旅行は移動している時も楽しい
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次の日
もはや日常となった討伐クエスト。例によって悪魔の要求で今日はバイトライオンだ。ライオンというだけ物騒だが、コイツが真に怖いのは食欲であり、基本は狩った肉を食べるのだが、このライオンは食欲が底無しでどんな大きい獲物でも狩り尽くしては食べ尽くすという。そんな特徴からこの世界では大食いの王と呼ばれるほどだ。
まぁ、でもいつも通り右手から火炎放射で終わりだろう
俺は荒野で毛繕いしているバイトライオン目掛けて右手を前に出す
「ファイヤー‼︎」
右手からボォンという爆発音を出しながら一直線に豪炎が放たれた
「よーし!今日一匹だけだし、これで終わり…あれ?」
俺がクエスト完了を確信し、両腕を天に伸ばしていると、それはもう舞のように綺麗な身のこなしで火炎放射を避けてこちら向かって砂埃巻き上げて走っていた
「ちょっ⁉︎」
俺は慌てて右手をバイトライオンに翳し、再び火炎放射を放つ
「こっち来ないでーー‼︎」
さっきファイヤーと息巻いていた奴が情け無い…だが人間こんなもんである
しかし再び放った火炎放射も美しく避けられ、次の瞬間には牙が目の前まできていた。俺は声は出さずに目を閉じ、不思議と死を受け入れていた。
人間は死ぬ時こんなもんである
バシュッ
「ガルゥゥ…」
ライオンの掠れた声に目を開けると、血が体全体に飛び散った。
そして倒れたライオンを足で踏みつけにしてる銀髪少女の姿があった
「えっ…?君どうして…俺を狙うんじゃ?」
ワンテンポ間をおいて口を開く
「奇襲で一撃で暗殺すると言ったはずです。その前に死なれては流儀に反します。ですからエクソシストの仲間にも貴方たちのことは言ってません。それに…既に私がつけていることにその中の悪魔には気づかれていましたから」
この悪魔やけに静かだと思ったら…!
「なんで言わなかった⁉︎」
『……なんとなくだ』
「お前まだ昨日こと引きずってのか⁉︎」
意識を向ければ心の声までは分からないが、大体のシカの感情は伝わってくる
「わかってんだよ!今お前がちょっと楽しんでんのはよ!」
「それでは、これからもエクソシストの白イ炎を貴方に喰らわすチャンスを狙い続けます」
ウルイはそう言うとその場から姿を消した
『さぁ、ギルドに手続きしに行くぞ』
どいつもこいつも…!
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
ギルド到着
クエスト報告を終えた俺は併設された飲み屋で美酒をシャープ大蛇の唐揚げをつまみながら飲んでいた
ちなみにシャープ大蛇の肉は歯触りはふにふにとしていてクセがなく肉と魚の間のような味だ
「美味え!命の危機の後の酒も最高だな!」
『昼間からいいのか?』
「何言ってんだ、好きな時に飲む酒が最高なんだろうが」
俺はその言葉の勢いのまま酒をぐびっと喉に通す
「あぁ〜!………そういえばあのエクソシストが白い炎とか透明化を使ってたけど、やっぱりあれか?魔法ってやつか?」
『この世界ではスキルとも呼ばれる。例えば火を出すスキルの〝点火〟、これは炎魔法の〝点火〟とも呼ばれる。基本的にはスキルと言うほうが定着してると思うが、魔法使いなんかは魔法と呼ぶやつが多い』
「じゃあこのお前の炎はなんてスキルなんだ?」
『スキルは初級、中級、上級、創造、踏襲がある。マタンとジュルネは学べば誰でも使えるようになる。ニュイも学べば誰でも使えるようになるが、その二つとは努力の差が圧倒的に違う。オーブは自分で開発もしくは生まれながらに持っていたスキルのことだ。一応俺のはオーブに属され、いつも放っているあの炎の名を業炎という』
「業炎か…めっちゃかっこいいじゃん!」
『え…あ…そう…か…』
