第二話 加護と特訓
その日俺は1人裏庭で加護の特訓をしていた。というのも、加護者は全人口の数%にも関わらずこの世界における加護というものは言語と同じくらいに大きい存在らしい。何故ならば加護は生活に応用されており加護学という専門の学問まで存在する程だ。そんな加護学のメッカと言われる場所が王立エレテール学園だ。ここは加護者を育成する学園で、初代エレテール王が創立し、現在も世界各国から優秀な加護者が集まるという、加護学においては間違いなく世界No. 1の学園なのである。その話を父から初めて聞かされた時、俺はその学園への入学を目標にこうして秘密の特訓をしているわけだが……
「あ〜もう!全然上手く行かねー!」
この通りである……不甲斐ない。
「そもそも水素は単体だとめちゃくちゃ不安定だし無色無臭だからなぁ……はぁ……言ってて悲しくなるぜ。だが、加護というものの仕組みはある程度理解出来た」
どうやらこの世界は加護としての効果は基本的にその元素の単体としての性質となっているらしい。そしてその加護そのものは現実世界の物質とは交わらないと言うことも分かってきた。
「簡単に説明すると水素というものは単体だとめちゃくちゃ不安定なので酸素と化合して安定した水になりたい。そしてその時に大きなエネルギーが発生し爆発する。だが俺の加護そのものと空気中の酸素とでそれが起きないとなると加護と現実の元素は別のものと見て良いだろう。って俺は誰に言ってんだ」
そして父さんに聞いた話によるとこの世界における化合というものは加護者と加護者が心を一つにする事で合体するというものらしく、それも一時的なものだそうだ。感覚的には戦隊物の合体変身のようなものだろう。しかしそこまで分かったは良いが実際は全く進捗が無い。そもそも加護というものの感覚が全くと言っていいほど掴めないのだ。体の中からエネルギーのようなものを感じる気もするがそれの正体も分からない。前世には全く無かった概念なので当然といえば当然なのだろうが。そんな事を考えていると聞きたくのない声が聞こえた。
「よぉハイド。おめぇ1人でなーにやってんだ?」
そう言って柵の外に佇むのはヘリムだ。怒りっぽく人とも関わらないので村の中では厄介者扱いされている。
「いや、加護の特訓だけど……」
「ひゃははは!お前の加護って確か、水素だったかぁ?無理無理!特訓したところで意味ねぇよ!それにお前爆発すんだろ?どっか行って消えちまえよ」
「……は?」
「だってそうだろ?お前知らねぇのかぁ?水素の加護は所謂"ハズレ"なんだよ!」
「ハズレ……だと?」
怒りの感情が芽生えるが抑える。自分でも心当たりがあるからだ。水素の加護はハズレだということに。
「まっ、無駄だけどせいぜい頑張れや」
そう吐き捨ててヘリムは帰っていった。全然気にしてなんかないけど……
「あぁぁぁ!!悔しいぃぃぃ!!」
これでも合計30年以上生きてるのだが、あんな努力を小馬鹿にする言い方をされると無性に腹が立つ。既に空はオレンジ色に染まり特訓の時間も潰れるしで踏んだり蹴ったりだ。
「頑張ってるのに……」
「ハイドー!そろそろ夕飯よー!」
母さんに呼ばれたので家に入って大好物のクリームシチューを食べたが今日はあまり美味しく感じなかった。そして今から風呂に父さんと入る。その時、窓から見える空は曇っていた。
「ハイド。お前夕飯の時に元気ないように見えたぞ。何か悩みがあるなら遠慮なく父さんに言え」
体を洗い、風呂に浸かるなり父さんがいきなりこんなことを言ってくるものだから驚いてしまった。
「いや……別に……」
「なんだ。やっぱり悩みがあるんだろう?」
「えっと……」
言うか迷ったが打ち明けた。エレテール学園に入学したいという目標。ここ数ヶ月の特訓とその成果。そして今日のヘリオとの出来事全て。
「そうか」
「うん……どうしたら良いのか分からなくて……」
「懐かしいな」
「え?」
「いやぁ、実は父さんもお前と同じ水素の加護者なんだ。そして今のお前ほど若くはなかったが、俺も加護を扱えるようになりたいって思って特訓したのさ」
「父さんもそんな時期があったんだ」
「だけど親からはそれが気味悪がられた。何故なら水素の加護者は暴走すると爆発を起こす。昔から水素の加護者が自分の加護を扱おうとしては暴発させ時には自爆して死んだ奴も居たらしい。それに子供は特に制御が効かなくて暴走しやすく危険だから隔離されたって話も聞くしな」
「そうだったんだ……」
「勿論爆発だから周囲の建物を破壊したりもよくある話。だからいつしか水素の加護は加護なしの方がマシな禁忌の加護とまで言われるようになってしまったんだ」
「禁忌って……」
「だからムカつくがヘリムの野郎が言ってる事も事実なんだ。水素の加護は無い方が良いとな。どんなに努力をしたって結果はちっともついてこねぇ。だから俺は加護をきっぱりと諦めて体を鍛えた。時には損切りも大事だからな」
「損切り……か」
俺はそんな考え方出来るだろうか……やっぱり父さんも俺に加護を諦めてほしいと思っているのだろうか……
「まぁでも俺は止めはしないぜ。ガキの間は何回失敗しても許してやる。好きなだけ目標決めて夢追ってそれでもダメなら頭を撫でてやるのが親ってもんだ」
「ありがとう……父さん……」
「それでもこの先辛いことがあったなら、この言葉を思い出せ。『どんな逆境でも正しく生きろ』ってな。って格好つけすぎか」
「はは、父さんらしいや」
俺はいつか父さんにあの事も伝えなくてはいけない……だが今は父さんに打ち明けて心から良かった思う。その時、窓の外は星が満ちていた。
今回から物語に出てきた科学用語とかをこちらの後書きで軽く解説していきます!(不定期)
カガクノジカン
【水素:H】
原子番号1の最も軽い元素。第一族元素で唯一の非金属元素でもある。基本的には無色無臭だが、燃えると爆発するという危険な性質も持っている。そして水に溶けにくい性質があり、理科の時間でもやったであろう水上置換法で集めることが出来る。また、宇宙全体で見るとほとんどが水素で構成され、9割を占めている。しかし質量は軽いため75%程度しか無い。
水素の解説は今後も複数回行っていく予定なので、今回はこの程度で!