第12話 ダンジョンに到着
王都出てから歩くこと1時間。
「ふう、やっと着いた」
「へえ、これがダンジョンなんだね」
ジンとアフィンの二人は目的のダンジョンを目の前にして足を止めると、外観を観察するように眺める。
鬱蒼とした森の中で異質な存在感を放つのは、灰色の煉瓦を積み上げて作られたような建造物だった。
一辺が5メートルほどの正四角形という、一見すると人工物にしか見えない造形だが、その精密さは不気味なほどで却って現実感に乏しい。
ジンたちから見て正面には入り口と思しき両開きのドアが付いているが、装飾のない無垢なそれは取っ手が付いていなければドアと認識すら出来ないだろう。
そんなドアの前には二人の衛兵が立っていた。
国章のエングローブが施されたプレートアーマーを身に纏い、ヘルムの隙間からジンたちの様子を窺っている。
アフィンは内緒話をするようにジンの耳元に顔を寄せた。
「先輩先輩、ちょっと質問していいかい?」
「いいよ後輩、なんでも聞きなさい」
「なぜダンジョンの前に王国の衛兵がいるんだい? 彼ら、ダンジョンに潜る資格ないはずだよね?」
「ああそれはね、ダンジョンは王国の管理下にあるからだからだよ」
ダンジョンというのはある日突然現れる存在だ。
そしてダンジョン内部で生み出される魔物たちは、ダンジョンの周囲に被害を与え始める。
故に国防という観点においてダンジョンは国が管理している────建前上では。
実際のところ、ダンジョンという存在は国にとって資源の宝庫だ。
本音で言えば国主導の組織を立ち上げて資源の回収を行いたいが、それはあまりにもコスパが悪い。
国で人を雇うということは最低限の衣食住の保証もしなければならないし、ダンジョンに潜ることに優れた人員の確保も課題となる。
またダンジョン攻略という危険を伴う行為に対しての対価や、攻略失敗時に伴う補償もバカにならない。
そこで、民間組織である冒険者ギルドの誕生である。
古今東西から夢とロマンを求めて集まる冒険者たちは本質的に歩合制であり、魔物を討伐したり資源を採取しない限り無給だ。
冒険者が手に入れた資源は基本的に冒険者ギルドが買い取るが、冒険者ギルドは営利企業の側面も持つので手数料を取る。
その手数料は当然国の税の対象になるので、冒険者が活躍すれば活躍するほど国は税を徴収できるわけだ。
さらにギルドが得た資源は基本的に商人によって買い取られるが、当然そこにも税がかかる。
そして商人が顧客に資源を卸す際にまた税がかかり、資源が加工されて消費者の手に渡る際にも税がかかる。
つまり、国は直接ダンジョンを攻略せずともダンジョンを軸にした経済圏の形成により多額の税収を得ることができ、ロマンを求める冒険者たちはダンジョンを攻略できる権利を得るという、一応はウィンウィンの関係が成立しているのだ。
しかし、国も国防面での体裁を繕う必要があった。
なので騎士団所属の兵を各地のダンジョンに派遣し、民間人がダンジョンに迷い込むことを未然に防いだり、ギルドに登録されていない冒険者=盗掘者の侵入を防いだりしている。
また、ダンジョン内から魔物の大群が溢れ出るような事象、いわゆるスタンピードが発生した時に騎士団やギルドに報告をするなど、有事の備えとしても機能している。
「……だからあの衛兵たちはダンジョンの前で警戒しているんだ。分かったかな、後輩?」
ジン先輩による講義を静聴していたアフィンは額をノックしていたが、無駄にキリッとした目つきで衛兵たちを指差す。
「なるほど。つまり彼らは税金泥棒ってことなんだね?」
「解釈の仕方が穿ちすぎ。失礼だから滅多なことを言うのやめてもらっていい?」
公権力に何か思うところでもあるのか、爽やかに毒を吐くアフィンだったが、ジンに嗜められて肩をすくめる。
「まあ僕の解釈はともかく、ちゃんと説明してくれるなんて、ジン先輩は可愛いだけじゃなくて優しいね」
「あっ! くそっ! しまった! 後輩思いの自分が憎らしいっ!」
そして話題を逸らすように揚げ足を取ると、地団駄を踏む彼の背中を押しはじめる。
「ほらほら、無駄に体力を消耗させてないで【最強⭐︎美男ズ】の記念すべき初ダンジョン攻略に挑むとしよう」
「もう次は絶対に、ぜ〜ったいに、説明しないんだからなっ!」
そしてジンはアフィンにはぐらかされたまま、肩を怒らせて歩き出すのだった。




