好きな子への接し方を間違えた場合
今でも好きな子にいじわるしてしまう男の子っているのでしょうか。
私をお呼びと伺いました、ブラウエル伯爵様。
お名前を呼ぶようにと?それは大変失礼なことと存じますので、ご容赦くださいませ。確かに伯爵様と私は学園での同級生でありましたが、現在は立場が違います。現ブラウエル伯爵であり、将来デ・コーニング侯爵となられるお方のお名前をお呼びすることはできかねます。
そうではなく、幼馴染として…ですか。7歳の折、初めて両親と共に侯爵家へご挨拶に伺ってから毎年お会いしてはおりますが、我が家はしがない子爵家。恐れ多くもデ・コーニング侯爵家の寄子でございますから、厳密には幼馴染と言えますかどうか…
毎年一緒に遊んでいただろうとおっしゃいますか。年の近い子供たちは交流を持つようにと集められておりましたね。でも遊んでいただいた記憶はございません。
なぜ伯爵様がそのように驚いていらっしゃるのでしょう。まさかあれを遊びとおっしゃるのですか?ダニエル・バウマン様、あなた様までもがそのような。バウマン様こそ伯爵さまの幼馴染であり、今では側近として伯爵家に仕えていらっしゃるではありませんか。侯爵家での会合で毎年ご一緒させていただきましたから、伯爵様の言動については重々ご承知と拝察しておりましたが…あなた様もあれが遊びと思っていらしたのですか?
最初の年に侯爵家のお庭をご案内いただいた時ですか。寒いからお部屋に戻りたいとお願いしても無理やり庭中を引っ張りまわされましたわね。藪の中に突っ込んだり、木登りや川遊びに付き合わされて。せっかく新調したドレスが破れて泥だらけになりまして、二度と着られませんでしたから母には大層叱られました。おまけに帰宅してから高熱が出て1週間寝込みましたの。肌寒い季節に水浴びしたので風邪をひいて肺炎になりかけました。
翌年以降も同様でございましたわ。それどころか大きなバッタを顔につけられたり、カエルやトカゲを背中に入れられたりと、どんどんひどくなりましたわね。
学園に入学後はそんなことはなかっただろうと?当り前でございます。15歳を過ぎてなお、あのようなことを続けていらしたら品性を疑うところでございますもの。
在学中は学生らしい交流を深めたとおっしゃいますか。他に用事があると申し上げても生徒会の仕事を押し付けられ…いえ、協力を要請されておりました。そのために帰宅が遅くなり、宿題や翌日の予習を終えるのは深夜過ぎ。時には徹夜することさえございましたから、3年間寝不足の日々でした。
加えて伯爵さまを慕っていらっしゃるご令嬢方から激しく嫉妬され、嫌がらせを受け、陰で何度悔し涙を流したことか。私は常に分不相応だから辞めさせていただきたいと申し上げておりましたのに、伯爵さまもバウマン様も謙遜することはない、君ならできるなどと見当違いの励ましの言葉をかけるのみで済まされて。
まあ、お二人とも顔色が悪いですわ。どうかなさいまして?
ええ、確かに最終学年での学園祭は盛り上がりましたわ。あれを仕切ったことで皆様に認められた。さようでございますね。私に嫌味をおっしゃる高位のご令嬢方に、丁寧に何度も時間をかけてご説明申し上げましたから。最初は信じてくださらなかった皆さまも、伯爵さまに無茶ぶりされる私の姿に同情までしてくださって、学園祭の準備などに大層力を貸してくださったのです。皆さまにはどれだけ感謝してもしきれないほどですわ。
中でもラロシュ公爵家のヴィオレット様にはわざわざお茶会にお招きいただき、丁寧な謝罪のお言葉までいただきました。ヴィオレット様の大伯母様はエリーサベト王太后様でいらっしゃいますから、本来でしたら私のような者に頭を下げる必要など全くございませんのに。
事の経緯がヴィオレット様を通じて恐れ多くもエリーサベト王太后様のお耳に入り、コルネリア王女殿下の女官にとお誘いいただきました。身に余る光栄と家族一同喜びに震えております。両親からも王女様に誠心誠意お仕えするようにと繰り返し言い聞かされております。
え?来年には辞めるのだろうと?まさかそのようなことはいたしません。
来年にはコルネリア王女殿下がフレデール王国の王太子妃として嫁がれます。当然私は王女殿下付きの女官として随行いたしますとも。両親に言われずとも一生コルネリア王女殿下にお仕えする覚悟でございますから、かの地に骨をうずめることになるかと。
結婚、でございますか。あちらの国でご縁がありましたら。もちろん女官として働き続けることを認めてくださる方というのが最低条件でございますし、私が嫌がることを無理強いしない方…が理想ですわね。
明日コルネリア王女殿下のもとに出仕いたしますので、準備もございます。これ以上のお話がなければ下がらせていただいてもよろしゅうございますか。
それでは、これで失礼いたします。
最後まで書いて気づきましたが、主人公の女の子、名無しでした。でもまあ、一人語り形式なので不要かなと。