第八話 お前はハイドだ
「父さんっ!!!」
父さんはあの男の加護により触れられていた胸部を中心に首の下から腹部にかけて体が腐っていた。
「待ってて父さん……今から村医を呼んでくるから……」
俺は涙を堪えながら戦いの疲労や傷全て忘れて助けを呼ぼうと足を踏み出した。だが
「いや、呼ばなくて良い。自分でも分かっているんだ。もう俺は助からないと……」
「そんな……父、さん……」
「こんな遺言のような形になってしまって本当にすまない……もう意識を保っているのすら限界が近いんだ。一度しか言えないから、よく聞いてくれ。メリスには、若い時に連れ回してすまない。残りの人生は自由に生きてほしいと伝えてくれ。村の皆には、今まで世話になったと。そしてハイド。立派になったな……本当によく戦った……お前は俺の自慢の子だ」
「そ、そんなこと……」
「子供が一丁前に謙遜すんじゃねぇ。笑顔で両手をあげて喜べば良いんだ。何せあいつはデウスのメンバーだ。No,10と書いてあったペンダントがあったから間違いないだろう……デウスのメンバーを倒したなんて本当に凄いぞ……よくやったな。ハイド……」
「でも、それは俺1人の力じゃ……」
「確かにそうかもしれないな。だがとどめを刺せたのはお前がいたからだ。誰一人として欠けたらこの勝利は無かった……誇れ。俺が補償する……ぅ……」
「父さん!もう……」
「俺の事は気にすんな……誰だって遅かれ早かれ死ぬ。だから生き残ったお前が出来る唯一の弔いはな、迷う前に進むってことだ」
「……」
父さんの命は溶け落ちる寸前の蝋燭の灯のように消えかかっている。あの事を伝えるなら今しかない……!今ここで伝えないと一生後悔するだろう!
「父さん、俺実は元々この世界の人間じゃないんだ……前の世界で死んでこっちの世界に来て……だから俺は本来の"ハイド"じゃないのかもしれないってずっと……言えなくて……」
父さんは動かない。まさか間に合わなかったのか……?
「安心……しろ。お前は……"ハイド"だ」
俺は泣き崩れてしまった。この6年間誰にも言えずに抱え込んできた物が父さんの最後のあの一言で俺は救われたんだ……
「最後までかっこよかったよ……父さん」
そうして俺は気力で保っていた意識を、手放した。
ここはデウスの各世界にある支部の一つ。No.5からNo.9を集めた会合が開かれていた。
「よお。揃うなんて珍しいねぇ」
「緊急招集なんてどしたのーー。No.5」
「良いからさっさと用件を言え」
「はぁ……」
「私も暇ではありませんのでね。早く終わらせてくれると助かりますわ」
「今日お前らに集まってもらったのは他でもない。No.10が死んだってことだ」
「へぇーー」
「ふん。あんな村1つ滅ぼせないとは落ちたものだな」
「んなこと言ったってしゃーねぇじゃん?雑魚はどう頑張っても雑魚だしさ!」
「まぁそれはどうこう言わないが……緊急招集と聞いたから来たは良いが、この程度の伝達か。適当にそっちで対応しておけば良いだろうが」
「いや、なに。それだけならわざわざ呼ばんさ。No.10が対峙したあのガキ、何か匂うんだよなぁ」
「匂う……か」
「ひょっとしたらNo.1様の…」
「今はあっちの計画のこともある。そんなくだらんことを考えている暇はない」
「用件はそんだけ?解散かな。じゃねーー」
「我も帰る」
「私もあの子達の面倒を見ないといけないですわ」
「帰ってねよ……」
「……フフフ。ハハハ!あの少年!やはり俺の目に狂いは無い!次なる目標はあいつを育てることだ!そうすれば私も三皇に!……とっいかん。つい一人で盛り上がってしまった。」
そうして支部に男の高らかな笑い声が反響する。
「待っていろよ……」