第七話 爆発の先にあるものは
俺達の周りに水が渦巻いていると理解したのは、シーオと2人であいつを倒すと叫んだ瞬間のことだった。目の前の男は呆気に取られた表情をしている。勿論俺とシーオも……
「何だ……?この反応……まさか!」
『炎色オーラ•紅!』
パァン!
直後、破裂音と共に俺達の周りの水を渦巻いていた水は広場全体に雨を降らせるように散った。簡潔に言うと爆発が起きたのだ。俺とシーオのあの男を倒したいと言う気持ちが一つになったから化合したのか……
「ど、どうなった……」
辺りを見回すとうつ伏せになったまま動かないシーオと足を怪我しても尚立ちあがろうとしているあの男が見受けられる。全員至近距離で喰らったのだから当然と言えば当然か……このままだと俺達は本当に……
「だ、誰か……!」
心からの叫びだった。俺は蹲った状態のまま動けない。シーオもおそらく意識が無いだろう。それに対してあの男はまだ動けるようだ。このままでは……
「この私をここまで追い込むとは……咄嗟に炎色オーラを使って正解でした……それにしても、自分の見る目の無さに泣けてきますね……どうやら君達を甘く見ていたようだ。そんな若い芽は早めに摘んであげないとですね!」
そうしてあの男が俺に向かってゆっくり歩いてくる。俺はその様子をただ地面に這いつくばって見上げるしかなかった。
「今度こそ本当に終わらせてあげましょうねぇ!」
俺は本能的に目を瞑った。現実から目を背けたかったのかもしれない。だが、直後に
「ハイド、シーオちゃん。遅れてすまねぇな」
「ぁ……父さん……」
「誰ですかあなた。本当にどいつもこいつ途中で邪魔ばかりしてくれますね……」
「邪魔……か。確かにお前からしたらそうだろうな。だから俺もそっくりそのまま返してやるぜ。てめぇは邪魔だ!良い大人が子供いじめて悦になるんじゃねぇ!」
「それは心外ですねぇ。これはれっきとした教育。貴方の方こそもう少し丁寧な言葉遣いでもしたらどうです?」
「もう喋るなっ!」
そうして父さんとあの男は戦いの火蓋を切った。先制攻撃は父さん。あの男の背後に素早く回り背中に向かって正拳突きを仕掛ける。対するあの男も体を反転させ持っている短剣を投げつける。父さんは咄嗟に正拳突きの体勢から回避に変えなければならなかったため短剣が左肩に直撃し突き刺さっている。
「がぁぁぁ!!」
「その短剣はもう必要ありません。左肩が痛いですかね?苦しいですかね?ならばすぐにとどめを刺してあげましょう」
「この程度でくたばるかよ……」
「暑苦しいですねぇ。私そういうの苦手なんですよ」
このままだと父さんまで……と頭の中で最悪のシミュレーションをする。だが父さんは短剣が突き刺さっているにも関わらず本気で走り出した。傷口を広げる特攻のような作戦だが、あの男は意表を突かれたようでかなり焦った表情をしている。
「だらぁ!!!」
そしてあの男の腹部に正拳突きを喰らわせる。あの男はそのダメージで口から血を吐いた。表情は互いに鬼の形相だ。
「ガハッ……このゾンビめ……そこまでの傷を負いながらまだ足掻くか……」
「ああ……足掻いてやるさ。お前を殺すまではな!」
「だが貴様はこれで終わりだ……!」
そう言ってあの男は父さんの胸部を掴み家を腐らせた時と同じ技を唱える。ま、まさか……
「このまま朽ちろ!」
「グッ……だらぁ!」
あの男が手を当てた部分から徐々に父さんの肉体は腐っていく。対する父さんもあの男の顔を何度も殴り必死に抵抗するがあの男の手は離れない。
「こ、このままだと父さんは……」
俺はこのまま見ているだけで良いのか……?前世の俺ならそうしたかもしれない。だが今は違う。助けたい人が、守りたい人が居るんだ!このまま終わってたまるかよ!
「これを使えば……」
そうして俺は立ち上がった。もう骨なんて何本折れてるか分からないがそんな事は知ったことじゃねぇ!父さんを、シーオを守るために俺は戦うんだ!そうしてあの男と父さんの所までゆっくりと、しかし確実に進む。幸いにもあの男からは気付かれていないようだ。ならば!そうしてあの男に到着した俺は最後の力を振り絞って……
「な……何故私の心臓が……」
俺は包丁を男の心臓に突き刺した。あの男は倒れてビクともしない。俺はあの時家の台所から使えそうな包丁を借りた。護身用ナイフを投げれたのはそのためだ。しかしタイミングが無く今の今まで隠し持つ形となったが、役に立ってよかった。だけど今は……
「父さんっ!!!」
カガクノジカン
【水:H₂O】
2つの水素原子と1つの酸素原子による最も普遍的な化合物。化合する際に大きなエネルギーが発生し爆発する。そして共有結合(簡単に説明すると原子同士の強い繋がり)によって繋がれているため非常に安定している。比熱容量(一定の条件でその物質が温度を上げるのに必要な熱量というかエネルギー)が大きく、「温まりにくく冷めにくい」という性質がある。この性質による陸と海の温度差で海風や陸風というものは生じる。
【炎色反応】
アルカリ金属やアルカリ土類金属、その他銅などの特定の金属を炎の中に入れることによってそれぞれに特有の色を示す反応。この性質は身近なものだと花火に使われている。今回のリチウムは紅色を示す。