パンケーキとドレス
「ありがとうございます!また来ますね」
そう言って私たちは魔具店を後にした。もうお日様は真上まで来ている。それに軽くお腹が空いてきてしまった。
「ラーレさんが良かったらなのですが、そろそろお昼というか軽食をとりませんか?」
「えぇ、私もちょうどどこで食べようか探していたところなのです。どこか入ってみたいお店はありますか?」
入ってみたいお店か。全てが全て魅力的なお店なんだけど、どうしようかな。あ、あそこはどうだろうか。
「あのパンケーキのお店が気になります。あ、ラーレさんは甘いもの平気ですか?」
目に留まったのは一際おしゃれで落ち着いた雰囲気のお店だった。よく見るとパンケーキのお店であり、かなり甘そうだった。だから、ラーレさんが甘いもの平気なのか気になった。一緒に食べに行くのであればどちらも笑顔で食べられるものの方がいい。
「ご心配ありがとうございます。甘いものは好んで食べる方なので大丈夫ですよ。さ、入りましょうか」
よかった。ラーレさんは甘いもの平気みたいだ。私は安堵してお店の中へ入った。
「いらっしゃいませ。お二人様でよろしいですか?」
「はい」
「では、お席にご案内させていただきます!」
とても明るい雰囲気で店員さんは向かい入れてくれた。私たちが案内された席は日当たりがいい窓際の席だった。
「とてもいい席に案内してくださりましたね」
「そうですね、とても日当たりがいいです」
ラーレさんはそういって窓の外を向いた。陽の光を浴びるラーレさんは本当に精霊の王そのもので、とても美しかった。
「どうしました?」
「あ、いえなんでもありません」
あぁもう。思わず見惚れてしまった。そりゃあいきなり顔じって見られてたら誰だって不思議に思うでしょ!でも、すごく綺麗で美術品みたいだったなあ。
「どれも美味しそうですね。とても悩んでしまいます」
「ゆっくり選んでください、いつまでも待ちますからね」
そう言われるといつまでも悩んでいたくなってしまうけれど、でも初めてだから一番スタンダードのものにしよう。選んだことを伝えるとラーレさんが店員さんを呼んでくれた。
「料理が来るの楽しみですね」
私が聞くとラーレさんは笑顔で頷いてくれた。それにしても、来るお店間違えてしまったかも。
「はーい、マー君あーんして」
「ふふ、ありがとうユーちゃん」
そこらじゅうから、恋人同士であろう人たちのやりとりが聞こえる。少なからず、一人で来ているお客さんがいるからきっとそうやって売り出しているお店ではないのだろうけれど。ラーレさんを見るにそんなに気にしていないようだから私も気にしないでおこう。
「お待たせいたしました」
「あ、きたきた!」
写真で見た通りのパンケーキが運ばれてきた。とても美味しそうだ。
「すごく美味しそうですね!」
「はい、いただきましょうか」
学び始めて間もない食器の使い方。他の人から見て汚くないだろうか。そんな不安があったけれど、それを吹き飛ばすほどパンケーキは美味しかった。パンケーキはふわふわで甘いし、乗っているクリームは甘いけれどさっぱりとした甘さで食べやすい。
「美味しいですか?」
私の様子を見たラーレさんは私にそう聞いた。そんなにも表情に出ていただろうか。
「はい!とっても美味しいです!ラーレさんも食べますか?」
あ、勢い余っていってしまった。甘いものが好みだと言ったラーレさんはおかず系のパンケーキを食べている。だからだろうか、好みだと言った甘いものを食べさせてあげたくなったのは。
「食べさせてくれるのですか?」
そうラーレさんは首を傾げこちらを見てきた。えっと、これは周りの人たちと同じようなことをするってこと?え、本当に?こうやって悩んでいる間ずっとラーレさんは見てくる。まるでそれを望んでいるかのように。あぁもう!覚悟決めるしかないか。私は一口サイズをナイフで切りフォークに乗せラーレさんに向けて差し出した。
「――!いただきます」
ラーレさんは何故か驚いたような顔をして、私が差し出したものを食べた。なんで驚いたんだ。もしかして試してたのかな。
「どう、ですか?」
「はい、とても甘くて美味しいですね」
咀嚼し終えたラーレさんはとても幸せそうな表情をしていた。それはそれはとても幸せそうな表情で。周りの女性たちを全て魅了するほど。まったく、もう少しラーレさんには自身の顔の破壊力というものを知ってほしい。