なんかこの悪魔めっちゃ照れてるんですけど…
かわい…くは無いな
『あとドュマンはオーブを血筋や組織内なんかの限られた者のみに受け継がさせたスキルだ。おそらくウルイとか言う奴は「エクソシストの白イ炎」と言っていたからあの白い炎はエクソシスト内でのドュマンスキルだろう』
「なるほど、覚えておくよ」
そう言いながら俺は食べ終えた食器を返そうと立ち上がるとクエストの掲示板前にいたギルド職員がベルを鳴らした
リンリンリン
するとそのギルド職員は全体に通る大声で、
「たった今、未だ探索途中にある世界最大のダンジョン、エンドレスアビスの探索クエストが届きました!隠された秘密部屋!未発見の宝箱!未知のモンスターが貴方を待っていますよー‼︎」
そんな危ないクエストをなんで祝い事かのようにベルを鳴らすのか意味不明だったが、ベルと同時にそれを聞いたムキムキの男性冒険者たちが続々と掲示板の前に駆け出した
「ついに来たか!」
「何年ぶりだろう!」
「冒険者の夢が待ってるぞー!」
俺は呆然としていたが、流石は荒くれ冒険者たち。危険を厭わないな。
そしてこうした荒くれ冒険者たちが食いつくということは…
『おいカイセイ!未知のモンスターだってよ!これは行くしかないだろ!』
「なぁでも今日は一際危ないクエストやったし、しばらく雑魚モンスターで休憩させてくれよ」
『いや、貴様に拒否権はない。睡眠時間が無くなってもいいのか?』
「ぐっ………」
いつも通り俺は悪魔の食いつきには抗えない
「それでは明日エンドレスアビス行きの馬車が複数乗り場に参りますのでご希望の方は受付を終えた上で明日そちらに参りますようお願いしまーす!」
◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆
次の日、俺は案内通りに乗り場から馬車乗り込んだ。
そして俺に続くように他のお客さんも乗り込んできた。例よってむさいムキムキの男性冒険者たちだがな。
4人乗りの中にガタイがいい男が詰め込まれ、男子更衣室みたいな独特の匂いが包み込まれた
「臭え…」
「エンドレスアビス行き発車しますよ〜」
運転手が手綱を揺らすとタイヤが回り、カタカタと音を出しながらゆったりと馬車が動き出した
馬車の中には木彫りの女の子を愛でてる奴が1人、アイドル調の歌を口遊んでる奴が1人、美少女の写真を見てニヤけてる奴が1人。確認するが、全員むさい男である。
俺はギャップはここまでやり過ぎるとキモいんだと分かった。
『趣味はそれぞれなんだから嫌悪するなよ』
なんだコイツは、悪魔のくせに…!
やはりギャップというのは人間の美男美女だから可愛いんだなぁ
俺はこの異様な馬車内から目を逸らすように窓の外に目を向ける。
「いいな…」
視線の先には草いっぱいの野原の碧い地平線に放牧だろうか、牛や山羊がマイペースに草を食べていた。
こうしてみると、この世界も悪くないな。そうだ!第二の人生の拠点は牧場でもいいな。
そんな感じに外を眺めていると、道の先に目的地らしき看板が見えた。
「ん?………ここ、ダンジョンだよな?あの危険なダンジョンだよな?しかも世界最大なんだよな?」
俺はその異様な光景に思わず看板を何度も確認する。
だが案の定馬車はその看板の前に停車した。
「しゃあ!冒険の時間だ!」
「ここで俺は勝ち組になる!」
「燃えてくるぜ!」
馬車をウキウキで降りていく過剰ギャップズたち。そして過剰ギャップズたちは遊園地のような受付所が構えられ、遊園地のように風船やら噴水やら屋台やらが並んでるダンジョン前の広場に子供のように走り出した
「なにこれ?」
俺は列の流れのままに受付を済ませると、意味不明なキャラクター着ぐるみが出迎えた
「こんにちわー!エンドレスアビスのオリジナルキャラクター、ビスニャンだニャン!記念にキャンディあげるニャン」
「……………」
バカにしてる?