私が来るまでは全く笑わなかったなんて、とてもじゃ無いけど想像できない。
「そしてここからが私たち一精霊たちが貴方様を丁重に扱う理由となります。魂ほど奥深くで繋がっているう二人がめでたく結ばれれば、二人の能力は一段と強化されます。ラーレ陛下でいえば、陛下が愛し子と結ばれることができれば、必然的にこの精霊界の発展につながるのです。そして、陛下ほどの偉大なお方の愛し子となるあなた様に対し私たちはすでにもう惹かれています。あなた様の喜びは私たちの喜び。そう思えるほどにもうなっているのです」
そのことを聞いても私は納得がいかなかった。私が愛し子であるから、皆に愛されるって少し気持ち悪い気がしたからだ。でも、そうなってしまったのであれば仕方がない。ネガティブ思考なんて何にもならないのだから、ポジティブにいこう。
「そうなのですね。でも私、愛し子だからって皆様に愛されるなんて少し気持ち悪く感じます。ですので、私自ら、皆様に愛してもらえるよう頑張りますね!」
無条件に愛されるなんて嫌だから、私はみんなに愛してもらえるように努力しよう。
「では、私たちはこれで失礼いたします。おやすみなさいませ」
そう言ってファリルさんは部屋を出て行った。
数時間のことだったのに、だいぶ疲れてしまった。だからなのか、すごくよく寝た。ベットがふかふかだったのもあるのだろうか。まぁ、とりあえずゆっくり寝ることができたのだ。