「セレスも嫌ではなければ食べますか?」
次は私の番だとも言いたげな表情でラーレさんは言った。断れるはずがないんだよ。小さく私は頷いた。
「はい、あーん」
「あぁ、もう。いただきます」
とても楽しそうにいるラーレさんに少し腹が立ちながらも差し出されたものを食べた。
「!パンケーキってあまいもののイメージでしたが意外としょっぱいものと合うんですね。とても美味しいです」
ラーレさんはとても笑顔で私を見つめた。この店中にいる女性の時間が止まったように感じた。
「はぁ、ラーレさんはもう少し自分の顔を自覚してください」
そう小さい声で言うとラーレさんは頭にはてなマークを浮かべたのだった。
「え、ドレスですか?」
「はい、歓迎パーティのためのドレスを選びましょう。店はもう予約してあるのです。こちらへ」
パンケーキ店を後にすると、ラーレさんはドレスを見に行くと急に言った。確かに朝そんなことを言っていたような気がしたけれど、気のせいにしてスルーしていたんだった。ちゃんと聞いておけばよかった。
「え、でもでも。この間数十着買ったばかりですよ?」
「それは普段に着るようでしょう?今から選ぶのは歓迎パーティ用のものです」
え、あれ全部普段着なの?結構派手で綺麗なものもいっぱいあったのに?え、そんなにドレス必要かな?混乱している私を横目にラーレさんはずんずん足を進めていった。
「こんにちは」
「あ、ラーレ陛下。お待ちしておりました。お呼びくださればいつでも王城に参りますのに」
「今回は、セレスと歩きたかったんだ」
「やっとの思いで見つけた愛し子様だからですか?」
「そうだよ」
急に私の方へ向いてラーレさんは笑顔になる。
「前王城へ来た人の店ではないけれど、ここもかなり腕利きの店なんだ」
「そうなんですね。今日はよろしくお願いします」
そうやってお辞儀をすると、お店の人にとても驚かれてしまった。
「愛し子様!私のようなものにそのようなことしなくて良いのですよ!」
「でも、今日はお世話になりますから、その気持ちです」
「お世話になるだなんてとんでも無い。私たちの方こそお世話になってますよ!とりあえず貴方様に似合うドレスを張り切って仕立て上げていただきます!」
採寸が終わった後、デザイン選びに取り掛かった。
「今の流行りはこういったプリンセスラインのものにフリルやレースをつけるのが人気なのですが」
写真で見るのはとても綺麗だけれど、私に似合うわけがない。
「もうちょっと大人しめなものがいいです」
私がそういうと、色々なラインのドレスを見せてくださった。どれもすごくいいけれど、私は。
「こういう感じがいいです」
私が選んだのはスレンダーラインでパフスリーブのものだった。全体がレースでふわっとした感じが可愛かった。
「かしこまりました。お色味はいかがなさいますか?」
私はピンクブロンドの髪にホリゾンブルーの目を持っている。この髪の色はとてもお気に入りで、母から受け継いだものだった。だから、ドレスの色はこれがいいと思った。
「私の髪と同じ色がいいです」
「承りました。では早速取り掛からせていただきますね!」
自分でこれがいいって言ったはいいけれどそれが私に合うかなんて全くわからないから心配だ。
「大丈夫です、この方々なら誰にでもその人に合ったドレスを作ってくださいますから。心配しないで」
「はい、ありがとうございます」
「帰りましょうか」
店員さん達が忙しなくしている様子をみながらラーレさんは言った。私は顔を見ながら軽く頷く。
「今日はありがとうございました」
「いえいえこちらこそ!精一杯努めさせていただきます!」
「今日は、楽しかったですか?」
帰り道、ラーレさんは私にそう聞いた。もう日は沈みかけていて、かなり時間が過ぎたのを感じさせられた。
「はい、とても。今、初めてこんなに時間が経ったことを感じさせられたのですから」
「ふふっ、それはよかったです。歓迎パーティは1ヶ月後を予定してます。楽しみにしておいてくださいね」
1ヶ月後か。きっとマナーだって色々覚えなきゃいけないんだろうな。ラーレさんの恥とならないように頑張んなきゃ。
初のお出かけで疲れたのかその日の夜はぐっすり眠れたのだった。




