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衝撃だらけ

「ありがとう、カーリー。でも、お腹の赤ちゃんの名誉の為に言っておきたいんだけど、たとえ赤ちゃんがいなくてわたし一人だけでも、わたしのお腹は二人分以上の栄養を欲するの」

「レディはそうでなくってはね。面白くないわ。ほら、レディって身分に関係なく痩せようとするじゃない。スイーツは敵、だなんて言って。結局、挫折するのに。それで、ガマンした分よりいっそう食べてしまうのよね。結果、痩せようと決意する前より太ってしまうわけ」

「残念だけど、わたしは心が弱いから控えようとか断とうとか、とてもじゃないけどかんがえがおよばないわ。それよりも、『食べた分だけ動けばいいわ』って都合よく解釈してしまう」

「わたしもよ。それで結局動かない」

「動かない」


 彼女と言葉がかぶってしまい、同時に笑ってしまった。


 ひとしきり笑い、チョコレートクッキーを五枚いただいた。


 とりあえず満足したわ。



「これで安心して本題に入れるわね」


 カーリーが満足そうにうなずいた。


「ええ」


 もちろん、同意する。


 一瞬、わたしってばまるで子どもみたい、と恥ずかしくなった。


 でも、仕方ないわよね。カーリーがせっかくチョコレートクッキーを準備してくれたのに、ムダにしてしまったらその方が失礼だから。


 彼女に対しても「アーチャーの休憩所」に対しても、それからチョコレートクッキーに対しても、失礼なことはしたくない。


「ユイ。まず、いいことを伝えるわね。ただ、これはあくまでも推測の域を出ないの。本人を診察してみないと断言は出来ない」


 大きくうなずいた。


 いいことだったら、いくらでも伝えてほしい。それが確実ではないにしても。


「あなたのご主人。つまりパウエル公爵は、病ではないわ」

「ええっ?」


 想像もしなかった彼女の言葉に驚かされたというよりか、よく理解することが出来なかった。


「厳密には、もともと病ではなかったということよ」

「ごめんなさい、カーリー。あなたの言うことがよくわからないの」

「当然よね。こんなこと、くだらないミステリー小説でぐらいしかみたことがないんですもの。先に一つ教えてちょうだい。あなたの義父母も病で亡くなったと言ったわよね?パウエル公爵と同じような症状だったんじゃない?」

「ええ、その通りよ。つい先日、その病というのは遺伝なのかしら?って考えていたところよ。でも、それもお義母かあ様もかかったのだとしたら、遺伝プラス伝染性があるってこと?だったら、わたしも……」


 そうよ。どうしてそのことに思いいたらなかったの?


 アントニーやお義父とう様の病が遺伝だったとしたら、お義母かあ様はお義父とう様の病が移ったことになる。ということは、わたしはアントニーの病が移ったのよ。


 ちょっと待って。


 じゃあ、アントニーも死んでしまうということよね?


 じゃなかった。ついさっき、カーリーは彼は病じゃなかったって言わなかった?


 いったい、何がどうなっているの?


「ここからが問題なの。その問題は、わたしのような医師の手に負える問題じゃないの」

「ええええっ?あなたの手に負えない?じゃあ、どうすれば……」


 次から次へと衝撃すぎる。


「この前預かった薬、パウエル公爵の分とあなたの分だけど、どちらも薬じゃなかったわ」

「く、薬じゃない?」


 驚くのも飽きてきた。


「すくなくとも体を治す為のものじゃない。反対に体力や気力を失わせ、じょじょに命を削るものなの」

「つ、つまり毒?」

「劇薬じゃないし、二、三度飲んだからってどうなるわけじゃない。だけど、さっきも言ったように長期的に服用すれば毒になって命を奪いかねない。ユイ。あなたが服用していなかったことは、ほんとうに不幸中のさいわいよ。あなたにさほど影響がなくても、お腹の赤ちゃんは助からなかったはずだから」


 情報量が多すぎる。しかも、内容がハードすぎる。


「クイン医師は、パウエル公爵家全員を殺した、あるいは殺そうとしている。これはもう、わたしごとき街医者の手に負える内容じゃない。だけど、わたしの推測が正しいかどうか、というよりも裏付けができるかなんだけど……。とにかく、パウエル公爵を診察してみるのも方法だと思うの。ユイ、彼となんとか会えないかしら?それも早急に。もしも推測が正しくって、クイン医師に気付かれでもすれば、つぎはどんな手段に訴えてくるかわからない」


 カーリーは、長椅子の背もたれに背中を預けた。


 いまはもう、理解している。もちろん、彼女の推測を全面的に肯定するわけではない。だけど、そう言われてみれば、と心当たりが次から次へと出てくる。


 ほんと、ミステリー小説そのままだわ。


「わかったわ、カーリー。あなたがマークのお姉様でよかった。それを利用すれば、大して違和感なく連れて来ることが出来る。今日、彼は屋敷で書類仕事をしているの。いったん屋敷に戻って連れて来るわ」

「クイン医師の診察は?」

「二人とも一度も受けていない。彼が診察に行かないよう、二人で出かけたり用事をしてごまかしているの」

「だったら、やはり早い方がいいわね。パウエル公爵が診察に行かなくっても、クイン医師が不審に思ってやって来るかもしれない」

「すぐに行ってくるわ」


 宣言とともに勢いよく立ち上がった。


「ユイ。あなた、すごい行動力ね」


 カーリーは、なかば呆れている。


「ええ。それがわたしだから」


 そして、別室でのんびり休憩しているマークのお尻を叩き、屋敷へ戻った。


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