会長代理の仕事#1
私はタカティン・モーントシュタイン。
「さて、それではアハートから業務を引き継いだので、しばらくは私がリベルタ商会の会長代理として仕切らせてもらう。」
訳あって今日からリヴェルタ商会の会長代理をする事となった。
「 「「「よろしくお願いします。」」」」
リヴェルタ商会に所属するアンドロイドと社員達に挨拶し、さっそく。
「ではまず最初の仕事だが、ロア、ウィッシュスター特殊技術研究所にアポを取ってくれ。」
「判りました〜、って! ちょっ! 本気?」
ロアが明らかに狼狽しているが気にせずに続ける。
「もちろん本気だ。アハートから受け取った仕事を精査したら5割方はここが絡んでいる。ならば真っ先に潰してしまうのが最も効率が良い。」
「いやいやいや、それは絶対止めたほうが良いって。下手に突いたらどんな損害が出るか判ったもんじゃないし。」
「ロアの言う通り。あそこだけは『触らぬ神に祟りなし』、避けて通るべき。」
双子のアンドロイドは2人して必死に反対をする。
まぁ無理もないだろう、今までアハートが散々な目にあって来ているのだから。
「だが彼処はこのまま放置して良いところではないぞ。問題を先延ばしにしても解決はしないし、むしろ色々と悪化しているじゃないか。」
「それは……」
「今回は良い機会だ。片付けてしまおう。」
皆の前で言い切った。
ロアとミーシャをはじめ、皆の顔が絶望に染まった。
*
ウィッシュスター特殊技術研究所にアポを取った結果、3週間後に所長であるモリス・ネルトリンゲン氏と会う事となった。
彼はとにかく思い付いたものを試作して実験する事を繰り返す人物だという。
今何らかの研究に没頭しているらしく、他のことが手に付かない状況なのだそうである。
さすが事前情報通りの研究狂であるようだ。
研究者という人種は大抵何かしらの強い拘りを持った変人である。
夢のような理想を追い求めて研究に没頭する者、乾いたスポンジのように知識をいくらで吸い上げる者、ただ一つの事に思索と試作と実験を延々と繰り返す者などなど。
私もこの手のタイプは観察対象として非常に興味深い。
彼との対話がどの様な末路を辿るのか、楽しみだ。
「それはそれとして、この孤児院への日用品の販売価格が利益を完全に度外視しているのは?」
「それは会長が個人的に決めた事で、決して譲らなかったから。」
私が今手にしている見積書について、ミーシャが答えた。
「……ふむ、会社としてはよろしく無いが、社会貢献という意味ではプラスにはなっている。リヴェルタ商会の評判が比較的良いのはこういう事の積み重ねか……。」
一呼吸おく。
「とは言え、利益が±0というものどうかと思うのだがね。むしろ運送費で足が出ている。」
「これに関してだけは、会長の意思を尊重して変えたりはしませんよ。」
ミーシャが強い口調で言い切った。
「判った、ならばこの件はそれで良い。では次の案件だが……発掘した大量破壊兵器は大半が劣化していて使い物にならなかったのか。」
次の報告書を捲り、内容に目を通す。
これは私が以前にとある仕事に関わった際に入手した情報を元に、ソキウスが調査と発掘を行ったものだ。
実質的にはリヴェルタ商会子飼いの冒険者ギルド『古の歯車』が秘密裏に行ったのであるが。
「おかげで処理する手前が省けて良かったけどね。それでも起爆装置とか推進機関とかは全部回収、細かくバラしてロドスのジャンク市場に流してそこそこ利益が出たよ。」
ロアが報告書の内容を補強する。
「では次……」
かくして、リヴェルタ商会としての業務とソキウスとしての業務を粛々とこなして行ったわけである。





