第1話 これからどうしようか
――――この世界では10歳になると、神様から祝福として【スキル】を授かる。
――――そして【スキル】はその後の人生を左右するほどの力を秘めていた。
――――それ故に【スキル】は時に希望を与え、時に絶望を与える代物でもあった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
冒険者ギルドを後にしたジンは、あてもなく彷徨うように歩いていた。
実際、辺境の片田舎から単身で冒険者となった彼にあてなどなかった。
「はあ……。これからどうしようかな……」
夕焼けに染まる空を見上げて、途方に暮れたように独り言を漏らす。
ジンの視線の先の彼方には、彼の生まれ故郷の村があった。
「いいや、こんなことで諦めるもんか。まだ、オレの冒険は始まったばかりなんだ」
ジンは望郷に思いを馳せつつも、かぶりを振って自身を奮い立たせる。
長閑で平和な故郷はジンも大好きだが、それ以上に夢と浪漫に溢れた『冒険者』という存在に憧れていた。
冒険者になるために幼い頃から読み書きを覚え、村の大人たちから社会のことを学んだ。
10歳になってスキルを授かると、日々をスキルを使いこなす為に費やした。
そして冒険者ギルドへ登録可能な13歳になると同時に故郷を飛び出し、ここ王都【ナイヴェル】へとやってきたのだった。
当時は誰もが無謀だとジンを引き留めたが、その時の彼は聞く耳を持たなかった。
そして案の定、ジンは現実という壁の前に打ちひしがれることになる。
というのも、ジンが授かった【トラップマスター】というスキルは、現役の冒険者たちにとってあまり歓迎されるスキルではなかったからだ。
冒険者たちはギルドからの依頼を請けてこなすという仕事柄、どうしても魔物退治などの荒事が多い。
そして実力者ともなれば偏在するダンジョンへ潜り、レアアイテムの回収業務なども請け負うのだが、ダンジョン内に蔓延る魔物と戦う都合上どうしても戦闘系スキル持ちが重宝されていた。
だからジンの『罠を仕掛ける』というイメージが先行するスキルは、どの冒険者パーティーからも受け入れられなかったのだ。
しかも、そんなジンに追い討ちをかけたのは冒険者ギルドのシステムだった。
まず、冒険者ギルドは冒険者たちを実績や活動期間に応じてランク付けしていた。
そして、冒険者たちの安全面を考慮して、Bランク以下の冒険者には単身の依頼を斡旋しない。
また、ギルドに登録した冒険者は一律Eランクからのスタートとなっている。
そして駆け出しのジンはEランクであり、パーティーにも属さないため、依頼を受けることすら叶わなかったのだ。
そんな彼に転機が訪れたのは、偶然に偶然が重なった奇跡だった。
宿に泊まる路銀も乏しいジンが、王都の外で野宿をしていた時だった。
護身用に仕掛けていたトラップに、たまたまレアアイテムを採取できる魔物が掛かったのだ。
路銀を足したかったジンは魔物をギルドに買い取ってもらったのだが、その時にたまたま居合わせたのがブラカスだった。
その時のブラカスはジンが『若いのにできるヤツ』と勘違いして【レックレス】へと引き入れたのだ。
それから2年。
ジンは今日まで【レックレス】として冒険し、猪突猛進なメンバーたちが死なないよう頑張ってきた。
しかし、結局地味すぎるジンの活躍は誰にも理解されることなく、今に至っていた。
パーティーに在籍していた間に冒険者ランクはDに上がっていたが、それでも単身の依頼は請けられない。
しかもギルド内であれだけ悪評を広められたのだ。
今後ジンと組もうというパーティーは皆無に違いない。
先行きが暗すぎることに、ジンは何度目かわからないため息を吐く。
「取り敢えず、今日は野宿にしよう。お金は大事に使わないとな」
王都はどんなにボロい宿屋でもそれなりに金額が張る。そして安い宿は野宿と大差ないぐらい治安もよろしくない。
さらに最近はブラカスが無茶な依頼ばかり請けていたせいで、失敗が続いて財布の中身が寂しい。
ジンは心もとない財布にもため息を吐くと、夕日の沈んでゆく城門の外へと歩いていくのだった。