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第九話 あの日の傷

……夢を見ていた。遠い昔の。











「せんぱい!本当なんですかっ?!」


「ああ」


「そんな……だって……」


「これは俺自身の決断だ。俺を必要としてくれている場所に行くだけだ」


「け、研究の内容聞きましたよ……先輩ならもっと他の研究チームにだって!」


「……話はそれだけか」


「待って!せんぱ……」











その瞬間に目が覚める。




「ハァ……ハァ……夢か。それにしても嫌な夢だ……」




視界は見覚えのない……天井か?って事は俺は今寝ている……のか。そうして体を起こそうとするが起き上がらない。というより動かないという表現の方が正しいか。無理に動かそうとすると体に激痛が走る。




「……っ……これは……」


「やぁハイド君。目は覚めたかな?」




ドアの開閉音がした後に聞き覚えのある声によって話しかけられる。




「シーオのお父さん……」




そう、シーオのお父さん。名をシジュといつ。




「無理に体を起こさなくて大丈夫。君はあの日から丸2日寝ていたんだよ。ロイドさんに続いて君まで……もう目を覚まさないんじゃないかって不安で仕方が無かった。だが今は意識が回復したことが素直に嬉しい」




あの日……というのは敢えてそういう表現をしてくれているのか、シジュさんの優しさ故の行動なのだろう……




「え、えっと……あれからどうなったんですか?」


「君のお父さんは……村で葬儀が執り行われることとなったよ。彼のおかげで犠牲者は最初の2名に留まった。ここから復興していかなければな……そしてシーオは、まだ目を覚まさない……」




そうして泣きそうな顔になるシジュさん。だが子供に泣き顔を見せまいと必死に堪えているのが伺える。一人娘だもんな……俺だってもちろん心配だが、シジュさんの心境はそれ以上に不安でたまらないだろう。




「そう……ですか」


「あの日……シーオのやつ……ハイドが心配だからって言って……止めたんですけど、頑なに言うものだから……」


「そう……だったんですね……」


「ハイド君が気にすることじゃあないさ……それで、これから君はどうするんだい……?」




どうする……か。まだ父さんが死んだということに対して実感が湧かない……現実味が無いというか……でも、やっぱりあの戦闘の傷は……俺の体に刻まれている。失ったものはどうすることも出来ない……俺は未熟だった。俺がしっかりしていれば……そもそも今回の勝利だって、シーオと父さんが途中から来てくれるイレギュラーによる勝利で……俺自身は何も凄くない……父さんのように何かを守ることは出来なかった……俺は守られたんだ……




生き残ったお前が出来る唯一の弔いはな、迷う前に進むってことだ




「そう……だよね。シジュさん……!俺、強くなりたい。守りたい人を……守れるように」


「……っ!」











「シジュ!俺さ!強くなりたいんだ!」


「急にどうしたんだよ。ロイド」


「守りたい人が出来たんだ」


「まさか惚れやがったか?」


「そ、そんなんじゃねぇし!」


「嘘つく時に顔を逸らす癖」


「そ、逸らしてねぇよ!」


「でも……守りたい人かぁ」


「もちろんその中にはお前も含まれてるけどな!」


「……ありがとう」











「守りたい人……か」


「はい」


「……良い目だ。澄んでいる。ロイドと同じ目をしている」


「ありがとう……ございます」


「こんな時に気の利いたことも言えなくてすまないね……」


「い、いえいえ!お気になさらず」


「そういえば……昔ロイドがチラッと言っていた話なんだけどね。この村の周辺のロゲンの森の奥地に、加護の大精霊が居ると……その大精霊は、自分が認めた存在にのみ素晴らしい力を授けると。本当かどうか分からないが……少しでも君の助けになれば嬉しいよ」


「ロゲンの森……加護の大精霊……でもなんで俺なんかに……」


「僕は君が毎日のように加護の特訓をしているのを見た。応援しているよ……ハイド君。君なら……この世界の理不尽にだって、立ち向かえるさ……」




そう言ってシジュさんは部屋から出ていった。




「そうだ……俺を信じてくれている人がいるんだ……」




体が回復したら……動こう。今はしっかり体を休めよう……命あっての物種だからな。











「全く……ロイドとハイド君はどこまで似ているんだろうね。ロイド……見守ってやれよ。ハイド君を。いや違うな、世界でただ一人の……息子を」

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